著 者 三木 笙子
出 版 東京創元社 2018年8月
単行本 241ページ
初 読 2024年9月12日
ISBN-10 448802792X
ISBN-13 978-4488027926
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123046596
2018年8月に出版された本である。
三木笙子さんの本は、だいたい新刊が出ればすぐ買うので、なんと6年も寝かせてしまったことになる。申し訳ないことだ。
短編連作であるが、明治の東京の下宿屋を舞台に、穏やかな人間模様が描かれる。ブロマンス、というほどの熱量はないが、とても優しい。ミステリではあるが、凶悪だったり、阿漕に過ぎる人間は出てこず、大概人も死なない。
私にとっては、この本も心の包帯系である。
紙に文字を書いただけの、何の役にも立たない作り話が、この心を温めてくれる。
「それを読んだとき、心の中に灯りがともるような」小説こそ、まさに三木笙子さんが目指すものなのだろうと思う。
こちらは、「世界記憶コンクール」から始まる帝都探偵絵巻の主人公。こちらの物語もオススメだ。
私はミステリはさほど得意ではないので、謎解きはさっぱりなのだが、三木さんの本は、ミステリの体裁ながら、さほど謎解きには力を置いていない(と、思う)。謎を解こうとする登場人物の描き方が、控えめで、それでいて芯があって誠実だ。
明治の街や職業をよく考証しているのも素晴らしいと思う。この時代の町の様子や風物や空気感、人の体温や気持ちをことさら優しく感じる物語である。
ちなみに、装画はyocoさんた。これまた素敵な絵を描く御方で。帯も白く美しく、「本好き」の心をくすぐる一冊だ。
永遠の市
明治時代のお仕事小説の感がある。広告代理店と、老舗の醤油問屋。偽物が出ないようにと最新の注意を払って作られた醤油のラベルが貼られて、なんと粗悪品が出回っていると。
障子張り替えの名手
ある鉱物の精錬法で画期的な手法を考案し、特許申請間際だった書類が金庫から無くなった。おそらく内部の犯行。いったいだれが盗んだのか。
怪しの家
静修館の下宿人5人と大家の桃介、それに以前の下宿人の蒔絵師があつまって、有る家にまつわる謎解きをする。高広も登場。そして実は、真相を知っている。さすがの記者の役得。
妖怪白湯気
これも、とってもお仕事小説っぽい。明治の風呂屋事情と、風呂屋にまつわる仕事。どこにでも商機はあるものだ。よくもそんなニッチな仕事が、と変なところで関心する。
いずれも、三木さん、よく調べてるなあ、と関心しながら読んだ。
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