2020年7月17日金曜日

0209 アドリア海襲撃指令

書 名 「アドリア海襲撃指令」 
原 題 「To Risks Unknown」1969年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高津 幸枝
出 版 早川書房 1994年1月

 地中海で高速魚雷艇戦隊を指揮してきた男が、惨い経験を経て草臥れたコルベット艦の艦長に任命される。ジョン・クレスピン少佐(27歳)は、失望や期待やもろもろを胸に畳んで新たな任務に臨む。その彼を指して
「ファイルを読んだところでは、ちょっと盛りをすぎたって感じですかな。正規の士官だというのに、与えられたのはあんなおんぼろコルベット艦だけでうからね」と言う参謀士官。
 ジョン・クレスピンは地中海で高速魚雷艇戦隊を指揮していたが、ある作戦で味方の船は全滅、部下達と海中を漂い、励まし合いながら夜明けを待っていた。ところが、現れた艇に救助されると思いきや機銃掃射を浴びせられ。次々と仲間が殺され、なんとか生き残った二人の部下と夜明けに海岸に泳ぎ着き、そのあと3日間砂漠を彷徨うことになる。陸軍の斥候隊に発見された時には、部下が死んだことにも気付かずに担いでいた。
 そんな過酷な体験を経て、与えられた次の艇はくたびれたコルベット艦。それまで指揮していた魚雷艇と比べたら、酷使された足の遅いコルベットは、格落ちも甚だしい。《シスル》号(あざみの意)というからには例のフラワー級コルベットである。
 だがしかし、この艦は、ある任務のために特殊部隊司令官のオールダンショー少将が特に手にいれたものだったし、クレスピンの任命も、かれの輝かしい軍歴を買ってのものだった。

 任務は小規模な奇襲と陽動、現地抵抗組織との協働。現地指揮官はかなりクセのある人物。やがてそれは、単なるクセでは片付けられない危険な兆候となる。
 功名心あふれる上官の無謀な作戦立案のもと、無口であまり感情を見せない彼が、部下や現地の人々にも心を寄せて行動していく。戦争小説としても冒険小説としてもこれは骨太で面白い。エピローグの余韻はなんとも言えず、切なさを感じる。
 翻訳の高津幸枝氏は、「舵中央」にミジップ、「前進全速」にフル・アヘッド、等、英語の操舵号令のルビを振ってくれているので、その気になって声にだすとなお楽しいぞ。
 お約束の主人公の恋人は人妻でも未亡人でもないまともな美人を相手の恋愛路線で安心、と嵩を括っていたら、これまた大変なことに。彼の子供を身ごもっていたのに、イギリスに帰還する飛行機が行方不明に。おそらく撃墜。どこまでもクレスピンが痛ましい。それでも折れない。どれほど心が痛めつけられても、一人でも多くの仲間を救うべく、目は海図とジャイロを見つめ、操船を命じ、戦時の軍人の生き様を見せてくれる。
 とはいえパルチザンの口を借りた「こんなに愚直なまでに、しかも我が身の安全を顧みずに誠意を重んじるのは、英国人だけだ!」というリーマンの自画自賛には、ちょっと噴飯ものだとも思ったが。バルフォアに聞かせてやったら〜?

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