ざっと要点をまとめてみよう。
- 俺はミューズの女神に貞操を捧げてるんだ。だけどドラムに強姦されちゃった。
- 俺にはミューズの女神がいるんだ!だけどエロスの神もいるらしいぞ。
- あれ、ミューズの神殿ってエロスの神も同居可能じゃね?
- なんだかエロスとミューズって一体だったみたい。
- もう、ミューズどこにいるかわかんないけど俺恋しちゃったし、赦してくれるよね?
固定的な自分自身のバンドを渇望していた矢代俊一が、偶然ドラムの勝又英二とピアノの森晃一と出会う。俊一は英二に付きまとわれて強引に家に入り込まれ強姦されてしまうが、英二のドラムに惹かれた俊一は、その後も英二を拒絶できず、やがて自分が英二に惹かれていることを自覚する。英国から第一次矢代グループのベースのサミーが帰国し、ベース/サミー、ドラム/英二、ピアノ/晃一のメンバーで第四次(第三次)矢代グループ完成。かつての俊一のピアニスト結城滉の愛人だった早瀬が登場し、結城の死を逆恨みして俊一を拉致強姦。その早瀬がエイズに罹患していたため、強姦された俊一もHIVに感染してしまった。一方、俊一が英二に開発されちゃったんで、20年来俊一への恋心を抑えていた(!)金井は、俊一とHIVの運命を共にすべく、俊一にディープキスを仕掛けて恋人に名乗りをあげ、俊一も金井への恋情を自覚して二股体制となる(!)。ラストで、俊一のHIV陽性が誤診だったことが判明。早瀬はエイズで入院中の病院で死亡した。あとに残ったのは、俊一が早瀬のために作ったプライベートアルバムと、英二、金井の二股関係だけ。6巻以降に続く。
では、以下が感想となります。悪口雑言を含みますので、できればファンの方はご遠慮くださいね。
天才サックス奏者が不惑を過ぎて初めて知る、狂おしい恋の味。(Amazonより)・・・いや、その通りなんだけど、これほど内容を裏切っているリードもないよね、と失笑。そりゃあ、俊ちゃん41歳で確かに不惑だけどさ。永遠の20代みたいな顔してる美青年ってことですからね。しかも、病弱。でどんな話かというと、だ。
妻を惨殺され、台湾マフィアによる暴行で重傷を負った俊一は、長い治療と闘病の末、第一線に復帰してはいたが、体は完全回復はせず、メンタルではPTSDと対人恐怖を引きずっていた。そんな矢代が、先輩の金井から頼まれてトラ出演した荻窪の小さなジャズ喫茶『マイルストーン』で、ドラムの勝又英二と、ピアノの森晃市に出会う。ストーリーはコミック『コイシラズ』のまんまなので、気分は再読だが、小説の方が細かい部分は濃厚。そしてジャズについての語りも濃厚。わたしは結構好きだと思ったけど、ジャズ通の人に通用するのかどうかは、私にはわからないなあ。英二と晃市は恋人同士だったが、それぞれが矢代にモーションをかけてくる。なかでも英二は積極的で、強引に矢代のマンションに入り込み、矢代を強姦してしまう。身勝手極まりない英二に、なぜ俊一が惹かれてしまうのか、まあ、読んでる方には謎だよね。はじめから彼の音楽性に惹かれていた矢代は、英二を強硬に拒絶することができない。。。。って、「感じたら和姦」理論みたいで好かないし、なぜ英二を受け入れてしまうのか、ちと説得力に欠ける気がする。PTSDがずいぶん都合良く描かれているような気も若干する。俺が愛して直してやる!とかやめなはれ。金井がすでに俊一を「姫」扱いではあるが、全体的には、まだ俊一が男っぽい。本人も俺は男だって主張している。
2 SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE 朝日のように爽やかに <矢代俊一シリーズ2>
舞台の稽古場で矢代俊一の前に現れた一人の俳優は、矢代俊一に思いがけぬ運命をもたらすのだった!(Amazonより)・・・このリードは、なんの面白みもないな。
俊一が英二に犯され口説かれ、口説かれ犯されし、ついには絆される。そこに、かつての俊一のオンリーワンだった亡きピアニスト、結城滉への愛と恨みを引きずる新宿二丁目のネコ、早瀬充が現れ、非業の死を遂げた結城滉のため、俊一に復讐を仕掛ける。俊一を騙して拐かし、黒人の大男に強姦させたのだ。英二が異変に気付いて早瀬の家を突き止め、俊一を助けに飛び込んだときには後の祭りで、俊一はすでに犯されたあとで血まみれ。そんでも助け出された俊一は、痛めつけられた体を英二に看護してもらい、徐々に回復する。英二は俊一の家に移りすみ、意外にも、俊一を細やかに世話をする。ついでにサミーが英国から戻ってきて、第四次(第三次)矢代俊一グループが完成。英二との仲も公認となった。
性愛を描いて、性愛以上のものを表現したかったんだろうな、というのは良く分かる。でも性愛の上位互換が、軒並み「マリア様」になっちゃうのね。(透ちゃんもそうだったよなあ。)
ついでに言うと、すべての発端となった結城滉のエピソードがなんだかバカっぽいのが玉に瑕。
プロの一流のピアニストが自分の痛めた手の手当もろくにできず、好きな相手に告白もできず、すべてを拗らせた上に、自殺することもできずに、自殺同様な事故死を遂げるって、いうのが、なんかもう残念。ついでにいうと、第一次矢代俊一グループそのものが、そこはかとなく気持ち悪い。お父ちゃんなベースと、拗らせた長兄(ママって説も)と、双子の末弟たち?が依存しあいながらいちゃいちゃセッションしてる図が、想像するだけで、もう気持ち悪い。
でもね。誤解を怖れずに書くと、この話、ノリも流れも、先日読んだ『嘘は罪』よりも完成度は高いと思う。好きなことを好きなように書いてるからなのか。結局、栗本薫はポルノ作家であって、それ以外では無かったのだとも思った。とても自然で、読みやすい作品になっている。へんな脳内ダダ漏れぐだぐだのエンドレス思考がないだけでもはるかにマシ。というか、それがないから、力みのない、かつ弾性のある作品に仕上がってる。 やおいが無問題な人であれば、読めます大丈夫。(それが大問題なのかもしれないが。)私としては、予想より遙かによかったので、結構困ってる(笑) (←どれだけ予想が低かったんだ、とツッコミ可!)
あと、これは本当に何とかしてほしいと思ったのが、ロークやらロイクやら言っている黒人さんの扱いだよ。基本、頭の悪そうな巨根の精力絶倫 のバイブレーター代わりの扱いで、レイシズムに繋がりかねないイメージの貧困さに、読んでる方が困惑する。これは、読んでて(日本人として)恥ずかしい。無神経にもほどがある。
更に思うのは、男女の性愛小説は男性向けも女性向けも、いくらでも出版されてるっていうのに、BL本だっていくらでもレーベルがある時代なのに、なぜ同人誌だったのか。
読者層がニッチすぎるとか、まともに大手で出版して映画化までされた『キャバレー』を使い回してしまったこととか、思いつくけど、個人的には、内包される思想というか思索が拙く、大人を騙せるレベルではないこと、性愛とはいえ、未成熟かつ不健康なこと、そしてやっぱり、薫サンが批判を嫌ったんだろうなあ、と想像する。なにしろ、自分が「このように愛されたい」という自己投影なんだと、感じてしまうからねえ。
3 CRAZY FOR YOU <矢代俊一シリーズ3>
新メンバーを得て始動しようとする矢代俊一の許に殺人予告の脅迫状が届けられた!
(Amazonより)・・・第四次矢代俊一グループが活動を開始し、英二との生活も順調な 俊一のもとに、前話で俊一を拉致強姦した早瀬が、俊一凌辱ビデオと写真を添えて、殺害をほのめかす脅迫文を送り付けてきた。俊一は、矢代俊一グループのライブ活動を、不安と緊張の中で進める。
前話の感想で『嘘は罪』よりは良いと書いたが、その感想も今作であっという間に色あせた。俊一と英二のセックスがルーティンになってきたためか、今作は特に感じたのが、この話がSEXファンタジーだってこと。リアリティが皆無。観念的すぎて、読んでると変な笑いがこみあげてくる。「性愛」が「性愛」になってないのよ。エロでもポルノでもない。強いて例えるなら童貞が書いた中二病小説。(読んだことないけど。) 濡れ場が濡れてない。まったくそそられない。エロくない。読んでる自分の方が不感症になった気がする。
それにさ。
いや、最近のBLをそんなに読んでいるわけではないけど、あの市場も購読層が広がるにつれて、男×男というマイノリティ故の厳しさや切なさはあっても、基本的に、他者と愛し合うっていう一点にかけてはすごく健やかだと思うのよ。栗本薫が書くものがBLではなく、いつまでも「やおい」なのって、どこか陰惨で不健全で、アングラなうしろめたさが張り付いているからだと思うのよね。昨今のBLみたいな健全さは皆無。
前話の感想で性愛を書いて性愛以上のものを表現したいのだろう、とは書いたものの、その中身が中二病ファンタジーなうえに、性愛そのものが不健康な感じなところに、読む方の限界を感じた今話である。ストーリーの流れとしては、早瀬が脅迫。英二が怒る。俊一が「俺は男だ」と発奮。黒田さん登場。英二と俊一が自分から罠に突っ込んだが、黒田さんが拳銃ぶっ放して助ける。あ、早瀬はエイズでした!ということです。
無法な陵辱によってH・I・Vの罹患に怯える矢代俊一。その彼が、親友金井恭平への思慕を抱いてしまう。(Amazonより)・・・コイツはちょっとミスリード気味かな。しかしだ。
私は思ったね。「謝れ!HIVと闘っていた全ての人に向かって謝れ!」
早瀬がエイズを発症していたことで、俊一もHIV感染の可能性があると気付いたのは金井だった。なぜそれまで誰も気づかない? そして検査結果が出るまではSEX禁止と言い渡されてるにもかかわらず、その夜になぜやる? 感染の可能性を英二に話した後もやっぱりSEXを抑制できない俊一。なんかHIVの扱いが軽々しく、ドン引きする。黒人の描き方もそうだけど、センシティブな事柄の扱いのずさんなことときたら、これが薫の人間性のそのままなんだろうと思えて残念なこと極まりない。
そして、いままでは俊一がノーマルだと思っていたからそっち方面の欲望は抑えていたものの、俊一が英二に開発されちゃったんで性欲が抑えられなくなったという金井も、めちゃくちゃキモい。その金井に、おれもお前のHIVに付き合うぜ💗とディープなキスをされて、恋心が兆してしまう俊一が超絶キモーーーーーイ!!!
なんかね、俊一が悶えている訳ですよ。金井への秘めた恋心に。いったいお前に貞節をもとめていたミューズの女神とやらはどこにいったんだ?英二への思いは恋ではなく情だった、とかどの口が言ってんの?
ラストはHIVキャリアであることをバンドの仕事仲間たちにカミングアウトして、結束を固め合う。そして、諸悪の元凶、病床で死を待つ早瀬に送るためのプライベート・アルバムを作るために感動的に演奏するのだった。ラストのエピソードなんかは、薫サンの力技でなんだか感動的な方向に持ってかれそうではあるけれど、今作は全編どこにも共感する隙のない、完璧なキモさだった。合掌。
5 BLUE SKIES <矢代俊一シリーズ5>
二つの想いに引き裂かれる矢代俊一に、ついに勝又英二は耐えきれなくなったが。(Amazonより)・・・例によって、薫マジックで、一瞬なんか良いもの読まされたような気配がただようが、引っかかるまいぞ。要は、俺、恭平に恋しちゃったけど、これは自分でそうしたかった訳じゃなくて不可抗力だし、英二も好きだし、バンドのドラムは絶対手放せないし。俺、これからもずっと二股かけっぱなしだけど、ツラいのは俺もいっしょだから、キミもガマンしてね。 というお話。いやあ、超絶身勝手なんだけど、音楽の天才だから、みんながしかたねえなあ、ってガマンしてくれるって言う話。まあ、そういう人間や関係がこの世に一つもないとは言いませんがな。だけど、薫サンよ、アンタのはただの勘違いではあるまいか。ちなみに、ラストで、俊一のHIV陽性は誤診でした〜〜〜!!というオチが付く。ああ本当に、世の中の頑張っているHIVキャリアの人に伏してお詫びしたい。こんなヤツが有名作家でごめんなさい。と。
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