原 題 「The Last Coyote」1995年
著 者 マイクル・コナリー
翻訳者 古沢 嘉通
出 版 扶桑社 1996年6月
初 読 2017/11/25
ボッシュ、嫌いな上司パウンズをぶん殴って強制休職処分と心理カウンセリングを義務付けられてる。ずっと一匹狼で何とかやってきていたのに、シルヴィアに人生を浸食されたあとポイされて、わびしい中年男になりかけているようだ。半壊した家にこだわるのは自分の内的世界の崩壊をこれ以上進めない為だな。だからあの女はやめておけ、と。。。。
カウンセリングに臨んだボッシュは青少年養護施設に不本意に収容された少年そのものの「不服従」を貫き。ボッシュは強権的に自分に踏み込まれるのが大嫌いなのだろう(経験的に)。もっともそんなこと好きな人間はいないだろうが、大抵の人は長い物には巻かれるもの。
「みんなまやかしだ。」ハリー少年の心の声が、40歳を過ぎたボッシュの口から発せられているような気がする。パウンズへの嫌がらせも兼ねてほぼ違法と思われる行為を繰り返すんで読んでいる方がハラハラ。バレたらクビじゃすまなかろうに。齢は40半ばでも、やっぱり少年のような純なハリーにドキドキする。
そしてついに来た。好感度の高いヒロイン!
自己愛たっぷりのうざさも正論吐きの嘘くささもないさっぱり味だ。これはイケるかもしれない。速攻で恋に落ちるボッシュ、なんたる恋愛体質(笑)。いくら主人公とは言えヒロインは必需品じゃあないだろうに。とはいえ今度こそ上手くいくといいね、と願わずにはいられない。
さて、脱線モードのフロリダをよそに、ロスでは大変なことが起きていた。奴が殺されてしまった!?まさか俺のせいか?ってか俺が容疑者かよ!ポッケの中には持っていてはいけない黄金のアイテム。ボッシュ危機一髪、というか完全に自業自得。
辛抱強くボッシュをかばうアーヴィングのおかげで、なんとか危機を切り抜け、さらに母を殺した犯人を追うボッシュ。例によって最後のひねりがあって、その真相は切ない。 アーヴィングの気持ちがいまいち計り知れない。ボッシュへの愛情も感じるし、本人の意図などまったく関わりなく撚り合わされてしまった人間関係を持て余しているようにも感じる。この二人の関係がこのまま進めば良いのに、と思う。(そうはならないと知っているだけにちと切ない。)
【ヘンな台詞シリーズ】
「おわかりか」は相変わらずの乱用ぶり。もう気にするのはやめようと思いつつ、気になる〜。「うんにゃ」もやっぱり気になる。マッキトリックとボッシュが言い感じに語り合ってるのに「うんにゃ」!や〜め〜れ〜〜〜!
ハリー少年には、母マージョリーの死後、少なくとも二人の力のある男(生物学上の父と社会的な父になり損ねた男)がいたはずなのに、まったく顧みられなかったのだ。彼らの一人だけでも少し手をさしのべてくれていたら、彼の10代はまったく違ったものになったかもしれない。もっともそれが幸せにつながるかどうかは別問題だし、そうだったら、そもそもボッシュシリーズの主人公は存在しなくなっただろうが。
【ボッシュ考その1/愛を知る男】
本書の解説はちと理解が浅いんじゃないか。ということで、ここでボッシュ考。
ボッシュを「愛情を知らずに育った」と説明するのは相当な見当違い。ボッシュの不幸は愛を知らないことにあるのではなく、10歳までの愛情豊かな生活を、突然公権力が破壊したことにある。彼の母はとても慎重に、愛情深く息子を育てていた。10歳までのハリーの記憶は愛情と幸福感に満ちている。発達心理の点からすれば、幼少時の愛着関係が築かれているということはその人の精神の安定にとって極めて重要だ。ボッシュが孤独であっても他人に依存せずに生きていけるのは、彼が愛を知っているからだ。
【ボッシュ考その2/組織人】
組織になじめない男、と決めつけるのもちょっと違うと思う。ボッシュは10歳以降ずっと集団の中で生きている。集団の中での身の処し方にはある意味長けている。
例えばポリスアカデミー時代、パーカーセンターの廊下に大胆ないたずらを仕掛けて同期のヒーローになる。集団の中で自分の立場を確保することが上手い。
『ブラック・ハート』では、アーヴィングが設置した特捜部の中で、自然にリーダーとして振る舞う。市警では仕事のできる現場の人間から信頼されている。
彼の組織の中にあって組織の力学に抵抗する頑なさや攻撃性は、少年時代に彼の人生の理不尽な支配者であった公権力への抵抗の延長戦だ。ボッシュは一生を現場で生きていくと思い定めた組織人として、組織を腐らす人間の欲望や、組織を硬直させる教条主義を嫌悪する。彼は組織の権力に抵抗する一匹狼ではあるが、そこを取り上げて組織に馴染めないと定義するのはちょっと違う。むしろ私は同じ組織人として彼の生き様を見習いたくすらあるのだけど。(ただし違法行為を除く!)
【ボッシュ考その3/マザコン】
ボッシュが恋愛体質なのは、孤独故の依存ではなくて、単にマザコンなんだと思う。きっとお母さんと二人で幸せだったころの心地を無意識に求めてるんだろうなあ。
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