原 題 「The Monkey's Raincoat」1987年
著 者 ロバート・クレイス
翻訳者 田村義進
出 版 新潮文庫 1989年2月
C&P第1作。
80年代 の空気感と西海岸の陽光とハードボイルドの交じり具合が絶妙。
ベトナムでの泥沼の戦場体験があっても自分なりの前向きな生き方と正義を貫いて生き抜いてきた、コールの精神の強さが魅力。
ちゃんと小さなコトにも怒ったりイラついたりできる、そういう感情が摩滅していないことが大事なのだと思う。
子供と依頼者を守る為なら危険の中にもあえて踏み込んで行く。人殺しは好きではないが、反撃は躊躇しない。周りに悪人の死体の山ができても、警察に怒られても、ボロボロになりながらもあくまでも人助けはさらりとやる。推理よりは荒事寄りのロスの探偵である。
コールのことを「ハウンド・ドッグ」という渾名で呼ぶ、ルー・ポイトラスとコールの関係も気になる。ルーの台詞「きみはいつも深入りしすぎる。依頼主に近づきすぎる。ときには恋心さえ抱く。ちがうか?」 ルーの上司バイシェも出番は少ないながら刑事魂を発揮して地味に良い。
《コールの来歴》
生まれた時の名前はフィリップ・ジェームズ・コール。6歳の時に、プレスリーにかぶれた母に強引に改名されるが、「母がくれた名だから」という理由で今も名前を戻すことはしない。18歳の時ベトナムの水田にいた。ベトナム戦争に2年間従軍。1987年刊行の本書で35歳なので、逆算して1952年生まれ。(最新巻の『指名手配』が2008年頃と想定すると56歳くらいになってる。)従って1970年に18歳でベトナム戦争に行き、2年間従軍して1972年のベトナム戦争終結ののち除隊。計算は合う。
その後はロスに戻って撮影所の警備の仕事をへて、探偵事務所の見習い。この頃同じく海兵隊を除隊して警官になっていたパイクと知り合う。28歳で探偵免許を得て開業。「美しいものはみな子供の心のなかにある。」14歳が理想の年齢。ちなみに、ヴェトナムで特殊部隊っていうからつい、グリーンベレーかと思っていたが、レンジャー部隊だったことが9作目の「Last Ditective」で判明。涙なしには読めない名作なのに、本邦未訳!残念すぎる。
《エルヴィス・コールとハリー・ボッシュ》
同じくロス在住のボッシュは1950年生まれでコールより2歳年上である。従軍も2年早い。二人ともウッドローウィルソンドライブに家があり、コールはマルホランド・ドライブ(峠)を挟んで南側斜面のハリウッド側。ボッシュは北側斜面でスタジオシティ側に家を構えている。
家庭に恵まれず施設で育ったという設定も似ていて、その分「我が家」に対する思い入れが強いのも同じ。ちなみに作者のクレイスとコナリーは友人同士だそうで、ボッシュとコールは、それぞれの作品にちらりと友情出演している。
コールは、ボッシュの家の前をランニングすることがあるらしく、ロス大地震の後、家の前で上半身裸で瓦礫の片付けをしていたボッシュを見かけ、その刺青で彼がナム帰りと知って、黙って片付けを手伝ったんだそうな。このロス市警の刑事にコールは密かに敬意を持っている。このあたりが書かれてるクレイス作品は前述の「Last Ditective」で、残念ながら翻訳出版されていない。
《最恐チート・パイク》
コールとの出会いはベトナムから帰還後の1973年。ベトナムでは特殊部隊に所属していたコールを「優秀な兵士」として尊敬している。パイクは海兵隊で、スナイパーだったらしい。グレイマンやヴィクターには及ばないかもしれないが、十分主役張れるだけの最恐チート級であるパイクをさらりと脇で使ってるこの贅沢。
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