2022年1月16日日曜日

0317 堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ」 
原 題 「SIRENS」2017年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2019年8月
文 庫 618ページ
初 読 2022年1月16日
ISBN-10 4102401512
ISBN-13 978-4102401514
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/103806351   
 タイトルの「堕落刑事」はややミスリード気味で煽りが強いかな。このタイトルと、“―押収品のドラッグをくすねて停職になった刑事エイダン・ウェイツ。”という謳い文句に騙されて、長いこと興味が湧かずに手を出さなかったのは事実だ。しかし、読み友さんのレビューはなかなかに興味を引く。ついでに3作目の『スリープウォーカー』の帯の惹句があまりにもあんまり(笑)なので、まとめて読むことにした。
 
 ちなみにその3冊目の帯はこれ ↓
 まあ、この惹句が正しいかどうかは、3作目をよんで判断するとして、そのためにもまずはこの一作目を読まなくてはならない。
 というわけで読んでみた。

 
 で、まず、冒頭の感想。
 タイトルがミスリード、と思ったのは最初に書いたとおり。これは多分損してるよな。堕落刑事どころかエイダン・ウェイツ、なんというか真っ直ぐで不器用だけど、ちょいと破滅型だけど、いい奴じゃないか。ただ、損な生まれつきの人間は一生損をする見本のような、負け犬人生を素で歩んでいそうではある。
 同僚の卑小な不正を見逃せず、さりとて真っ向から抵抗もできず、自分にできるささやかな証拠隠滅を図ろうとしたら速攻でバレて、証拠品横領の泥で頭のてっぺんからつま先まで真っ黒にされてしまう。おまけにマスコミに都合良くリークもされて、もはや隠れるところなき「汚職警官」の一丁上がり。そして、崖っぷちに立たされて、都合良く麻薬密売組織への潜入捜査員に仕立て上げられるわけだ。

 だがこの話、さすがはイギリスの小説というべきか、アメリカ・ミステリにはない深みがある。明確な善悪でくくれない登場人物たち。悪の親玉までが良いヤツに思えてくるのが不思議で、だれもだれもが不思議な魅力を湛えている。全部が自分は悪くない、と心底では思っている節がある。そして、エイダンはこれでもかと殴られ、殴られ、階段から落とされ、ボロボロ。とにかく哀れなのである。
 そこまでボロボロでも、それぞれが大なり小なり清濁合わせ呑むところが、さすがの英国風だと感じるゆえんだ。この世の中は、国家のありようそのものが若気の至りなアメリカ人が考えるほどには単純ではない。小説世界もまた然り。母親に捨てられてて、幼い妹と施設に入れられたエイダンが、せめて妹だけでも良い里親に引き取られるように、と願う。妹を手放したときから、妹にイメージが重なる若い女性を守ることが、彼の生き方を決めている。最後のキャスとの別れが妹との別れと重なって、無性に切ない。
 
 いやこれ、面白かったです。珍しくも1日で読み切ってしまう、というリーダビリティは翻訳者の池田真紀子氏の手腕でもあろう。当然、後2冊も読む。
 エイダンにほんのちょっとは幸いあらんことを祈りつつ。

 ちなみに、このエイダンもバークと同じ孤児院育ちだが、同じく「児童養護施設」とはいえ、二人の仕上がりにはずいぶんな差がある。これも英国と米国の懐の深さというか歴史の違いなのだろうか。

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