2021年6月26日土曜日

0278 ブルー・ベル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ブルー・ベル」 
原 題 「Blue Belle (Burke Series Book 3) 」 1988年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1995年4月
初 読 2021年6月25日 
文 庫 581ページ 
ISBN-10 4150796033 
ISBN-13 978-4150796037 

 性愛も情愛も純愛も一緒くたになって、ベルからバークに流れ込んでいく。お願いだからベル、そんな風にバークを愛さないで。彼が彼女を失って傷つくのを見る予感が辛い。

 始めから悲劇的な結末しか見えない、男と女の出会いである。間違っても美人ではない大女のストリッパーのベル。彼女は近親相姦の結果の子で、外目には見えにくい遺伝の傷が沢山ある。ベルはそれを知っていて、子供は産まない、と決めて不妊手術を受け、一人で生きていくことを決めた。でも一人では寂しくて、愛を与えることができる男を捜し求めている。
 一方のバークは、細かい経緯は明かされていないが孤児院で育ち、職業里親や少年院を渡り歩き、17歳になってからは殺人未遂で成人の刑務所に収容され、学校ではなく刑務所で、アウトローとして生き延びる術を学んできた前科27犯である。
 彼自身が児童虐待、そしておそらくは幼児性愛の被害者で、それ故に子供を食い物にする犯罪者を激しく憎み、抹殺することも辞さない。そして、彼もまた自分が子供の親になることを拒絶し、すでに自身に不妊の処置を施していることが、この話のなかで明かに。
 決して治癒することも、完成することもない孤独な人生を抱えた二人が、少女売春婦を標的にした事件の依頼を契機に出会うのだ。

 バークは詐欺で小金を稼ぎ、裏町の弱者から依頼をされれば探偵のまねごとも始末屋も請け負う裏稼業。短軀の黒人、廃品置き場の科学者、聾唖の武人、女装の麗人、中国人の商店主で街の顔役のママ、児童売春の元男娼だった少年、そして巨大なナポリタン・マスチフの雌犬パンジイが彼、バークの家族である。本当の家族より強い絆で結ばれ、本当なら親の愛でうまるはずの場所に友情を注ぎ込んで、それでも埋めきれない寂しさも引っくるめて抱えながら強烈な意志で生き抜くサバイバー。
 そんな彼が、街に立つ娼婦を標的に殺戮を繰り返す謎のヴァンを追う。狙われていたのは、路上の少女売春婦達である。一方で、そこに絡んでくる殺人武闘家が、赤ん坊を授かったばかりの聾唖の武人マックスを付け狙う。マックスは挑戦を知れば武闘家として受けて立つに決まっているが、赤ん坊とその家族を守ること以外の選択肢を持たないバークは、マックスを危険から遠ざける。

 バークのひりひりする生き様から目が離せないピカレスクであるとともに、バークの欠けた部分にベルの無私の情愛がしみこんでいくリリシズムがないまぜになって、全編にわたる二人の情交が深まるほどに、来たるべき破局のエネルギーが高まっていく。一気読みしたいのに、緊張感が高まりすぎて、とてもじゃないがそんなこと出来ない。

 ラストの、ベルを抱きしめたまま地面に横たわるバークの悲嘆が苦しい。

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