2023年11月3日金曜日

0445-46 機龍警察 暗黒市場

書 名 「機龍警察 暗黒市場」 
著 者 月村 了衛 
初 読 2023年11月3日
読書メーター 
【単行本】      
出 版 早川書房 ‎ 2012年9月
単行本 416ページ
ISBN-10 4152093218
ISBN-13  978-4152093219

【文庫本】
出 版 早川書房 2020年12月
文 庫 上巻 320ページ/下巻 336ページ
ISBN-10 上巻4150314594/下巻4150314608
ISBN-13 上巻978-4150314590/下巻978-4150314606

 機龍警察三作目。なぜ、ユーリが特捜部をクビになった?
 うらぶれた風情でロシアの裏社会の人間がたむろする酒場に現れたユーリが、ウォッカをあおりながらロシアマフィアと繋ぎをつける。しかもなにか因縁がありそうな。何事かと思ったが、実は、ユーリは沖津の指揮による囮捜査に投入されていた。狙いはロシアンマフィアが仕切る闇の武器市場。そこで開催されるオークションに出品される新型の機甲兵装、もしかしたらそれは龍機兵かもしれない。
 すでに潜入捜査員に犠牲者を出していた組対と合同の、執念の極秘捜査が開始される。バーゲストに乗れるのはユーリしかいないのに、その貴重な乗員を囮捜査に使うとは、なかなか思い切った作戦であるが、それは、そもそもこのオークションに関わる男がユーリと因縁のある相手であったから。
 ユーリに提示された囮捜査の報酬は“シェルビンカ貿易事件”の再調査。ユーリにとって重大らしいその事件は、第2章で明らかにされる。
 
 読んでいて正直最初のうちは、その囮捜査にはムリがあるのではないか、と思ってしまう部分があったのだが、しかし、下巻に入ると、もうぐいぐい引っ張っていかれて、そんなことはどうでも良くなってしまった。
 実際のところゾロトフは囮捜査だと気付いていたはず。ゾロトフは非常に陰影の深い人間で、その思惑は単一ではなかったろう。ユーリの遺恨を晴らすために手を貸した側面もあるし、自身は体制に組みしないことを旨とする誇り高いヴォルでありながら、体制の手先となっていることに、骸骨女を頬に刻んだ父とはまた別の鬱屈を感じていたようにも思えるし。ユーリを生かし続けることは、実は叛逆でもあったかもしれない。それに、標的がバララーエフである以上、ユーリという要素を持ち込むメリットの方が多いと判断したかもしれないし、どちらに転んでも不利益にはならないと踏んだのかもしれない。

 今作のテーマは“相似”、そしてソ連崩壊後のロシアの腐敗の現実。関係性の相似、罪の相似、事件の相似、様々な事件や出来事が暗喩となって、ストーリー全体を構築している。それにしても、辛い、酷いと解っていて読むユーリの過去編は、読むのがしんどくてなかなかページが進まず。思いのほか読了に時間がかかってしまった。その分後半の疾走感が凄い。

 で、なにはともあれ、やっぱりユーリは『末っ子』だった。今後も不器用で真っ直ぐな性格のまま『末っ子』でいくんだろうな。力強い“兄”達の薫陶と、誇り高い痩せ犬の矜持を胸に、生きにくい世の中を生きていくんだろう。少なくとも、これまでユーリの胸にしこっていた恐怖や僻みや怯えのようなものは解きほぐされただろう。ユーリの真っ直ぐさは、姿にもライザにも、珍しい生き物みたいに見えるのかもしれん。

 あと、今回は關が、非常に良い味を出している。先々の絡みが実に楽しみ。できれば關で一本小説が読みたい。それに、今回は手に汗にぎる潜入捜査だったが、“突入班”であるユーリが捜査陣に加わって、全力で正攻法で敵を追いつめるってストーリーも読んで見たい。龍機兵の出所やその秘密はいつまで引っ張るのか、それに沖津のバックグラウンドもとても気になる。ライザと緑の関係ももう少し進んでほしいし、なによりライザの笑顔が見たい。突入班3人が打ち解ける様子、なんてのも見てみたい。三作目まできても、まだまだ謎や秘密や楽しみが一杯。次を読むのが楽しみなシリーズである。

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