原 題 「Enemy Below」
著 者 D.A. レイナー
翻訳者 鎌田 三平
出 版 東京創元社 1986年11月
初 読 2020/06/08
1943年南大西洋。大西洋の戦局は大きく変化している。ウルフパックは連合国側の護衛艦隊に軽空母が加わり連合軍側に軍配が上がった。この話は単騎のUボートと英国駆逐艦ヘカテの一騎討ちである。
映画『眼下の敵』が騎士道精神に溢れているので(勿論大好きだ)、原作のこの両艦長の捻くれ具合がいささか可笑しい。
Uボートのフォン・シュトームブルグ艦長は貴族らしく高慢だし、駆逐艦ヘカテ艦長のマレルはどこか屈折してる。
そんな二人が海の中と上で神経をすり減らして頭脳戦を繰り広げる。本文中の要所要所に、戦闘中の航路のプロットが差し込まれているので非常にわかりやすく、勉強にもなった。
ラストはもはや喜劇だが、これはこれでおもしろい。ボートの上の連中はまだしも、どうやって海中で殴り合いするんだ。 戦っているのは国と国、主義と主義であって、一度戦列を脱したら人間同士に戻れる、と言わんばかりの理想主義あふれる米映画版に比べて、この原作の洞察のシビアなことよ。
「艦長は自分がもう一度、戦争をやり直しているような気になった。」
「ドイツ人とは決して和解できない」
「戦っていたのは人間そのものだったのだ」
このシビアな洞察。さすが英国人と言うべき? そりゃあEUも上手く行くわけないよな、とほぼ小説とは関係のない感慨を覚えた読後である。
英国海軍の伝統らしい、熱々甘々なココアが美味そう。マレル艦長に言わせると、アメリカ人はコーヒーを飲むらしい。英国人でよかった、との事。イギリス人は本当にチョコレートが好きなんだと再確認。
こちらは、ハリウッド版『眼下の敵』言わずとしれた名作である。主演、ロバート・ミッチャム、クルト・ユンゲルス。駆逐艦は、米海軍ヘインズに変更されている。撮影には米海軍が全面協力し、駆逐艦も爆雷シーンも本物らしいので、文句はいえまい。素晴らしい迫力である。
艦長が時計で時間を計って魚雷をかわす名シーンは何度見ても飽きない。やや、Uボートの中が広くて小綺麗にすぎるかと思わないではないが、クライマックスのUボートの魚雷攻撃、捨て身の欺瞞作戦、退艦命令、体当たり攻撃からの、Uボート上の負傷者救出、そして最後の水葬シーンまで、以後の駆逐艦戦モノの原型全てが詰まってるといっても過言ではあるまい。
駆逐艦ヘインズが魚雷で致命傷を負ってから、機関長が艦内通話で「まだ2番ボイラーから蒸気が取れます」と艦長に告げるシーンが好き。私の機関長好きの原点も此処にある。
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