2020年6月5日金曜日

0202 駆逐艦キーリング(映画「グレイハウンド」原作)

書 名  「駆逐艦キーリング」新訳版
原 題 「The good shepherd」1955年
著 者 セシル・スコット・フォレスター
翻訳者 武藤 陽生
出 版 早川書房 2020年5月

 第二次世界大戦。1942年大西洋。Uボードの襲撃から身を守るべく、輸送船37隻が船団を組み、その船団を4隻からなる連合国艦隊が護衛する。護衛艦隊を指揮するのは米駆逐艦キーリングの艦長ジョージ・クラウス。海軍に20年籍を置き、13年は艦上で過ごした41歳の中佐はしかし、実戦においては事実上の初陣。第二次大戦が勃発し、すでに英独は大西洋で熾烈な海戦を繰り広げていたが、アメリカは1941年の真珠湾攻撃をもって、ついに参戦したからである。
 大西洋の真ん中に、航空支援の届かない〈キリング・フィールド〉がある。この海域でドイツUボートは群れを成して輸送船団を待ち受け、護衛艦達は船団を守って熾烈な戦闘を闘い抜かなければならない。
 最初の接敵から50時間。
 ノンストップで戦闘指揮を続けるクラウスとひたすら緊迫した時間を共にする。
 疲労が蓄積し、僚艦は見えず、無線機のスピーカーから聞こえる会話のみ。ほぼ全編が狭い駆逐艦の艦橋のなかで進展する。
 羊の群れを取り囲む飢えるオオカミの群れのようなUボートは実に6艦。見えない闇に目を凝らし、敵の思考を読み本能を推測する。敵と味方の距離、方角、深度を予測し、合理的な攻撃位置を割り出し、機雷到達時間を差し引き秒単位での戦闘指揮。艦長クラウスの頭の中には大量のモノローグがあふれているが、指揮は簡潔で平静である。当直士官は次々に交代していくが、クラウスは船団の命運を双肩に負ってひたすら指揮を続ける。
 兵の交代から食事まで目を配り、ついでに飲まず喰わず、暖を取らずの艦長の世話も焼く女房役の副長の存在に、にクラウスと一緒に読んでいるこちらもほっとする。
 戦闘指揮だけでなく部下を育てる指導者としても立派である。
 激戦中でも部下の行動を観察し、不適切な言動はその場で指導し功績は必ず誉める。失敗には次のチャンスを与えて自信を付けさせる。こんな上司の下で働きたい。いや、年齢考えたらこんな上司になりたいと思わなくてはならないのか?
 コーヒー、サンドイッチ、コーヒー、コーヒー。『栄光の旗のもとに』(ハヤカワSF文庫・2017年刊・P.H.ホンジンガー著)マックス・ロビショー艦長には、海軍中佐ジョージ・クラウスの血が流れているに違いない。少なくとも『栄光の旗のもとに』が海洋冒険小説の直系であることは間違いないとの確信を得る。私の愛する男がまた一人増えてしまった。『鷲は舞いおりた』以来の読書経験である。これは素晴らしい。ホーンブロワーシリーズと違って、ジョージ・クラウスはこの一冊だけらしいが、1945年のWWⅡ終結まで、ジョージ・クラウスの指揮する船が善戦して生き延びてくれることを心から願ってやまない。

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