2020年6月13日土曜日

0204 影の護衛

書 名 「影の護衛」 
著 者 ギャビン・ライアル 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1993年6月 
初 読 2020/06/13 

 マクシム少佐、渋くて、ちょっとニヒルで、格好いい。傍目にはそれとは見えない熱を持っていて、自分の義務に忠実。目先のことをやるだけでなく、自分の立ち位置、存在意義、全体像を俯瞰できる感性を持っていて、ほんのちょっと、甘さもあって、なによりも自信がある。要は、人間味と存在感がある。
 ガチの陸軍将校(歩兵大隊出身、SASを二期つとめ、軍服にはパラシュート記章)。
 妻は、中東の任地にマクシムを訪ねたおり、搭乗した輸送機が爆破されて死亡。10歳の一人息子は両親の家で育てられている。一人暮らしの部屋とデューク・エリントンのレコード。官邸内での微妙な立ち位置。町中での銃撃戦かと思うと、KGB将校との駆け引き。日常と非日常がきわどく接している緊張感と、自分は腕力だけの兵隊ではない、国防に携わる陸軍将校であるとの強い矜持、政治とは違う規範で行動していることの有言・無言の主張。これらが綯い交ぜになって、マクシム少佐という男を形作っている。

  そんな彼は、このたび首相官邸勤務に抜擢されて、当初、何をすべきか途方に暮れたものの、着任早々、首相官邸に手榴弾(実は模擬弾)が投げ込まれる事件があり、それに対処したことから、新しい職場に馴染みはじめる。そして、諜報のまねごとをする羽目になる。だんだんまねごとでは済まなくなるが、軍人らしい寡黙さと、果断な決断力と行動力は、上司である首相補佐官(ジョージ)も不安を催すほど(笑)。ただし、本人は、あくまでも自分の判断で必要とされたことを自分なりにこなしているだけ。

 時代は冷戦時代、第三次世界大戦は核戦争であると誰もが確信していた時代である。
 イギリスとアイルランド、フランス、チェコ、ソ連。当時の関係性にさほど詳しいわけではないが、あの時代の空気感は、記憶にある。とにかく諜報戦が渋くて、静か。元SASだからといって、いたずらに銃をぶっ放したり、町中を駆けずりまわったりする作品ではない。陸軍将校同士の平時の付き合いとか、軍隊内の日常など、政治とは別の世界の、もともとマクシム少佐の馴染んでいた世界が垣間見えるのも良い。

 訳のカタカナが少々時代がかって見えるが、気になるほどではない。(主人公が「ハリー」ではなく「ハリィ」であったり、セーターがスエター、ウィスキィがストレイトであったりする程度だ。要は、菊池光氏の翻訳だ。菊池氏の仕事は他にはヒギンズ、ディック・フランシス、ロバート・B・パーカー、、、、と。納得。訳者で追いかけるのもおつです。
 『深夜プラス1』も良かったが、自分的にはこちらの方が好み。「深夜プラス1」のように、そのうち新訳出してくれないかしら。それも読んでみたい気がする。

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