2022年7月15日金曜日

0366-70 栗本薫《矢代俊一シリーズ 6〜10》の感想



《あらすじ》
 早瀬による誘拐陵辱事件、俊一のHIV感染(誤診)に誘発されて、金井と俊一が激しい恋に落ち、嫉妬にかられた英二が再三、俊一に手酷い暴行(レイプ)を加え・・・と波瀾な俊一であったが、早瀬がらみの騒動は黒田の暗躍で一応の解決を見る。幕間劇とも言える6巻、7巻は、おもに俊一、英二、金井の三角関係が中心。8巻以降、淫教《神の苑》暗闘編(勝手に命名)スタート。裏社会の情報屋として野々村老人と風間が登場。はぐれ者のヤクザ黒田と金井、英二、風間、(友情出演で風間のセフレの黒須さんも登場)と武闘派が大活躍で、ここで東京サーガ、矢代俊一ブランチと、今西良・森田透ブランチがガッツリ絡む。時間軸的には、矢代が今西良に楽曲を提供した2000(平成12)年(ってことになってる。)を中心点に、今西・森田ブランチの時間軸を縦にびよーんと引き延ばすイメージ。だいたい、良と透が俊一より年下設定ってのがそもそも無理がある。(なにしろ二人はGS全盛期のトップスター設定だ。)『朝日のあたる家』では、携帯電話のけの字も出てこないし、薫サン、ほんとに何も考えずに登場人物を混ぜちゃったんだな、と嘆息する。これを気にしすぎると、ストーリーを楽しめなくなるので、とりあえず読んでる途中はこの情報は封印。

6 ROUND MIDNIGHT <矢代俊一シリーズ6>
二人の男への恋情と愛情に矢代俊一の気持ちは引き裂かれていくが、それは彼をさらに成長させる契機なのか?(Amazonより)・・・・・・今作は次の激動までのインターバル、波乱の幕間ってところ。俊一がとにかく英二は手放したくないし、金井のことは喉から手が出るくらい欲しい、ってもの凄い欲深な三角関係を形成し、そのテンションに耐えきれなかった英二が暴行に走り、体調を整えきれなかった俊一がライブの途中で貧血でぶっ倒れる。ついでにサド写真家渥美の手による写真集企画が始動し、渥美の魔の手が俊一に伸びつつあり。渥美につれていかれた会員制クラブのラウンジでピアノを弾き語るシーンあり、スタジオでのリハやライブのシーンもあり、音楽シーンがあると話が締まるし、ラストに早瀬の訃報があったりして、例によって薫の筆力(?)でもの凄く良いものを読まされたような気にさせられるが、冷静に考えるとこの内容、結構ヒドイんだよ。どろんどろんの愛憎関係をそのまま放置したまま、セッションで昇天しちゃってなんだかイイ感じにしちゃう、という、なんか『朝日のあたる家』のラストを思い出させる構成である。あと、ああだこうだの理屈っぽいところは相当に斜め読みしました。

7 THE MAN I LOVE <矢代俊一シリーズ7>
地方のイベントから戻り入院中の母を見舞った俊一は、自らの出生の秘密を告げられる(Amazonより)・・・・・・北海道のアマチュアジャズフェスティバルのスペシャルゲストに担ぎだされた俊一が会場に到着すると、そこには金井恭平バンドの姿が。飛ぶ鳥落とす勢いで、地方の小さいフェスなどには本来出るはずもない俊一が「息抜き」と称して派遣されたのは、実は、金井が北原に入れ知恵したから。3泊4日の英二抜きのハネムーンで、身も心も溶ける俊一である。金井の激しいSEXで、何かの変化が俊一におとづれる。その変化に驚愕したのはむしろ本人よりも金井の方だった。
 時を同じくして、東京では、俊一の母が青山の自宅の階段で躓いて足を骨折し入院。北海道から帰った俊一は英二を伴って母を病院に見舞う。俊一は母に、英二を「一生いっしょにいるつもりのパートナー」であると紹介し、英二を感涙させる。その母が骨折治療の手術の際の麻酔の事故で帰らぬ人になってしまう。母は、俊一が見舞いに来た際に、俊一が矢代の父の子ではなく、不倫の子であること、本当の父は著名なピアニストだったことを明かす。母はその人が3年前に亡くなっていると告げたが、母の葬儀に訪れた上品な老人の姿をみて、俊一はその人が自分の父であると直感する。

8 WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE <矢代俊一シリーズ8>
金井恭平は新興宗教団体との恐るべきトラブルに見舞われ、その毒牙は俊一にもまた迫る(Amazonより)・・・・・・金井が長野の実家に妻子を送った関係で、不在にする期間が長くなり、俊一は金井恭平グループのトラを積極的に努めている。金井が家族がらみである新興宗教団体のトラブルの渦中にあると聞いて、俊一は心配を募らせる。そんな中、今度はその宗教団体のメンバーと思われる不審な黒づくめの男たちが、金井恭平グループのライブに現れ、今度は俊一の身辺に不穏な空気が流れる。俊一に類が及んだ、と知った金井は、俊一に別れを切り出すが、俊一は承知せず、金井を強引に押し倒す。(ちょっとニュアンスが違うかも?) 

9 GENTLE RAIN <矢代俊一シリーズ9>
金井恭平は失踪、そして矢代俊一にもまた新興宗教団体頌霊教団の魔手が迫る!(Amazonより)・・・・金井が突然失踪し、俊一はショックで倒れ、放心する。そんな俊一が不憫で、英二は黙々と俊一の世話をする。金井を取り戻すためには、金井を追いつめた《神の苑》教団を排除することだ、と思い定めた俊一は、苦手とする写真家渥美に頼み〈情報屋〉の野々村に接触する。
 野々村の事務所の一室で初対面の野々村と風間、苦手な渥美と会することになった俊一は、対人恐怖のPTSD発作を起こして昏倒するものの、野々村の協力を取り付けることができた。『ブルースカイ』アルバム発売記念ツアーが始動する中、《神の苑》教団も、サディスト渥美も、俊一に対して本気の実力行使にでて、翻弄されるばかりの俊一。金井を護るために渥美を頼った行動を “弱み”とみられて、渥美が俊一に強引に迫り、ついに陵辱行為に発展。長野のコンサートでは、俊一の誘拐を目論んだ教団実行部隊と、蓼科の夜の山道でのカーチェイスと大立ち回りになるが、俊一を追跡してきた金井と黒田の行動により助けられ、いよいよ、物語も佳境に差し迫る。 
 俊一が一層病弱に、物語はいよいよスペクタクルに。札幌のツアーでは結城クラウディアに会い、英語で語りあう俊一の普段の口下手との対比がちょっと面白い。俊一の内省はグダグダしていて退屈なところが多いが、物語の展開がスピーディーなので、サクっと読める。俊一の危機には必ず助けに現れる黒田さんが、ニヒルなキャラなのにちょっと可愛いい。 長野から命からがら東京自宅に帰還した俊一たちを警護するために、風間がセフレの黒須さんを連れて登場。黒田と黒須は同じ田沼組系列の筋モンという設定で、ついうっかりよその猫の縄張りで出会っちゃったボス猫(♂)とはぐれ猫(♂)な状態なのがこれも面白い。
 なお、この話の終盤で登場する野々村が、非常に憔悴・気落ちしており、島さんが亡くなったことが明かされている。 

10 CARAVAN <矢代俊一シリーズ10>
新興宗教団体の危険にさらされながらのツアーのさなか、さらなる災厄が矢代俊一を見舞う!(Amazonより)・・・信仰宗教《神の苑》撲滅にむけた仕掛けと同時進行で進む、全国ツアー後半戦。風間も俊一の護衛としてツアースタッフに加わり、金井と黒田は俊一から離れ《神の苑》を潰す本隊として行動している。緊張の最中、西日本へのツアーを開始する俊一だが、そこに、写真家渥美が風間を騙して俊一のホテルの部屋に入りこみ、俊一を激しく陵辱する。俊一は心理的なショックと、怪我を抱えたまま、ジャズ・ミュージシャンの執念で、岡山のステージに臨む。
 俊一の気迫に支えられたステージ1回目は、これまでにないテンションで大成功を収めるが、夜の2回目のステージ、第一部はなんとか無事切り抜けるものの、俊一は40℃近い高熱を発して幕間で倒れてしまう。発熱をおして臨んだ後半第二部のラスト、ソロの途中で俊一は倒れかけるも仲間の好演に支えられ、なんとか曲を終えた瞬間に意識不明となり、そのまま救急で運ばれた。二日の入院と休養を経て、九州・沖縄に転戦、俊一はなんとかツアーをやり遂げる。俊一が倒れた幕間に、ピアノの晃一にミュージシャンとしての覚悟と気概を諭す場面、そしてその教えをうけて晃一が大成長を遂げるステージが見物。なんか、やっぱり、俊一がSEXのことではなく音楽のことを考えている時のほうが、物語としては締まる。

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