著 者 ジャック・ヒギンズ
翻訳者 井坂 清
出 版 早川書房 1982年2月
初 読 2017/10/10
ほどよい本の薄さと、硬質ながら読みやすい文章で一気読み。ジャック・ヒギンズが自作の中で一番好きな作品にあげたとか。晩秋の冷たい雨に白い息が滲むような切なさのある読後感。表紙の薔薇が、彼への手向けに見える。
繰り返される戦争と対立がそれぞれの人の心に残した深い爪痕が、礼拝堂の中で交差する。
古いカトリック教会を守る神父と、その盲目の妹。彼らと関わることになったのは、神の差配だったのだろうか。降り続く雨が物語に陰鬱さを添える。
対立は闘争と悲嘆を呼ぶ。貧困は悪を産み、悪は罪を招く。暗黒街の顔役の表の顔は誠実で勤勉な葬儀屋。彼にとってはどちらも真の姿である。生と死も善と悪も立場が違えば表裏が返る皮相、死んで土になれば皆同じ、という皮肉にも感じる。
神への祈りは魂の救済たり得るのか、それともただ一時の慰めを与えるだけなのか。
傷つけられた指先が奏でるオルガンが人の心を打つ。音楽家としての人生を捨てたのは彼自身の選択だっただろうが、それでも、天才的なピアニスト・オルガニストに加えられた最悪の仕打ちだ。惨い。
ファロンのことを考えると胸が詰まる。十字架の下敷きになって死んだのは、許しなのか、罰なのか・・・・。彼に深紅の薔薇を捧げたい。後の祈りは、彼の魂に届いたのだろうか。ファロンの魂に平安あれ。
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