著 者 ポール ギャリコ
翻訳者 東江 一紀
出 版 復刊ドットコム 2014年4月
文 庫 上巻/197ページ 下巻/225ページ
ISBN-10 上巻/4835450515 下巻/4835450523
ISBN-13 上巻/978-4835450513 下巻/978-4835450520
初 読 2022年1月10日
読書メーター
“人間は誰でも、程度の違いはあるが、二重の人生を営んでいる。自分の頭の中にある自分の人生と、友人や同僚の目にうつった自分の人生だ。”
東江一紀さんの翻訳による児童書、ということで目を引いた作品。主人公は冴えない小太りの中年男でこの冒険譚!しかも1939年の出版でこの内容。よくぞ書いたり。 東江さんによる「訳者あとがき」は必読。この作品が書かれた時代背景が簡略に述べられていますが、あの当時の情勢を、アメリカで創作活動をしていたポール・ギャリコが的確に捉えていたのはすごい慧眼だと思う。さすがは記者、というか、ギャリコの父はイタリア人、母はオーストリア人で、アメリカに移民したというから、父祖の地の当時の情勢に人一倍敏感だったのかもしれない。(このあたりの事情は下巻の解説に詳しく書いてあった。)
見栄えもしない冴えない中年の米国人であるハイラム・ホリデー氏に連れられて、イギリス、フランス、チェコスロバキア・・・・(ここまでが上巻で、下巻ではドイツからオーストリアを経てイタリアに向かう。)とヨーロッパを股にかけた冒険を追いかけつつ、ハイラム氏とともに、ナチス・ドイツの暗雲がヨーロッパを覆い尽くすのをひしひしと感じる。その危機感を大西洋を挟んでまだまだ暢気な米国に伝えたようとしたのだろう。アメリカが参戦するのはここから3年後の1941年。日本による真珠湾攻撃を待つことになる。
下巻は、いきなりハイラム・ホリデーの死刑宣告?! と刺激的な展開となる。ハイラムは、ベルリンに入った当日に“クリスタル・ナハト”を目撃する。目撃するだけでなく、ガマンしきれずに衝動的にSS(?)に殴り掛かり、居合わせた血に飢えた群衆になぶり殺しにされそうになる。そこに助けに割り込んだ絶世の美女。ハイラムは勢いにまかせて・・・・・大人の世界に突撃だ!(これ、児童書だったよな??)
その後のオーストリア編では、これはサウンド・オブ・ミュージックの原型では?と思えるような、民謡を聴かせるレストランからの逃亡劇して教会の墓所へ身を隠し、決死のアルプス越え。いやすごい。重ねていうが、1939年の作品なのだ。
そして、ローマ編。ハイラムは、彼の命を奪わんとするファシスト達の陰謀で、後に引くことのできぬ決闘に引き込まれる。。。。。
下巻の解説を読めば、ハイラム・ホリデー氏が著者ポール・ギャリコの、かくあれかし、という夢の人格であることが判る。まさに冒頭の、“人間は誰でも、程度の違いはあるが、二重の人生を営んでいる。自分の頭の中にある自分の人生と、友人や同僚の目にうつった自分の人生だ。”という一文のとおり。
【第二次世界大戦 概略(アメリカ参戦まで)】 |
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