2020年8月9日日曜日

0214  起爆阻止

書 名 「起爆阻止」 
原 題 「Twelve Seconds to Live」2002年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高沢次郎 
出 版 早川書房 2004年3月

 リーマン御大80歳、35作目の作品で、年寄りの昔語り宜しく筆の遊ぶまま悠々自適な書きっぷりである(笑)。細かく時間を刻んで話が前後するので読んでいると迷子感が半端ないが、とりあえず面白い。
 主人公デイヴィッド・マスターズ少佐は老成して見える29歳。
 時折触れる頬の傷跡。元潜水艦乗り。かつて新造艦の指揮官として出航、港の鼻先で初潜行しようとしたその時、触雷して艦が沈没。まだ艦橋にいたマスターズは海に投げ出されて助かったが、部下は全員が艦と運命を共にした。一人生き残った罪悪感。喪ってしまった初めての指揮艦と年若い部下達。港は掃海してあったはずだった。
 死んだ部下達への贖罪から機雷処理の道を選び、危険な現場で働く部下達を常に思いやり、時には体を張って守る。マスターズはそんな人。
 もう一人の主人公は現部下のモーターランチの艇長フォーリー。そしてもちろん恋愛もある。だってリーマンだし、必需品なのだ。フォーリーの恋人はマスターズの潜水艦で死んだ乗組員の妹で、マスターズの運転手を務める婦人部隊員。マスターズだって当然恋愛する。だってリーマンだから。さてそんなマスターズが陸から海に戻った命がけの特殊任務。ラスト、主人公は死なないリーマンだと信じていたのに海に浮かんで動かないマスターズの描写に胸がきゅっとなる。
 後段、フォーリーは昇進し最新型の機雷敷設艇の艇長に。彼はマスターズの部下なのだが、マスターズが特殊作戦に組み込まれたため、ラスト数ページに至るまでほとんど作中での絡みがない。あそこにフォーリーの艇がなければ、マスターズは間違いなく死亡してたはず。いろいろと語られていない部分も含め、全部リーマン御大の頭の中ではうまく収まってるんだろうな、と感じる。それでもマスターズが滅法格好良いし、フォーリーも頑張ってるし、とにかく面白かった。
 原著のTwelve Seconds to Liveは、機雷の雷管が作動してから爆発するまでの設定時間のこと。ドイツの機雷は一番爆破の効率が良いとして12秒に設定されていたとか。もし機雷が作動してしまったら、この12秒で全速力で逃げ、物陰に身を伏せなければならない。そうそう上手くいくわけではなく、多くの機雷処理士官と兵士が、命を落とした。リーマンが繰り返しテーマに据えたモチーフである。

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