2021年9月11日土曜日

0292 神さまの貨物(ポプラ社)

書 名 「神さまの貨物」 
原 題 「La plus précieuse des marchandises」2019年
著 者 ジャン=クロード グランベール 
翻訳者 河野 万里子  
出 版 ポプラ社 2020年10月 
文 庫 157ページ 
初 読 2021年5月15日 
読書メーター https://bookmeter.com/books/16673522   
ISBN-10 4591166635 
ISBN-13 978-4591166635
Amazonのレビュー(書籍紹介) 大きな暗い森に貧しい木こりの夫婦が住んでいた。きょうの食べ物にも困るような暮らしだったが、おかみさんは「子どもを授けてください」と祈り続ける。そんなある日、森を走りぬける貨物列車の小窓があき、雪のうえに赤ちゃんが投げられた――。明日の見えない世界で、託された命を守ろうとする大人たち。こんなとき、どうする? この子を守るには、どうする? それぞれが下す人生の決断は読む者の心を激しく揺さぶらずにおかない。モリエール賞作家が書いたこの物語は、人間への信頼を呼び覚ます「小さな本」として、フランスから世界へ広まり、温かな灯をともし続けている。
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 大人のための、子どものための、すべての人のための真実を描いた童話。
 ルーマニアから迫害を逃れてフランスに渡り、そこで、医学を修め結婚し、男の子と女の子の双子が生まれたユダヤ人の男。しかし、フランスもナチスの手に落ち、家族ともども強制収容所に入れられる。そして『貨物』となり、東へ。
 やさしい言葉で語られているのは凄惨な事実であるが、 これが「実際にあった話」として語られたならば、あるひとつのユダヤ人家族の、一人の男の、一人の女の子の悲劇として受け止められるだろう。しかし、「本当にはなかった話」として語られたとき、この話は普遍的になる。そんな風に感じた。
 反語で語られる最終章。あったのだろうか。いたのだろうか。そんな問いかけが心の中に不安を誘い、胸にざわめきを残す。もちろんあったのだ。動物とされ、貨物とされ、無学で粗野な森の深奥の木こりにまで “神を殺した呪われた奴ら” “たんまり金をもった泥棒” と蔑まれる、ヨーロッパのすみずみにまで染みわたっている偏見が。その偏見がもたらした民族抹殺という悲劇が。そして、その偏見は、いまでも根強くあるはずだ。
 ここに具体的に登場するのは、ドイツ人ではなく、ヒトラーユーゲントでもない。(ドイツ人は“くすんだ緑の軍服”で表現され、赤軍は“赤い星を付けた”と表現されてはいるが。)具体的な人物として登場するのはフランス人であり、ポーランド人であり、ロシア人であり、彼の地の普通の人々であることが、印象的だった。
 少女がピオネールに加わり、最も模範的な少年少女として、党の機関誌を飾った、というエピソードも受け止め方は様々だろうと思う。私は、どのような国であれ、どのような文化や思想の元であれ、子どもという存在は、愛や、承認や、最高の栄誉にも値するのだ、と思いたい。かの国でも、ユダヤ人は虐げられる存在だと聞いている。貧しい木こりのおかみが女手一つで育てあげたかつて貨物であった少女が(黄色い星ではなく)赤い星を胸につけ、誇りと喜びと健康一杯でプロパガンダの一端を担ったことの皮肉も思い合わせながら。

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