2017年10月31日火曜日

0066ー7 ナイトホークス 上・下

書 名 「ナイトホークス 上」「ナイトホークス 下」 
原 題 「The Black Echo」1992年 
著 者 マイクル・コナリー 
翻訳者 古沢 嘉通 
出 版 扶桑社 1992年10月 
初 読 2017/10/31
【コナリー完全制覇計画No.1】 処女作とは思えない玄人っぽい緻密な作り込みが素晴らしい。もっと草臥れた感じの尖った刑事を予想していたが、ボッシュのイメージにブルース・スプリングスティーンを拝借したら、これがなかなか合っている(自画自賛)。読み始める前に期待値を高めすぎていたので、実際読んでみたらそれほど惹かれなかったらどうしよう、シリーズ全部揃え終わってるのに!と警戒していたが、杞憂だった。 
 自分の周囲の悪意や害意を知りつつもそれに惑わされず、淡々と一人で捜査を進めていく、一匹狼である。
 シャーキーの取り調べのシーンが良い。娼婦や非行少年に向ける視線が優しい。
 過去の傷、わずかばかりの楽しい記憶、つい愛情を求めてしまう心寂しさ。先に読んだクレイスのコールとどうしても比べてしまうが、二人ともマルホランドの丘陵の、市街を見下ろす丘の上に周囲の豪邸とは似つかわしくない慎ましい家を構えていて、そこに家があることを大切にしている。コールが自分の家を手を掛けて整えているのは、それが子供時代についぞ与えられることのなかった家庭の象徴だからだと思うが、ボッシュにとってもやはり、ホームは憧憬の表れなのだろうと思う。

  ハラハラするようなスリルと謎解き、ではなく染みいるようなボッシュの存在感と孤独感が、じつに良い。
 「ということは、あなたのことを考え違いしていたのね」 
「ドールメイカー事件のことを言っているのならそのとおりだ。きみは俺について考えちがいをしていた」ボッシュはその生い立ちから他人に対する期待値が非常に低い。 それが周囲をイライラさせたり組織から浮く原因なんだけど、人が本質的に孤独であることを知っていて、それを受け入れているが故の彼の「孤独感」は実は一つの理想だと感じるところがある。
 自分が見舞われた理不尽を「不正」と感じ、それに私刑を与えることを決意したエレノアは、殺人犯を射殺したボッシュを自分と同類の、自分の中の正義を私刑に託す人間だと考え、もしくはそうであることを願ったのだろう。なぜなら、自分一人きりなのは孤独だから。
  彼女は自分の兄の為に憤っていたのではなく、自分の中の兄という偶像を破壊されたことを自分の為に怒っている。そして、ボッシュに対してもまた、自分の偶像を投げかけている。彼女の孤独とボッシュの孤独は、本質的にまったく別物なんだけど、ボッシュはそこに気づけてるかなあ。まだ第1作目だけど、ボッシュ、完全にツボったので、これから二十何年分の彼の人生とおつきあい開始(笑)。
 【蛇足ながら】
  翻訳のヘンな平仮名には最初ちょっと閉口した。 “蛍光灯をべつにすると”、"雑草の中にたおし”、“なかにはいっていない”・・・・なぜ、ひらがな??と最初しばらく、イラっとしました(笑)

2017年10月27日金曜日

0065 鷲は飛び立った

書 名 「鷲は飛び立った 」 
著 者 ジャック・ヒギンズ 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1997/4 
初 読  2017/10/27 

 なにぶんにも評価の分かれる、人言うところの、「作者による二次創作」。そうはいっても、生きて動いているリーアムとシュタイナを見たくて、恐る恐る手を出した次第。

 シュタイナとリーアムが格好良くて、味方はとことん有能で頭脳明晰、首尾良く英国を脱出して何の因果かあの男の命を助け、その上某国に脱出。というお気楽展開である。
 「鷲は舞い降りた」が戦争小説ならこちらは娯楽小説以上でも以下でもなく。もっともその違いは物語の出来ではなく、物語を牽引するキャラの違いかもしれない。鷲舞はメインがラードルとシュタイナなので真面目・真剣自ずと事態も深刻になったが、鷲飛はなにせ享楽デブリンと考え無しの米国人エイサ、勝ち組シェレンベルクと来ては、勢いストーリ展開もなにやら楽しげな様相に。

 ①絶妙なタイミングでリーアムと接触し、
 ②凄腕パイロットが運良く見つかって、
 ③ちょうど良い飛行機をゲット、
 ④幸運にも目的地近くに絶好の英国内協力者の私設飛行場があり!
 ⑤おまけにシュタイナが幽閉されている建物の詳細な図面は元々手元にあり、
 ⑥人に知られていない地下道まである!

という極めてご都合のよろしい展開(笑)。読んでいるうちは気にならなかったが、こうして並べるとなんだかヒドい話だな(笑)。それでも面白く読ませる作者の筆力はたいしたもの。読む価値があるかどうかは各々の評価に任せたい。ま、面白かったですよ。これよりつまらない話もごまんと世に出ている。さすがはヒギンズです。

 それにこれは、パラレルワールドの入り口かもしれない。
 シュタイナが生きていて、リーアムとアイリッシュウイスキーを酌み交わし、たまにはリーアムに手を貸して英国政府に嫌がらせして。普段はアイルランドの僻地でタバコ吸いつつ羊を追ったり、本を読んだり。
 鷲舞の戦士達のうち一人くらい、そんな戦後を送らせてあげても良いじゃないか、とちょこっと思ったりもするから。

2017年10月20日金曜日

0064 鷲は舞いおりた〔完全版〕

書 名 「鷲は舞いおりた〔完全版〕」 
著 者 ジャック・ヒギンズ 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1997/4 
初 読 2017/10/20 

  作戦が失敗し部隊も犠牲になったきっかけは、部下が子供を助けて命を落としたこと。そのことがどこか誇らしげなシュタイナ中佐だった。そもそも、作戦が成功するか否かは、大して問題ではなかったのだ。
 ナチスに反感を抱き、ドイツの敗戦を確信しながら、何の為に戦うのか。この戦争は命を落とす価値があるのか。彼らは自問しつつ、それでも戦いの中に身を投じ、すべてを賭して戦う。
 戦争の無残と敵味方に分かれて殺し合うことの虚しさ、そして誰もが自分の人生を歩む人間であることを描き切った名作。オルガニストの兵士や、バードウォッチングが趣味な兵士、平時の素顔を知ってしまったことで、いっそう、戦争のむごさが身に染みる。緻密に編んだはずの編み目が少しづつ綻んで、一気に破綻していく過程が悲壮だ。
人間の無能と衝動だけは予測がつかない。

 そしてマックス・ラードル中佐に惚れた。軍服の着こなし、まるで制式であるかのような眼帯、黒手袋。完璧だ。保身もするし、ヒムラーの前では心臓がバクバクする人間味がまた良い。鷲が飛び立つ前までにラードル中佐を求めて3回も読み返してしまった(笑)。中盤の一文“ラードルは後日妻に語ったように” からラードルが生きて妻に再会出来たらしいことが分かるので、読んでいてせめて気持ちが救われる。マックスとクルトの友情が良い。マックスの体を気遣うホーファの忠誠、冬季戦線で失った部下達への思い。台詞の一つ一つに心を打たれた。名作です。でも中盤は、リーアムのおいたが過ぎるのが読んでいて辛く、読書スピードが落ちる。敵地に先行したリーアムが衝動の赴くまませっせと地雷を埋設してるし!!フラグ立てるし!!マックス、これは人選ミスだよ。でも終盤は、そんなリーアムでさえ格好良く見えてきて、自分に驚いた(笑)。

2017年10月14日土曜日

0063 エニグマ奇襲指令

書 名 「エニグマ奇襲指令」 
著 者 マイケル・バー・ゾウハー 
翻訳者 田村 義進 
出 版 早川書房 1980年9月 
初 読 2017/10/14 

  Dday前夜の英仏を舞台とした痛快娯楽小説。
 アルセーヌ・ルパンは第一次大戦に軍医として従軍もしていたが、これは“ルパン第二次大戦でも活躍す”って感じの泥棒物。
 そんなだから人物造形が単純だという気もするが、まあそれぞれ魅力的に描かれてはいる。
 老獪な英国軍人、明朗快活なフランス男の大盗賊。勤勉実直で実は詩的で夢見がちなドイツ青年将校。このフォン・ベックだけはなんだか哀れだった。
 英国で服役中の盗賊が英情報部の依頼で仏国内の独エニグマ暗号機を盗み出す!交換条件は自由と大金、という設定もどこかで観たような読んだような。だけど、この話は、細かいことは考えずにワクワク読むのが正しい読み方。最後のオチも、なんとなく初めから見えていたような気もするけど、気にしない!

2017年10月10日火曜日

0062 死にゆく者への祈り

書 名 「死にゆく者への祈り」 
著 者 ジャック・ヒギンズ 
翻訳者 井坂 清 
出 版 早川書房 1982年2月 
初 読 2017/10/10

 ほどよい本の薄さと、硬質ながら読みやすい文章で一気読み。ジャック・ヒギンズが自作の中で一番好きな作品にあげたとか。晩秋の冷たい雨に白い息が滲むような切なさのある読後感。表紙の薔薇が、彼への手向けに見える。

 繰り返される戦争と対立がそれぞれの人の心に残した深い爪痕が、礼拝堂の中で交差する。
古いカトリック教会を守る神父と、その盲目の妹。彼らと関わることになったのは、神の差配だったのだろうか。降り続く雨が物語に陰鬱さを添える。
 対立は闘争と悲嘆を呼ぶ。貧困は悪を産み、悪は罪を招く。暗黒街の顔役の表の顔は誠実で勤勉な葬儀屋。彼にとってはどちらも真の姿である。生と死も善と悪も立場が違えば表裏が返る皮相、死んで土になれば皆同じ、という皮肉にも感じる。
 神への祈りは魂の救済たり得るのか、それともただ一時の慰めを与えるだけなのか。
 傷つけられた指先が奏でるオルガンが人の心を打つ。音楽家としての人生を捨てたのは彼自身の選択だっただろうが、それでも、天才的なピアニスト・オルガニストに加えられた最悪の仕打ちだ。惨い。
 ファロンのことを考えると胸が詰まる。十字架の下敷きになって死んだのは、許しなのか、罰なのか・・・・。彼に深紅の薔薇を捧げたい。後の祈りは、彼の魂に届いたのだろうか。ファロンの魂に平安あれ。



2017年10月4日水曜日

0061 宇宙の戦士〔新訳版〕


書 名 「宇宙の戦士〔新訳版〕」 
著 者 ロバート・A ハインライン 
翻訳者 内田 昌之 
出 版 早川書房 2015年10月 
初 読 2017/10/04  

 少年(といっても、立派なティーン)が大人になっていく過程が瑞々しい、と言えなくもない。こっちがいい大人になっちゃってるんで、ちょっとムズムズしたりもするけど。  極めて秀才なわけでも、器用なわけでも、信念があるわけでなさそうな普通の男子だが、芯があって自分を成長させていく力がある。 そして教官達に厳しくも育まれて成長していく。というある意味まっすぐな話。機動歩兵とか異星の敵とかって味付けは何でもいいような気すらする。
 とにかく、言わずと知れた名作の新訳版だし、なんだか感動しなくちゃいけないような、プレッシャーを感じなくもない。だがしかし。せっかく大人になったってのに、最後でお父さんと同じ小隊ってなにさ?パパに抱きしめられちゃうのか?なんだか解せないし、そもそも組織としてどうなのよ!


0059−60 暗殺者の飛躍 上・下

書 名 「暗殺者の飛躍」
原 題 「Gunmetal Gray」2017年
著 者 マーク・グリーニー 
翻訳者 伏見威蕃 
出 版 早川書房 2017年8月 
初 読 2017/10/04 
 
 CIAという後ろ盾を得たコートは、どことなく暢気な雰囲気が漂う。新しいハンドラーとはまだ息が合わない。そもそもスーザンの方に合わせるという気がない。コートは彼女が直前までヴァイオレーター対策チームの指揮官だったって知らない。皮肉を応酬しながらこの二人は果たして息が合っていくのだろうか?スーザンに打算尽くではない本気の仕事を見せてもらいたい。ついでに言うならコートの為に泣いてほしい。これまでの仕打ちを考えたらそのくらいしてくれたって良いじゃ無いか!
 コートの暢気な風情が目立つ前半だが、お仕事自体は結構ハードモードである。中国、ロシア、ベトナムマフィアまで絡んで大乱闘、大混戦。フィッツロイを巻き込んだ設定に弱冠無理を感じるが、フィッツロイおじいちゃんが大好きなので大目にみよう。それにしても、翻訳のまずさが弱冠気になる。「独り働き」(p31)ってここで使うか?時代劇用語(鬼平犯科帳とか。)じゃない?意味違うし。"単独行動"くらいにしておけばよかったのに。
 明かに日本語文法がおかしい文もある。誤植もあったぞ。校正ちゃんと仕事してほしい。
 ゾーヤがルースの再来で、頭の中で絵が重なってしまう。ついにコートに大切な女性が出来るのか? 

暢気なジェントリー語録。
✓P90せいぜいこのドライブを楽しもう。→ P91楽しめなかった。・・・・早いな。 
✓P114しまった、(中略)考えを、うっかり戴に吹き込んでしまった。・・・・凡ミス。
✓P240考えてみればひどい取り合わせなので、あまり考えないようにした。・・・・考えなければ万事OKなのか?ライスプティングとリンゴと梨とウイスキーの夕食。ジェントリー、実は甘党? 
✓p372一瞬、誇らしい気持ちになり、だれかに写真を取ってもらえばよかったと思った。・・・寝言いってるんじゃねー!ところで「撮って」じゃないのか?