2018年3月28日水曜日

0093 新・冒険スパイ小説ハンドブック

書 名 「新・冒険スパイ小説ハンドブック」
出 版 早川書房 2016年1月 
初 読 2018/03/28 

 架空の冒険スパイ小説全集を作るために、選書で喧々がくがく、という楽しいハンドブック。
 5人の殿方が白熱の議論をしているのが何やら面白い。(とはいえ北上氏がかなり強引に決めているような気もする。)

 そして出来上がった架空の全集が、結構な割合で積読本が混じっているので、自分のラインナップも悪かあないな、とちょっと悦にいる。取り敢えず早く読みたいのはルッカのアティカスシリーズ(これはその後読了した)、ハンターの「真夜中のデッドリミット」、「アラスカ戦線」、ル・カレ全部、マイケル・バー・ゾウバーなどかな。手持ちの積読が尽きたらまたこの本に戻ってこよう。(しかし、積読書は増える一方で、すでに向こう数年分まで積んでいる。) 

 結構絶版本が混じってるようだ。これを機に再刊してくれればいのに。あと、グレイマンにあそこまで入れ込むなら、ヴィクターも混ぜてくれれば良かったのに、とは思った(笑)。

2018年3月26日月曜日

0092 スパイのためのハンドブック

書 名 「スパイのためのハンドブック」 
著 者 ウォルフガング・ロッツ 
翻訳者 朝河 伸英 
出 版 早川書房 1982年3月 
初 読 2018/03/26 

 元モサド敏腕諜報員によるスパイ入門書。
 スパイ適性テストから始まり尾行の練習から実際の諜報活動、果ては露見して投獄拷問から引退後の生活まで。

 でも実は愛する妻の惚気話のほうが本当に書きたかったことかもしれない。出張先のパリからドイツへの列車でスパイにあるまじき一目惚れ。旅先のドイツの避暑地で自分の正体を明かしてプロポーズ。そのまま任地(つまり敵地)のカイロにモサド上層部には内緒で妻を伴って、任務続行。で。曰く。

「私が紹介したエピソードは、秘密情報部員は自分の愛情生活をこのように取り扱ってはならない、という例である。」

 ちなみに、私にはスパイ適性は皆無だった。

2018年3月9日金曜日

0091 血の流れるままに

書 名 「血の流れるままに」  
原 題 「Let it Bleed」1996年  
著 者 イアン・ランキン 
翻訳者 延原 泰子 
出 版 早川書房 2007年6月 
初 読 2018/03/09 

 目の前で高速道路から身を投げた誘拐犯の若者。

 その死の選択に釈然としないリーバスは、事件の背景に分け入っていく。更に不可解な自殺事件があり、彼の捜査活動には政治的妨害が。

 未訳4作を間に挟み、知らないエピソードの断片が気になるが、特筆すべきは彼を信頼する部下がいる!ホームズは部長刑事となり、若手のシボーンはひたむきにリーバスを慕っているではないか!
 呑んだくれの五十男で、軍隊でも結婚でも失敗しての警察官人生は既に余生の趣さえあるリーバスだが、その感性や矜持は若々しく、青臭ささえ感じられる。このアンバランスが良い。 

 今作ではそんな彼を動かす動機というか、信念のようなものも垣間見え。
 上司として舞い戻ったかつての恋人ジルが保身に汲々とする一方で、リーバスの選んだ身を守る方法は権力への迎合ではなく徹底抗戦。
 このあたりは流石の軍隊上がりで、肝が座ってる。うじうじするところとやるときゃやるぜ、のヘンなバランスがリーバスの魅力でもある。


✓ 「働くために生きているのであり、本当の意味で生きるために働いているのだ。勤労を善とする、あの悪評サクサクの、プロテスタント風労働観を持っている。」日本人と気が合いそうだ。
✓ 「人の命一つと代えられるものはない」
✓ 「サー・イアンは悪党と同じ基本原則に従って生き、働いている。利己的でありながら、みじんもそれを表に出さず、・・・」
✓ 「これはウイリーとディクシーのため、トム・ギレスピーのためにやるのだ、・・・そして、体制がどのようにして動き、体制の中でどのようにして嘘やペテンや盗みが行われるか知らない人すべてのためにやるのだ。しかし何よりも自分のためにやるのだ。」 
✓ 「厚顔無恥な連中によって傷つけられた自分の良心は・・・」

 彼の心が、血を流し続けているのだ。