原 題 「A Dangerous Man」2020年
著 者 ロバート・クレイス
翻訳者 高橋恭美子
出 版 創元推理文庫 2021年1月
文庫 480ページ
ISBN-10 448811508X
ISBN-13 978-4488115081
初 読 2021年4月18日
「エルヴィス・コール探偵事務所、いまならひとつ分の料金で手がかりがふたつ。割引料金あり」
「手を貸してくれ」
コールの声が真剣になった。
「なんなりと」
ジョー・パイク主役ものであっても、C&Pな由縁。パイクに手が必要になればコールが全力を尽くすし、コールに支援が必要であれば、パイクが駆けつける。すでに30年来の友情を「依存しあってる」と言い切っちゃうドレイコよ。それを言っちゃあおしまいじゃないか。あなた、思いっきり株を下げたよね。
パイクは、酒乱の父親の暴力に晒されて育ち、コールは精神疾患の母に振り回されて、ついには捨てられた心理的虐待の過去を持つ。(公的な児童養護の世話になって育った経歴がハリー・ボッシュと共通するのは、過去にレビューでも触れたところ。)コールとパイクの二人がいかに過去の軛を受け入れ、乗り越えてきたか、については未訳の『L.A. Requiem (1999)』から『The Forgotten Man (2005)』までの翻訳刊行を大いに期待したい。それぞれが欠損をかかえた存在ではあるが、自分の人生で欠けた部分に向き合って、努力と奮闘で乗り越えてきたことが、お互いを信頼し尊敬する由縁。それを依存といわれちゃあね。
さて、今作では「主役」パイクのエピソード多数。なかでも、彼が国防省のTS/SCI取扱許可証を持っている。というくだりは初耳。国防省の信頼の証し。国防省やCIAの請負仕事を数多くこなしてきた、という過去は、これまで邦訳ではあまり出てこなかった。ちらりとコートランド・ジェントリーを思い出す。大先輩だね♪ やっぱり、ジェントリーはロスでパイクの助力を求めればよかったんじゃないかと・・・・・(脱線)
さて、本筋にもどろう。
パイクが銀行に立ち寄ると、偶然にも銀行員の女性が白昼車に連れ込まれて誘拐される場面を目撃してしまう。追跡して難なく彼女、イザベルを救出。
「もう大丈夫だ。いま助けだす」 ああもう、助けてパイク!私も!とおねだりしたい。
そのイザベルが、再度誘拐され、これは市中の捜査が必要、とみて、パイクはコールに助力を要請。それが冒頭のやり取り。コールの緩急の切り替えに悶える。
さらに、イザベル救出の際、防弾ベストの上からとは言え、二発撃たれた衝撃で負傷しているパイクの着替えを手伝うコールに更に悶える。
着替えのTシャツを、どうやったら痛みが少なく袖を通せるか、と思案するパイクの手からTシャツを黙って取り上げ、頭からかぶせて、パイクがゆっくりと腕を通せるよう、シャツを支えるコールは、さすがに気遣い上手である。て、いうか、どこにも語られちゃいないが、『The Forgotten Man』でコールが大怪我を負った後では、パイクの方が何くれとなく世話をしてやったんだろうな、とか妄想して、一人で勝手に悶える。とにかく、大好きなシリーズで、大好きな人達なので、いちいちページを繰る手がとまって妄想タイムが差し挟まり、読むのに時間がかかること甚だしい。
無防備で敵の屋敷に侵入して銃撃戦で胸を撃たれたり(『モンキーズ・レインコート』)、全身を拳銃とサバイバルナイフで武装した状態で市中で警察に拘束されて、「戦争でもやるつもりか」と言われた(『ぬきさしならない依頼』)、シリーズ初期のころの描写と比べると、パイクの、ではなく著者の進化にもなんだかニヤニヤさせられる。最初の頃は、ベトナム帰還兵の社会不適合者としか思えなかったパイクも、いまでは米国政府の信任も厚い軍事請負人で、オーダーメイドの防弾ベストを常備し、市中では銃の所持に気をつかう立派な社会人に変貌している。戦争帰りの元軍人のイメージも情報量も、ランボーからだいぶ進化した。
で、まあ今回保護の対象となった女の子二人が、あろうことかメールで居場所を教え合っていたらしい、とか、言語道断だったりするものの、そこはあえてさらりと受け流し、救出のため、連邦保安官やロス市警の刑事と連携しての突入作戦。場所は映画監督ピーター・アラン・ネルソンの別荘。ああ、豪勢な屋敷が殺戮の舞台に・・・・・でも、まあ、コールのやることであれば、ピーターは許してくれるだろう。次の映画のネタにされるかもしれんが。
パイクとコールの息の合った突入作戦、自然と連邦保安官も主導するパイクの指揮官ぶりも素敵。ストーリにさほどひねりがないのはいつものことで、いいのだ、これはコールとパイクの友情とひととなりを悶え楽しむ本なので。。。。(爆)
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