原 題 「UNCLE TARGET」1988年
著 者 ギャビン・ライアル
翻訳者 菊池 光
出 版 早川書房 1997年7月
初 読 2020年12月
マクシム少佐、4冊目。マクシム少佐の本はこれで最後。あまりにも勿体ないが、読まないわけにはいかない。
首相の交代で、ジョージ・ハービンガーと供に首相官邸を辞して以来、ロンドン軍管区で、隊を指揮しているマクシム少佐。迷彩の戦闘服に耳の穴まで迷彩のドーランぬったくって、楽しそうに部下をしごいている。訓練の成果を問われれば、「ガールスカウトの方がまし」。でも彼にいわせればこれは“誉め言葉”で、真意は部下にも伝わっている、らしい。
アグネスともベッドの中でしっくりしているとのこと。おやおや、いつのまにそこまで? 良かったじゃないか。でもまだ、プロポーズにまでは至っていない模様で、アグネスも弱冠収まりが悪そうに見える。
そんな折、ロンドンの某高級ホテルで人質事件が発生する。初めは誰もが自分には無関係とたかをくくっていたが、人質にとられたのが、現在情勢不安なヨルダンの軍事指導者だとわかり、しかもそれがマクシムの知り合いであることも判明。救出作戦にかり出されたSASのヘリが故障し、到着が遅延、人質は拷問されており事態は一刻を争う。なぜかホテルで現地指揮を執っているのがハービンガーで、もはやマクシムが突入作戦をやらざるを得ない状況である。
実はイギリスは最新式の戦車の試作品をヨルダンの砂漠で試走行させている最中で、ヨルダンで起きた軍部隊の反乱の最中、その戦車の行方が知れなくなる。先の人質拷問事件は、反政府側がこの戦車の行方を聞き出そうとしたものだったらしい。反政府側はソ連と繋がっている可能性が高く、新型戦車をソ連に売りつけようとしたのか、もしくは新型戦車の情報ほしさに東側が反乱を焚きつけたのか?
絶賛巻き込まれ中の当のマクシム少佐は、根っからの歩兵であり、より人間の戦闘力重視のSASが長かったこともあり、重鈍な戦車が好きではない模様。「君は戦車が好きではないのか」とのジョージの問いにこう答える。
「ばかでかくて、騒々しくて、煙とにおいが酷くて、窮屈で、やたら目を引く点さえのぞけば、不服はありません」
陣地の奪取はヘリでもできるが、それを守るのは人間だ、とも。そんな彼が人質事件の後始末で“外務省の使い”のためヨルダンに出向き、事件の録音テープをヨルダン当局に渡すだけのはずが、ついうっかり迷子の新型戦車の位置を特定してしまい、あれよという間に戦車爆破班のリーダーに。
“おれはテープを届けにきただけだ、とマクシムは無言でいい返した。はやく自分のデスクとアグネスのベッドに戻りたいんだ。”
そんな心の声にもかかわらず、気付いた時には作戦のど真ん中で指揮を執っている、マクシム少佐(平常運転)である。(笑)
そして、彼らを乗せて戻るはずだったヘリが墜落。マクシム達は爆破するはずだった戦車に乗って陸路サウジに向けて脱出を図ることになるのだが。戦車は好きではないといってはばからなかったマクシムが、だんだん戦車に愛着を覚えていくところがそこはかとなく可笑しい。
さて、マクシムが砂漠で野放しになっていると知って慌てるのがイギリス本国。なにしろ転んだら只では起きてくれない(?)男である。さっそく敵戦車1台撃破、の報が入ってきて外務省が頭を抱える。イギリス政府がヨルダンに賠償するんだぞ、と。
「・・・ヨルダンにおける我が国の方針は、目下ハリイ・マクシム少佐によってつくられつつあります。それを止めようにも連絡がとれないのです」
「マクシム? マクシム少佐? 何者です」
一呼吸の間がおかれてから、准将がこたえた。「戦車の指揮を————推測ですが———とっている男です」
「先日ホテルの人質事件でも突入しました」スコット—スコビイがつけくわえた。「事件となると役に立つ男です」「まだ事件になっていないときは」と、スプレイグ。「彼が行けば、5分以内に事件になります」
外務省、国防省、陸軍、情報部・・・・のおなじみの仲良しグループ(?)が寄せ集まって事態の進行をなんとか管理しようと空しい努力を続ける中、ハリイに寄せられる評価がコレだ。
そして、なんとかサウジアラビア国境まで目と鼻の先のところまできて、ついに反乱軍に包囲されるマクシムの戦車。そんな危機を救ったのは、結局のところ、アグネスとジョージのタッグなんだよなあ。愛と友情・・・・の物語では決してないのだが。なにはともあれ、非常に面白い。これは諜報物でも軍事物でもアクションでもなく、ただただ、マクシム少佐の為人を味わう本である。
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