2021年1月18日月曜日

0250 イングリッシュ・アサシン―美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ(論創ミステリー)

書 名 「イングリッシュ・アサシン―美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ」 
原 題 「The English Assassin」2002年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 光伸 
出 版 論創社 2006年1月 
初 読 2021年1月17日 
単行本 386ページ 
ISBN-10  4846005577 
ISBN-13  978-4846005573

 爆弾テロ、多過ぎである。いったいこのシリーズで、ガブリエル・アロンは何回爆弾テロに遭遇するのだろうか?
 両腕に怪我をして、特に右手は腱の状態が良くないからきちんと手術をしないと動きが悪くなるだろう、とまで医者に言われて、しかもその後で散々ボコられてぼろぼろにされるし、これまでコートランド・ジェントリーのことを負傷の多い奴だと思っていたけど、ガブリエル・アロンはコートのはるか上を行く。

 さて、最近ではハーパーブックスから出版されているガブリエル・アロンシリーズであるが、こちらは論創社より出版されているシリーズ最初の4冊のうちの2冊目。ヨーロッパにおける現代史の暗部。ナチスとどのような関わりを持ったか、というテーマは、ヨーロッパ各国の記憶の深部に横たわる十字架だ。スイスに秘匿された、ナチスの隠し財産。フランスのユダヤ人から収奪された多くの美術品が、スイスに流れ込み、現在も個人の所蔵家や銀行の地下金庫に秘匿されている。戦中、ナチスの協力者だったある銀行家は良心の痛みに耐えかね、自分が秘蔵している元はユダヤ人から略奪された名画の数々を、秘密裏にイスラエルに返還しようとする。しかし、それは彼の「仲間」にとって許すベからざる裏切りだった。

 イスラエル諜報組織側がスイスの銀行家ロルフの元に立てた使者は美術修復師のガブリエル。名画コレクションを所蔵するコレクターである銀行家を訪問するには格好の人選だった。しかし、ガブリエルが訪問したとき、銀行家はすでに死体になっていた。そして、殺人への関与を疑われたガブリエルは警察に正体を見破られ、拘束されてしまう。

 シャムロンの手配で難を逃れたガブリエルは、失われた絵画を探すために、ロルフの娘であるヴァイオリニスト、アンナと逢う。さらにロルフの美術顧問をしていたパリの画商を訪れると、画商が爆弾テロの標的にされる。危険を察知して現場を離れつつあったガブリエルの頭上にも爆風で割れた周囲のビルの窓ガラスが降り注ぎ、頭部をかばったおかげで両腕に負傷。医者を連れて支援に出張ったウージ・ナヴォトと落ち合い、その場で治療を受けるものの、きちんと手術をやり直さないと右手に支障がでるだろうと警告される。しかし、作戦の渦中でのんびり治療に専念できるわけもない。ガブリエルはそのまま追跡を続行。
 著名なバイオリニストであるアンナ・ロルフもガブリエルに協力し、やがて、ある銀行の貸金庫に収められたロルフのコレクションを発見して、英国の画商イシャーウッドの元に運び込むことにひとまず成功する。ガブリエルは、さらに隠されているはずの美術品と、それを所蔵しているナチスと繋がるスイスの地下組織を暴く為に突き進む。

 この地下組織が、ガブリエルを抹殺するために雇ったのがコルシカの殺し屋。仕事を請け負った「英国人」はガブリエルの殺害に動くが、ガブリエルの動きを追ううちに、自分が請け負っている仕事に疑問が生じて・・・・・
 この「英国人」、コートランド・ジェントリー並みの「お人好し系」である。隠しきれない人の好さと、紛れもない技術と、自分の意図とは無関係に組織からこぼれ落ちてしまった悲哀がまた、グレイマンぽい。そしてラストでは頼まれもしないのに、ガブリエルの仕事を人知れず肩代わりするあたり、美味しいところをさくっと持っていっている。コルシカ島の庇護者にも、友人(この本ではまだそこまで到達していないけど)にも恵まれるこの「英国人」は、そういう意味ではグレイマンよりかなり幸せな奴である。

 さて、地下組織の根城に乗り込もうとしたガブリエルは、裏をかかれて殴り倒されてつかまってしまう。殴る蹴るの拷問を受け、その惨状は例えるなら作品『拷問室の男』。自分を客観視するときにはついキャンバスに描かれた絵を想像するところがガブリエルらしいっちゃ、らしい。協力者の力で命からがら脱出はしたものの、負傷は全身に及び・・・・・書かれていなかったが、右腕のガラスによる裂傷もちゃんと再治療したんだろうな? テルアビブで治療を受け、イギリス、コーンウォールの海辺の自宅コテージに戻るのに3ヶ月の時間を要した。なんというか・・・・本当に、この人、怪我が多い。そして、すっきり悪を倒して一見落着、ということにならないのも、ダニエル・シルヴァらしい幕切れである。そんなに単純に事はおさまらない、だけど時間は進んでいくし、傷は時間に癒やされるものでもある、という哲学めいたものを感じないでもない。(←かなり無理がある。)
 
 ハーパーBooksのシリーズは14作目以降なので、ガブリエルは次期〈オフィス〉長官に内定していて、作戦についてもどちらかといえば指揮官であったり、作戦そのものも頭脳戦・諜報戦だったり、地味に落ち着いている感じがそれはそれでイイのだが、このシリーズ冒頭の作品群ではまだ、ガブリエルはシャムロン麾下の一介の「暗殺工作員(キドン)」であり、ストーリーも相当荒事寄りなようだ。とはいえ、外見上年齢不詳なガブリエルも実は50歳だったりして、あまり無茶はさせないで欲しい、とつい思ってしまう。それから、商売道具の利き手は大事にして!(あと、いくら年齢不詳とはいえ、五十男にしては台詞廻しが軽い。なんか親に反抗するティーンエイジャーみたいで、もうすこし落ち着いた感じに訳出できなかったものかと。。。。)

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