2024年10月20日日曜日

0512 金木犀二十四区

書 名 「金木犀二十四区」
著 者 三木 笙子        
出 版 角川書店 2012年9月
単行本 265ページ
初 読 2012年9月
再 読 2024年10月20日
ISBN-10 4041102294
ISBN-13 978-4041102299
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123758258   

 『怪盗ロータス』を読み終わって、次はこの本、と手に取った朝、この秋はじめて、朝の空気にかすかに交じるキンモクセイの香りに気付いた。キンモクセイはこの家に住み始めたときに、敷地の角に植えたもので、樹齢は二十数年というところ。隣地境界故に強く剪定せざるをえず、枝をのびのび伸ばさせてやれないのが可哀想なのだが、毎年健気に花を付け、密やかに香りを届けてくれる。今年も花香る秋が来た。この本を読むのにこれ以上の時節はない。
 
 表紙、背表紙とも美男子が描かれているが、作中にはもう一人、佳い男が登場する。この表紙(主人公)と裏表紙(主人公の友人)ともう一人(友人の友人?同僚?)の3人がメインで話は進む。
 舞台となっているのは、現代の日本・東京のパラレルワールド的な都市『首都』。花の名を冠した二十三区の片隅に、地図上にはないが金木犀二十四区と人に称される、時の歩みから置き忘れられたような、古風ゆかしい地区がある。その地は樹齢千年を超える金木犀の大木をご神体とする神社を中心に人々がゆるりとした時の流れの中で生活していて。
 イメージとしては、平成の世の中で、その一角だけは昭和の中頃みたいな感じだろうか。
 『東都』(江戸)、『革命』(明治維新)、『大君』(将軍)など、世界を作り込んでいるのに、一方では「建武の新政」なんて言葉が素で出て来たりして、ちょっと世界観にぎこちなさを感じてしまうのが、少々引っかかってしまうところではある。そこに、隕石、天狗、森林化といういわばファンタジー要素が加わり、あれ、そっち方向に行くのかな、と思いきや、なんとなく失せ物ミステリー(首飾り事件)風味もあるし、でも実は、ちゃんと、人の孤独によりそう優しさの話である、という、なんというか、そう、三木笙子さんの世界そのもののような物語とでもいおうか。
 
 隕石と天狗の話に唐突感はあり、読み手としては、まあそういう設定でいくのならそれに付き合うしか有るまい、という感じはややある。だけど、辛い事があったとしても「毎日の生活に少しずつ溶かしこんで記憶を薄め、やり過ごしていくしかない」「目をつぶるでなく、傷口をさらすでなく、あったことはあったこととして受け止めていく」ことが、どれほど大変なことか。それを、文字通り淡々と行い、自分とも周囲とも向きあっていく主人公・秋の在り方そのものが、この物語なのだと思う。この芯が強いが嫋やかな、まさに野に有る和の花のように目をこらさないとそこにあるのにも気付かないようであるけれど、確かに誰かを勇気づける存在が、この物語に感じるちょっとした引っかかりなど凌駕する。

 ちなみに、舞台は武蔵野湧水地の・・・というからには、三宝寺池や、石神井あたり・・・もっと西に行けば国分寺崖線なんかも思い浮かぶが、地理的には23区の一番西より、練馬区の一角あたりなんだろうな、と思って読む。レモンイエローの電車は西武新宿線、延長されそうでされない地下鉄は丸の内線? 読みながらそう考えはしたけれど、この話にはそういう現実感は不要だな。

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