2024年4月4日木曜日

0475 警視庁公安J マークスマン (徳間文庫)

書 名 「警視庁公安J マークスマン 」 
著 者 鈴峯紅也
出 版 徳間書店 2016年5月
文 庫 396ページ
初 読 2024年3月31日
ISBN-10 4198941092
ISBN-13 978-4198941093
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/119912131 

 なんと純也の恋バナで終始した(?)初巻に続く2巻目も、組織の権力闘争の匂いがなんともきな臭いとはいえ、やはり表層は恋バナの風味が。ディズニーランドかよ!
 冒頭明かされる、純也の生い立ちの詳細。母が殺害され、純也が失われた経緯、その後のサウジアラビアの砂漠での、ベドウィンの一族との生活。そして族長の息子に連れられてわずか8歳での湾岸戦争参戦。純也が生活していた多国籍軍(?)キャンプへのイラク軍の攻撃、フランス人傭兵のダニエル・ガロアとの出会い、初めて銃を手にして戦闘。傭兵部隊に連れられて転戦したカンボジアでの矢崎との再会から、冷え切った親子の関係なんかも詳細に明かされて、なるほどなあ、と思う。初巻を読んだときの違和感はある程度は払拭された。
 だがしかし、戦場にいたのは11歳かそこらまでだった純也が、その後も武器操作・戦闘術の手腕を磨いているだけでなく、超一流のスナイパーの腕前もって果たして可能なのか? 体格だって、成長して変わるだろうし、どうやって訓練して、能力を維持したんだ。矢崎のところで鍛錬したっていっても、さすがに難しくないか? と、そのあたりはまあ、ファンタジーってことで不問に処すべきか。
 で、そこはさておき機龍警察、竜崎の隠蔽捜査シリーズに公安Jと読み継いできて、警察組織の内部のアレコレもそれぞれ作者・作品ごとに趣がある。もちろん色々でいいし、パラレルワールドみたいで楽しい。
 今回は「ゼロ」ならぬオーバー・ゼロ「OZ(オズ)」という公安の裏組織が登場。純也の父である小日向和臣総理大臣の暗殺未遂(=公安部長狙撃)、国内に入ったスナイパーの目的、日本各所でぶん回される陸自隊員(笑)など、動きがダイナミックでそこはかなり面白い。それに、矢崎サン。
 一緒に天幕立てて野営って、どれだけ猿を気に入ってるんだ(笑)。この人の行動力と行動パターンもかなり謎で天然で面白い。でも、天幕で寝るのが好きな陸将って、きっと部下に好かれるだろうな、と思う。

 で、さて。
 今作の事件をまとめると、(以下ネタバレ)
① 純也と公安部長に秘密を握られたと思ったヤクザが、蛇頭に二人の暗殺を依頼→第1のシュポ(Supperのハングル読み?)=蛇頭・・・なのに韓国人だってことに違和感はあるな。
②それを知ったダニエルが便乗して、第二のシュポに純也父(小日向首相)の暗殺を指令・・・理由は、純也を手元に取り戻したいと思ったから。
③さらにダニエルは第三のシュポに、作戦全体の攪乱と第二のシュポの監視及び失敗した場合の抹殺指令を与える。理由は、この男の能力を見定め、期待以上の成果をあげれば、仲間に引き込むつもりだったから。

 最初の狙撃で公安部長が負傷したとき、犯人の狙いが総理大臣だったのか、公安部長だったのか、で警察も見解が割れるが、思うに公安部長が標的だったのなら、部長を狙撃ポイントに誘導したエレナは、はっきりと黒。首相が標的で、本当にエレナが1100mの距離の狙撃を察知して首相を庇ったのだとしたら、エレナ自身の射手としての能力も極めて高いはず。・・・それを純也はディナーを賭けたゲームで確かめ、エレナの技倆はそこまででは無い、と判断。ならばエレナが首相を庇う行動をとれたのは、そもそも狙撃を知っていたから・・・なのでやっぱり黒。
 標的がどちらだったとしてもエレナは黒で、かつエレナ以外の狙撃手がいる。おまけに最初に確定されたシュポは体格からして“ハズレ”。ということは少なくとも、エレナ以外にも最低2人の敵がいる。いつものように、はにかんだような微笑を浮かべつつ、縦横に上司と部下と陸自を使い敵に揺さぶりをかけつつ、陰謀の輪郭を照らしだしていく。

 このシリーズは一話ごとに区切りがつくスタイルではなく、今作は〈カフェ〉事件が尾を引き、次作にはそれに加えてオズとの力比べやダニエルとの因縁も捩れていきそうだ。

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