原 題 「Sacrifice(Burke Series Book 6)」 1991年
著 者 アンドリュー・ヴァクス
翻訳者 佐々田 雅子
出 版 早川書房 1996年7月
初 読 2021年7月17日
文 庫 463ページ
ISBN-10 4150796068
ISBN-13 978-4150796068
バークはニューヨークの裏側の生活に戻っている。家族の甘い幻想はインディアナに置いてきた。
ミシェルは性転換手術を受けるためにどこかに行っているが、どうも上手くいっていないようだ。
2歳の幼児が滅多斬りにされて惨殺された。現場には、兄の9歳の男の子もいた。そして次に、その子が預けられた養育家庭の実子の乳児が絞殺される。2人の赤ん坊を殺したのは9歳のルークだった。ルークはカメラを恐れ、地下室を恐れて、別の人格が出現、長期にわたる心身の虐待と性的虐待が原因となる多重人格の症状を示していた。ルークに虐待を加えていた両親は行方をくらます。
日頃から密接な協力体制にある児童虐待対策の専門部門(特殊被害対策事務局)を率いる検事のウルフと、児童保護のプロフェッショナルであるソーシャルワーカーのリリイはルークの扱いを巡って対立。リリイはルークを秘匿するとともに、バークにウルフとの仲介を頼み込む。リリイからの頼みを受け、バークはウルフのもとに出向く。
さて、バークは、何歳くらいなんだろうな?と考える。40代後半って処だろうか。細かい字で書かれた報告書を読むのに、書類を持つ手を伸ばす。もう少しで眼鏡が、、、などと考えたりしている。彼の心の中には虐待され、疎外された子供がずっと居座っているので、傍から見ると年齢不詳なのだが、今回初登場のクラレンスが「息子」ポジションに収まりそうな展開になってくる。
ブードゥーの巫女はバークの動機の曇りの無さを見定めて、助言を与える。
———「ほんとうにわかりますか? あなたは自分が赤ん坊の霊だということがわかりますか? 歩き回る霊だと言うことか?」p.295
———「あなたはそれを担っているのです。逃れることはできないでしょう。死ぬまでは。でも、恐れることはありません。悲しみを宝とするのです。この世にあなたの幸せはないでしょう。ですが、あなたの霊は戻ってきます。新しく、きれいになって」「憎しみなしにですか?」「憎しみはあなたの霊の役目です。あなたの真の道は正しく憎むことなのです。霊を損なわないよう気をつけなさい———魂を危険にさらさないように」p.429
ルークの両親を法で裁くのが困難なことがわかり、バークは彼らの始末を暗黙のうちにウルフから引き継ぐ。武器商人のジャックから銃器を調達し、バークはファミリーたちと彼らの潜伏先に奇襲をかける。しかし、バークはそこで取り返しのつかないミスをしてしまう。
敵の地下室に連れ込まれていた子どもを、巻き添えで殺してしまったことで、バークは自分の魂も殺しかける。ファミリーの誰にもそのことを告げなかったが、ルークを見た瞬間に悲鳴を上げた。
ここから、バークは自分の意志に関係なく世の中から背負わされたものだけでなく、自分の責任により負ったものも背負って歩きださなければならなくなるのだ。バークシリーズの一つのターニングポイントである。本当は、このシリーズはここで終了となるはずだったらしい。シリーズがこの後も続いて良かった。このままではあまりにもバークに救いがないので。ここからのバークの回復をこの目で確認したいと思う。
———俺は今、この世にいる。自分の霊が歩き出すのを待っているのだ。
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