2023年11月23日木曜日

0447 機龍警察 未亡旅団

書 名 「機龍警察 未亡旅団」 
著 者 月村 了衛 
初 読 2023年11月18日
読書メーター 
【単行本】      
出 版 早川書房 初版発行  2014年1月
単行本 401ページ
ISBN-10 4152094311
ISBN-13 978-4152094315
【文庫本】
出 版 早川書房 2023年6月
文 庫 608ページ
ISBN-10 4150315523
ISBN-13 978-4150315528

 「憎悪に潜む純愛と、寛容に潜む傲慢」
 結局人は自分の経験に依拠するしかない。いかに一心に思いを寄せようとも、想像を絶する残虐さは、恵まれた環境に生きる人間には寄り添い切れるものではない。
 安全で常識的な環境の中で培われた“慈愛”や“寛容”とやらが、地獄を味わい大きな喪失を抱える相手に通用するのか?
 日菜子はやはり傲慢だろうと思うよ。その「純粋さ」は幼稚ですらある。この重いテーマにこのロマンス。いるのか? 由起谷にしろ、城木にしろ、緑にしろ、なんとなく全体的にメンタリティが幼い気がするのは、たぶん気のせいじゃないんだよな。

 そうはいっても、今パレスチナで起こっていることを一方で眺め、一方でこの本を読んでいると、一体どこで、恨みと絶望の報復の連鎖を止めることができるのか、と考えてしまう。どこかで誰かが“もう殺さない”と決意し、その行動を変えなければ連鎖は止まらない。そしてそれはより多くの悲しみを背負ったものからしか発し得ないとも思う。世の中に確かに存在する狂気や傲慢や、絶望や怨念に相対することを迫ってくる月村了衛は、確かにエンタメの枠を超えてくる。

「日本警察は少年兵を、未成年の戦争被害者と見なすのか、それともテロリストと見なすのかだ」
 自分の目の前にあって、自分の行動次第で救えるかもしれない命のために全力を尽くす、図らずもそれを身を挺して示したのは城木の兄。命は天秤に乗るものではない。だから、その重みや価値を数や年齢で量るべきではない。だが「子供を守る」ということは、歴史や民族を超えて、本能に訴える。もしかしたら、「子供を守ること」は、この世で最大の正義なのかもしれない。紛争だけではない。貧困や、虐待や、あらゆる身近な暴力も、子供の未来に寄って立つことで、解決の道筋が見えてくるが、だからといってそれが実行可能かと言うと、極めて困難である。

 一方で、10代のテロリストをあそこまでして救う必要があるのだろうか?と、読んでいる最中もずっと考えてしまっていた。
 私の脳内のライザに「もし15歳の頃のお前を殺すことで、パディントン駅の惨劇を無かった事にできるなら、お前は15歳の自分を殺害するか?」と問い掛ければ、私の中でライザは「殺す」と即答する。それとも、ライザはそうは答えないだろうか。そんな問いかけは無意味だ。ミリーは決して生き返らない。と言うかもしれない。

 と、どうにも感想が重くなってしまうのは、この本のテーマがあれだから致し方ない。世界情勢に絡むテーマに加え、あまりにも歪なそれぞれの母子の関係、おまけに兄弟の相剋まで抱え込む様相だったので、けっこうきつかったのだ。城木の兄の宗方が、結局は良い奴であったことには心底ホッとしている。残された城木が心配ではあるけれど、きっと次作以降で一回りも二回りも大きくなってくれるだろうと期待する。由起谷とカティアの関係も、きっと未来に続くことを期待している。

さて、まったく勝手ながら。
妄想その①  カティアの逃亡を支援したのは実は東南アジアの裏社会に通じたユーリで、もちろん沖津も知ってる、と言うか噛んでる・・・・・とかだと、といいな。
妄想その②  カティアは成長して、特捜部の面々っていうか由起谷と再会がある。その時に事態は大きく変転する・・・・・とかだとと面白いだろうな。

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