2021年9月10日金曜日

0291 狼たちの城 (海外文庫) 扶桑社ミステリー

書 名 「狼たちの城」 
原 題 「Unter Wolfen」2019年 
著 者 アレックス・ベール 
翻訳者 小津 薫  
出 版 扶桑社 2021年6月 
文 庫 480ページ 
初 読 2021年9月10日 
読書メーター https://bookmeter.com/books/17991951   
ISBN-10 4594088031 
ISBN-13 978-4594088033
 オーストリアの作家アレックス・ベールによる、ナチス・ドイツもの。ちなみにアレックス・ベールは本名ダニエラ・ラルヒャーという女性作家。さてこの本、面白いはずなのに、と思う反面、物語に入り込めずもどかしい。それは多分、いくらフィクションといえども荒唐無稽に過ぎる展開ゆえ。

 東部(ポーランド)への集団強制移住を宣告されたニュルンベルグのユダヤ人達。病弱な老親、未婚の長男で主人公のイザーク、離婚して幼い2人の子どもを抱える妹の6人家族は、数日後の移送への不安に苛まれている。一家の主として家族の面倒を見なければならないイザークには、今回の東方への移送には、表向き言われていることだけでなくなにかイヤな予感がしてならない。
 一方、ニュルンベルグでユダヤ人絶滅計画に携わっているゲシュタポのユダヤ人問題課長。その男が自宅としていた改築されたニュルンベルグ城内の居室で、愛人の有名女優が殺された。その捜査に、ベルリンから特命を受けてある捜査官が派遣される。
 ゲシュタポの醜聞を狙って事件を起こしたと見做されて検挙されたレジスタンス。この四つが絡み合ってストーリーが展開するのだが。
 とにかく、主人公のユダヤ人青年イザークの巻き込まれ方も、その後の行動も行き当たりばったりで、それがはらはらさせられると言えなくもないが、こういう“はらはら”はあまり面白くないんだよなあ、と。練りに練って計算され尽くして、それでもわずかな計画のブレから発生するスリル、からは格段に落ちる。行き当たりばったりの結果、幸運と敵に運命を委ねすぎだ。「彼らが気付かなければ」というのが多すぎる。
 食事の時に、自家製ハムの有名店でハムやソーセージの料理を選ばず、コーシャにちかい魚を選んでしまう。うっかりユダヤ教の食前の祈りが口から出る。親衛隊員なら必ずあるはずの血液型の入れ墨がないことを見られてしまう。囚人の名前を聞いて明かに童謡する。ゲシュタポ本部で、知り合いのユダヤ人の老女に名前を叫ばれてしまう(!)
 いやあ、これは無理だろ(笑)

 タイトルは、ゲシュタポ高官の住まいに改装されたニュルンベルグ城———事件の舞台と、ナチの根城たるゲシュタポ本部を掛けたのかな、と思うがせっかくの中世の古城ニュルンベルグ城の影が薄くて残念。こちらでの謎解きにもっと力点を置いたらもう少し地に足のついた面白さになったのではないかな。ミステリーと歴史サスペンスとユダヤ人問題、の三兎を追って全部逃げてった感じだ。

 オーストリアが、ナチス・ドイツに併合された現代史と自国のユダヤ人問題とどのように向き合っているのかに興味があるので、正直、ドイツよりオーストリアのユダヤ人問題をテーマに書いてくれればよかったのに、とも思った。

 フィクションはフィクションであるべき、とは思うものの、600万人が無造作に虐殺された現実は80年たった今でも痛切に重い。作者のスタンスは那辺にあるのか、とか気になってしまうのもストーリーに没入できない理由の一つ。比較してもしょうがないが、良くも悪くもダニエル・シルヴァくらい歴史問題と自分の政治的スタンスが明確だと、読者も読みやすいのだけど。

追伸・・・310ページ8行目に脱字一字あり。

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