2022年10月4日火曜日

0395 月神の浅き夢 (角川文庫)

書 名 「月神の浅き夢」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 2000年5月
文 庫 645ページ
初 読 2022年10月4日
ISBN-10 4043428049
ISBN-13 978-4043428045
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109413916

 いよいよ、『聖黒』を先に読んだことを後悔する。
 被害者 玉本栄、掛川エージェンシーってだけで、激しくネタバレ状態だ。まあ、そこはぐっと目をつぶって気付かないふりして読まなければ。って言ってるそばから、泉が、彼氏はコンピューターの天才なんだ、と。それって練以外にあり得ないじゃん? やっぱり脳内を一端初期化したい。まっさらな状態でリコシリーズから読み直したい。

 そうはいっても気を取り直して、あらすじのおさらいだ。リコは息子が3歳になり、やっと安藤警視と夫婦らしい生活を営んでいる。そしてついに、刑事を辞職して息子を育て、夫に守られる生活に入ってしまおうか、と心が傾いているよう。安藤とは、長野県松本のリコの両親・・・というよりはリコの父に、結婚の赦しをもらいに行こう、と夫婦で話あっているところ。 父にとっては、リコは職場で上司と不倫して、警視庁を追われた不名誉極まりない娘だったし、安藤は、既婚者でありながら部下の初心な娘に手をだして、おまけに未婚の母にまでした、憎い男だ。しかし、生まれてきた孫は可愛いし、安藤が身辺を整理して、リコと結婚の覚悟を決めたとあっては、和解する潮時だった。

 そんな矢先に、凄惨な連続殺人事件が発生する。犠牲者はすべて私服刑事。独身、美男子。
 手足と性器を切断されて、首を吊られた状態で発見された。犠牲者はすでに5人に及ぶ。
 特別捜査班が警視庁に設けられ、辰巳署のリコも、新宿署の坂上も、特捜班の助っ人に駆り出される。警視庁は、リコにとっては鬼門。今でも偏見に満ちた軽蔑の目で見る刑事たちが大勢いる。その中で、特捜班を指揮する高須は、ここで実力を見せつけろ、とリコに命じる。
 リコの捜査と、捜査の成果をこえる閃きで、事件は過去の警察の汚点であるある冤罪事件につながる。その事件の捜査には、リコの夫の安藤や、その部下だった高須も、そして麻生も関わっていて・・・。その事件の被害者の娘と、その娘につながるもう一人の娘の存在が連続殺人事件の焦点となっていくが・・・・・・

 つかみは上々。
 だがしかし。児童福祉に関する知識がちょっと寸足らずな印象を受ける。
 子供の保護を受け持つのは福祉事務所ではなく児童相談所だし、児童養護施設はたしかに児童福祉施設の一つではあるが、ここでいうならやっぱり「児童養護施設」だと思う。
 入所している子供の保護理由の多くが母親からの虐待で、もう一つ多いのが父親からの性的虐待である、とかもどうなの?
 むろん性虐ケースはそれなりにあるが、この二つが代表であるかのような書きっぷりはちょっと違うように思った。実際には身体的虐待や非行、養育困難の方が多くて、たぶん、性的虐待は件数的にはそれほど多くない。それは、実数が少ないからではなく、表面化しずらいため子どもの保護に到らないって理由もあるだろうと思う。作品の中で、子供の虐待について、登場人物にあんなに語らせず、曖昧にぼかしたままでも十分ストーリーは成立しただろうに、あえて詳しく語っちゃったせいで、かえってリアリティが薄れてしまったのが、残念に思えた。
 もし、新版とか改訂版とか出すチャンスがあったら、児童福祉制度に詳しい人にちょっと監修してもらえるといいんじゃないかな。

 捜査の謎解きは、せっかくきめ細やかに捜査を積み重ねているのに、肝心のところはリコのひらめきに頼り過ぎてるんじゃないかな。まあ、リコはそういう「捜査のカン」が優れた刑事ではあるんだけど、もっと理詰めでもいけそうなのに。泉の表情から、許されない命がけの恋をしているのだ!というくだりなんかは、思い込みが強すぎでないかい。

 話の流れからもっと、練の冤罪事件に切り込むのかと思いきや、そこはそれほどでもなかあた。練の事件への関わり方があまりにもさりげなく、しかもリコへの絡み方もモロ好みで、やっぱり練が主役じゃあないか、と。
 練が泉を住まわせるために調度を整えてやったマンションの描写にもなんだか胸がつまる。
 しかし、練がかなり淡々としているのに、麻生はひとり悶々として、あげくにリコに慰めてもらうって、どんだけ身勝手なんだ麻生!!
 それに、練は斎藤の出所を出迎えてやったのだ。練はやっぱり、麻生に出迎えてほしかったんだろうなあ、と斎藤が練に出迎えられて驚いたってくだりで思ったのですよ。
 今作では、練のいろんな顔を見ることが出来てその点でもとても満足。

 連の冤罪事件については、『海は灰色』を待つしかないようだ。いや、批判ばっかりしているように見えるかもしれんが、私はこの一連の作品群が大好きだ。あとは大切に取っておいてある、ハナちゃんシリーズが2冊のみ。続編の刊行を切望する。

 それにしてもラスト。練はリコにどのように語ったのだろう。


0 件のコメント:

コメントを投稿