2022年12月1日木曜日

0402 IT AIN'T NECESSARILY SO <矢代俊一シリーズ17>

読書メーター:https://bookmeter.com/reviews/110477799  

Amazonより・・・「勝又英二の目を盗んで金井恭平と会うための飯島由梨との大阪ライブだったが、大阪駅に到着した俊一を待つ人々のなかに金井の姿はなかった。しかし、かつて第1次矢代俊一グループのドラムだった森村類と再開、ホテルの部屋で久しぶりに話をする、しかし、一人になると金井恭平への思慕は募るばかりだった。そして二日目のライブの後だった。またもホテルまで送ってきた森村類は、俊一の部屋の前で突然俊一にキスをしたかと思うとすぐに謝り逃げるように去り、呆然とその後ろ姿を見送る俊一に何者かが襲いかかった。矢代俊一シリーズ第17巻。

 「《毒を喰らわば皿まで》検証:『トゥオネラの白鳥』の展開には合理性があるのか!?」企画 継続中。しかし、だんだんとしんどくなってきたぞ。この巻も、なんかいろいろとダメだった。
 透はこの巻は、電話の会話で登場。しかしエロエロである。恥ずかしげもなくテレフォンセックスよろしく俊一に絡む。なんだかなあ、透のちょっと下卑に振る舞ってみても、どことなく品がある感じがもはや面影もないんだよなあ。もう、スレきってる。セックスセックス言い過ぎでキモい。一言でいえば下品。あんた、何年も島津さんのところで枯れてたくせになにを偉そーな。透が読むに耐えたのは、14巻くらいまでだった。ここらへんで『トゥオネラの白鳥』ヴァージョンの透が完成の域に達してると思われる。なんというか、本当に品がない。

 内容は、まあ、俊一がひたすら二股恋愛に悩んでます。ただただ、グダグダ、ぐだぐだと考え続ける。金井以外の男にキスされたと言っては金井にレイプされ、金井に捨てられるといっては、心中をせがみ、疲労困憊したといっては、高熱を発して昏倒し、英二と父にはこの上もなく大切にされ、その間ずっとただ、ぐだぐだと。例の脳内ダダ漏れモードです。
 正直言って、全ページ読む必要ないと断言できる。5ページに1ページぐらい、さらっと読むだけで十分よ、コレ。全編を覆う、某大河漫画「〇家の紋章」くらいのマンネリ感。どこかで読んだことのあるフレーズの集大成。音楽シーンとしては、大阪の客演ライブとか、おなじみのライブハウス「エデン」の定期ライブとか、トピックとしては、俊一の飛躍とピアニストの晃市の伸び悩みとか、1巻で登場した西荻窪のジャズ喫茶『マイルストーン』の再登場と英二の過去話とか、ないわけじゃないんだけど、さしたる凹凸はなし。
 そしてやはり気になるのは、薫サンの浅薄・・・・というか思慮のないトコロ。例えばね。

「同じ20代でも、29歳の英二はすでに人生の辛酸を舐めている。少年院にも入っているし、そもそもの生まれ育ちが、ホステスの母の私生児で虐待されて育ち、義理の父のやくざに性的ないたずらをされ、その義父を刺して鑑別所送りになる、というドラマチックなものだ。」

 この英二の人生を「ドラマチック」と形容しちゃう軽さが、薫さんの薫さんたる所以だと思ったよ。 あとね。

 金井の妻のさっちゃんがついに亡くなるんだけど、末期の意識不明の寝たきりになっていたサチを見かねて、金井が安楽死させた、という。いや、医者に頼んで呼吸器の酸素チューブを抜くとか、今の日本では無理だから。それ、医者が殺人罪に問われるからね。

 終盤、唐突に渥美銀河が登場し、俊一に懐く!あの、敵愾心ムキムキで、俊一に嫌がらせしてPTSDの発作の原因になっていた渥美家次男ですよ。そしてどうしたわけか「お友達」モードに突入。こうして、また、俊一のファンが増える。

 これ、もうね。小説を読んでいる、という気分にならない。薫サン。あなたは、それほどまでに愛され、大切にされ、甘やかされたかったのね。

 徹頭徹尾、薫サンの肥大した自意識を見せつけられてる感じです。今的にいうなら、薫サンは愛着障害なんだと思う。矢代俊一は、彼女のブラックホールのような自己承認欲求の顕現に過ぎない。俊一は、誰よりも天才で、誰よりも美しく、誰よりも透明で、才能があり、そして不幸で、周囲の全ての人間に愛されて止まない。薫サンの未熟である意味、凶暴な承認欲求の顕現なのだ。

 そんな訳だから、本来美しいものであってほしいセックスシーンも、ただただ、キモい。美しくないし、そそられなない。

 ここのところ、BL作品を読み込んでいたが、栗本薫の作品は、この間(つまりJUNEや風木から始まって、キャプ翼の“やおい”なんかが中高生少女達で構成される同人界を席巻し、そこからメジャーデビューする人達が出てきて(当時のその代表格が高河ゆんだ。)書店にBLコーナーが出現してすでに久しい昨今まで、)それなりの時間をかけて成熟してきたBLの世界のある意味健康的な恋愛からはほど遠い。

 この作品を描いた2006年頃。癌に冒されて、自分の残りの人生をどう集大成させるかの考えどころのタイミングではなかったのか。それとも、刈り取り損ねた自分への関心と愛情をありったけかき集めることしか、考えられなかったか。これは、幼少期から思春期の欲求不満を拗らせ引きずった50代のおばさんの、未成熟な精神の書である。

 そしてついでながら、そんなこんなで、かつて薫サンの中で栄光の頂点を極め(?)、そして薫サンに投げ捨てられたもう一人のスターであった良の存在にも、憐れを催すのだった。

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