原 題 「One Minute Out (Gray Man) 」
著 者 マーク・グリーニー
翻訳者 伏見 威蕃
出 版 早川書房 (2020/11/19)
初 読 2021/0/02
文 庫 420ページ
ISBN-10 4150414726
ISBN-13 978-4150414726
その1「下手の考え休むに似たり。」
その2「案ずるより産むが安し」
まあ、ジェントリーの本能、もしくは制御不能な暴れ馬的良心が選んだ道は決して「泰く」はないがね。
ともかくも、グリーニーの実験におつきあいせねばならぬこの巻。書くのも今更感が半端ないが、ジェントリーの一人称現在型である。いやあ、慣れるのに手間取ったよね。ジェントリーの思考が何の役にも立っていないのに冗長で。(笑)
ええ、笑ってあげるよ。なんといってもジェントリーのことだもの。何度、おまえもう黙って働けや、と思ったことか。PIT(逃走車両の後部に追跡車両がぶつけて相手の車を止める技術)を仕掛ける段になって2ページにも及ぶ解説。それも、たいして具体的ではなく、俺はCIAでコレを習った。その後も自分で習熟した。おれなら出来る。やるんだジェントリーって、さあ。いいから黙ってやれや(笑) そうはいいつつも、さすがに読んでる内に慣れてきたか?やっとストーリーに入り込めそうな。
で、さて今回の彼の任務は、CIAではない、個人の請負仕事。かつてボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で大量虐殺を行った軍事指導者の暗殺である。遠距離から一発で仕留めればよいものを、つい、危険かつお節介な「良心」が蠢く。あんな悪いやつを苦しみもなく一発で仕留めるのが正義なのか? そう、彼にとってもはやNGワードに近い「正義」の発動である。そして、その正義感に突き動かされるまま、もっと残酷に殺すために、屋敷に侵入する。ところがその屋敷は人身売買組織の中継基地で、中にはうら若い女性達が捕らわれ、そしてジェントリーのしたことの責任を彼女達が負わされることになると知り。もはやぐだぐだである。
だが、そのぐだぐだをなんとか凌ぐ技倆を持っているからこそのグレイマン。追跡する途中で出会った女性を筆頭に、今回はなにやら女まみれになりそうな予感だ。
文 庫 416ページ
ISBN-10 4150414734
ISBN-13 978-4150414733
で、下巻である。
ようやく読む方も波にのってきた。当面の的が明確になるが、このパターンは、あれだ、『暗殺者の復讐』グレイマンに憧れる暗殺者の巻。グレイマンを振り回す姉のぐだぐだにわをかけて、グレイマンをぶん回す妹ロクサナかっけー!から始まる追跡劇。そして、ジェントリーは遂に、禁じ手を繰り出す。例のラングレー直通電話であるが。相変わらずスーザンはクソ。お友達のトラヴァースは相変わらずいいひとだ。そしてロマンティックも相変わらず。お父ちゃん、もういい年なのにがんばってるなあ、とニヤニヤする。
それはそうと冴え渡るジェントリーの独白(笑)、「こんな時には大学に行っていればよかったと・・・」・・・・と、キミ、大学に行けるほど頭がよかったのかねえ?とこっちも脳内でツッコミをいれる。
そして、舞台はヴェネツィアに移り、さらにはロスへ。
そのヴェネツィアの運河沿いの豪華なアパートメントの3階には、ひょっとしたら引退したガブリエル・アロンが静かに絵を描いているのではないか?とか、脳内で作品世界がオーバーラップする。そして、ロサンゼルスですよ。いやほんと、人質救出のエキスパートならいるじゃないですか、カルヴァーシティに! とか妄想でばくばくする。奇しくもジェントリーがかり出したロートルもナム世代。いやあ格好よいね、じーさん!
とまあ、変な楽しみ方も織り交ぜつつ、ジェントリーの戦いを堪能する。女達が格好良いこと。か弱い被害者と思っていた女達も、正規軍への従軍歴があり戦える、というところに東欧の厳しさも垣間見る。男も女も格好よい。やっぱりグレイマン、最高です。
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