原 題 「THE CROCUS LIST 」1985年
著 者 ギャビン・ライアル
翻訳者 菊池 光
出 版 早川書房 1995年4月
初 読 2020/10/17
「プレイペン作戦」
核攻撃危機下における首都要人移送作戦である。
ヘリで首都の国王・政府要人等を直接「核」の影響の及ぶ範囲外に緊急輸送する秘密作戦。ヘリは飛び立ったら戻ってこないのでプレイペン作戦を指揮する現地指揮官は、そのまま残留し、必要とあらば(可能な状況であれば?)後方残留作戦(敵占領下における組織的レジスタンス戦)に移行する・・・・・・
首相の退任でジョージ・ハービンガーとともに首相官邸を去ったマクシムは、陸軍のロンドン管区に異動している。ハービンガーは国防省に出戻り。ハービンガーって、国防省の文官だったのか。
マクシムは自分の出身部隊に戻ったわけではないらしい。もともとSASで海外勤務となっていた期間が長くて出身部隊と縁が薄くなっているところに、首相官邸付きの空白期間が加わり、マクシムの履歴はいささか危機的な状況に陥っている。少佐になって幕僚大学校に進むタイミングで中東で戦傷を受けて、6か月の時間とチャンスを既にフイにしており、有能である事は誰もが認めているものの、軍幹部に昇進していくためには是非とも(政治と社交に)必要な妻もテロで失っている。今回の配置は、せめてここロンドンで余暇のたっぷりある任務を割り当てて、異性と出会い再婚するチャンスを与えようという軍の温情であるらしい。目下はプレイペン部隊に割り当てられ、後方残留作戦やらの研修・演習の日々。
そこに突然、ロンドンを騒がず事態が起こる。
もと軍人の老公爵(王族)が亡くなり各国要人が集まる盛大な葬儀が行われる。
そこにアメリカ大統領まで来ることになり、警備上の大問題となる。ひそかにプレイペン作戦の予備段階が発動し、大統領警護の特別編成小隊の指揮はマクシムが担うことになった。そして葬儀のさなか、寺院の中で発砲されたAK47。犯人はマクシムに発見されて手榴弾で自爆、ソ連製の武器をあからさまに使った凶行に、ソ連の立場を損いたい勢力の関与が疑われる。
マクシムは国内外のもろもろの思惑を収拾するために「命令からの逸脱行為」やら「無謀な追跡」やらの責任を問われてて生贄にされかねない事態に。つくづくと不運な男である。しかしマクシムが気になるのは我が身の無事より事実。「ロシアとのかかわりをどうやってもみけすのか?(出来るのか?)」 若干天然気味の斬れ味鋭いツッコミが彼の持ち味である。(笑)
そんなこんなで、自分の身を自分で守らざるを得なくなるマクシム、そして、そんな立場にマクシムを追い込んでしまったジョージは、なれない諜報活動に首を突っ込む羽目になる。前巻までは辛うじて保たれていた上下関係も、首相官邸を離れればもはや「友人」としか言いようのない関係で、こうなると、どう見てもマクシムの方が天然なだけに強い(笑)
アグネスに対してはマクシム、紆余曲折の末なんとか「愛している」との自覚に達し、今後の展開が楽しみ。今回、なぜせっかくのチャンスに童貞ティーンエイジャーみたいなことになってしまったのかは謎(笑)。次は上手にベッドインできると良いのだが。
そして、なんと言っても今回の一番のお気に入りは、プレイペン作戦本部の副本部長だ。退役陸軍少将。現在のマクシムの上司。ご老体なんだろうが、いやあ、しみじみと格好良い、筋金入りの軍人。マクシムにこんな理解者がいて本当に良かったと思う。
「ハリイ。きみは孤独な道を歩んでいるようだな・・・・」
「よろしい。3時間与える。連絡がなかったらわしがなんとかしなければならん」
自由裁量を許すだけでなく、その責任を取ることまでも請け負ってくれる立派な上官である。人間、こういう上司の下でなら、120%以上の能力を発揮するものだ。今時はこういう人物は貴重品かもしれない。
他の人のレビューをみるとこの本、他のマクシム本にくらべてそんなに評価が高いわけではないのだが、いやあ、面白かったわ。全体的に派手さはないが、じっくりと読ませてくれる。政治の姑息さも、官僚組織のあれこれも、スパイ組織のこれそれも。結局の黒幕がアレとか、あいつも仲間だったのか、とか、ちょっとラストのインパクトが物足りない気もするけど、どうやって収拾したのかも気になるけれど、その後ちゃんとベッドインできたのか、とかも色々と気になるけれど、なにしろ、マクシム少佐の為人を味わう本なので(笑)
それにしても、最終的に某モスクワの諜報機関とはどのように落とし前つけるんだか。ハリイの身の安全は守られるのか???
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