2023年3月5日日曜日

0418 動乱星系 (創元SF文庫)

書 名 「動乱星系」
原 題 「PROVENABCE」2017年
著 者 アン・レッキー    
翻訳者 赤尾 秀子    
出 版 東京創元社 2018年9月
文 庫 448ページ
初 読 2023年2月19日
ISBN-10 4488758045
ISBN-13 978-4488758042
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/112413918   
 アン・レッキーの『ラドチ戦記』シリーズは私の最愛の一作(ってか三冊だけど)。これはその同じ宇宙の物語で、ブレクの物語と同時並行的に進んでいる。
 “蛮族”プレスジャーによるコンクラーベが開催される、その原因はラドチ圏内の内紛とAIによる独立騒ぎ・・・・ということで、件の独立派AIであるブレクと、“彼女”が率いる二星系暫定共和国は今ごろどうしているんだろう? ブレクは仲間に囲まれて幸せにしているだろうか?
 プレスジャーの言うところの〈価値ある存在〉であることを主張して、自らの存在を示したブレク達に対応するため、プレスジャーはふたたび“コンクラーベ”を招集しており、今回の舞台「フワエ」の星系には、そのコンクラーベに参集するために、異種族ゲックの大使が乗った船が寄港している。

 今作の主人公は、ラドチからみれば辺境の、フワエ星系の人類社会に生きる女の子、イングレイ。今回は、まさに女の子といった形容がぴったりなちょっと破天荒で健気なイングレイが、文字通り、一生懸命頑張るお話である。前作にくらべれば相当に素直な舞台設定ではあるのだが、なかなかどうして、一風変わった世界観に仕上がっていて、これまた一筋縄ではいかない。

 今回登場するゲックは水生生物で、その形容から、『栄光の旗のもとに』に登場するナマズ系のプフェルング人を連想するが、ゲックの支配星系で暮らしているゲック化した人類もいる模様で、その人たちは人体改造でえら呼吸できるようになっているとか。また、ルルルルルは、今回は登場しないが、その形容は、オクテイヴィア・バトラーの『血を分けた子ども』に登場するムカデっぽい異星人を思わせる。ラドチ文明は男女を区別しない文化で人称代名詞が「彼女」しかないのが大きな特徴だったが、こちらフワエの宙域では人類は、男性、女性、無性の三つの性があり、恋愛・結婚ともいずれの組み合わせも可、人称代名詞も3性分用意されている。そして、ストーリーにさりげなく混ざりこむ恋愛感情。ちょっとまて船長!いつの間にそうなった?

 遠未来SFなのに、登場人物が等身大で、かつなんとなく鄙びていて土俗的なのもアン・レッキーらしい特徴。基本的な衣類がルンギで、裸足で歩くことも厭わないだけでなく、床座に近い生活様式。通貨よりも物物交換にちかい経済制度なのも、おもしろい。「遺物」と言われる民族や一族の歴史や由来の証になる物に対する強い思い入れや、モノや記念品や記録に対する、独特の愛着や執着。物の真贋よりも、それが何かを物語り、他者にその物語を主張することができ、自分も周囲も騙せるのであれるかどうかのほうがよほど大事。遠未来の人類が宇宙で根なし草になりつつあり、それゆえ切実にルーツを求めてやまないのだろうか。

 前作のラドチ3部作では、おもいっきりジェンダーに揺さぶりを掛けられたが、今作では物に対する価値観が揺すられる。その一方で、普遍性を持つのが、親子の情。そして、複雑な文化的背景を踏まえてさらりと表現される人間同士、人間×異種族の愛情。最後が船長×ガラルの男同士カップルとイングレイ×トークリスの女同士カップルで締められるのは、なんとも今風。
 全体的には、遠未来SFでありながら、あまりSFっぽくなくて、ちょっとどんくさい成長譚であって、自分の持ち場を心得て、等身大で生きて行くことの尊さや、未来への希望が感じられて、なかなか良い読後感だった。

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