2021年8月28日土曜日

読書の儀式と有隣堂


本を読み始める前にブックカバーを掛ける。
私の読書は、その文庫本のイメージに合わせてブックカバーの色を選ぶところから始まる。



で、今日、そのブックカバーを並べてみて、ふと、デジャブを感じた。
これは・・・・・どこかで見た、というか遠い過去に身についた習慣じゃないか?
そう。横浜出身の読書家ならご理解いただけるのじゃないだろうか。
これは有隣堂の文庫本カバーのイメージだ!間違いない!!



いやあ、いままで気付かなかったよ。そうかそうか。

今でこそ、ブックカバーは
BIBLIOPHILIC

のスウェードに格上げされているけど、どう見てもイメージは同じ。
どうりで落ち着くわけだ。

 思えば、小学生の頃から、毎日、放課後の1〜2時間は有隣堂で過ごしたもの。
 カバーのお色はどれになさいますか?と聞かれて、本のイメージと合わせてブックカバーを選ぶこの習慣は、間違いなく有隣堂のレジ前で身についたものだ。なにしろ私のお小遣いの大半は、有隣堂の売り上げに変身したのだ。(その分立ち読みも沢山させていただいた。当時はありがとうございました。)なんだか幸せな思い出だ。

2021年8月27日金曜日

0289 セーフハウス(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「セーフハウス」 
原 題 「Safe House (Burke Series Book 10)」 1998年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 菊池 よしみ  
出 版 早川書房 2000年1月  
初 読 2021年8月20日 
文 庫 521ページ
ISBN-10 4150796092 
ISBN-14 978-4150796099
 ハードカバーの『嘘の裏側』と『鷹の羽音』をすっ飛ばして、今作を読む。今作から翻訳は菊池よしみ氏。
 雰囲気や文体は、これまでの佐々田昌子氏の訳と違和感なし。ただ、微妙に言葉づかいが気になるところもある。
 冒頭気になったのが、バークに対するプロフの呼びかけで、数ページのうちに「兄ちゃん」「お若いの」「坊主」「兄弟」と変遷していく。こうなると、原著はどんな言い回しをしているか気になってくる。
 まあ、気になってしまったので確認してみると、兄ちゃん=Schoolboy お若いの=youngblood 坊主=son   だった。うーん、これはきっと翻訳も苦心されてるよな。日本語で「兄ちゃん」「お若いの」「坊主」がそれぞれ使われるシチュエーションや、この言葉を使う主体や客体って微妙に違うような気がする。だから読んでいて違和感を感じたのかな。
 あと、「オーケイ」というセリフの多用が目立つ。はっきり「オーケイ」と訳して違和感ない箇所もあれば、相手のセリフの合間に「それで?」と肯定的に相づちをうちつつ話の先を促す、とか、相手の理解や同意を前提に軽く確認するようなシーンもある。日本語であまりしない使い方なだけに、しかも「オーケイ」そのものは日本語に馴染んでいるだけに、この「オーケイ」がかけっこう浮いている。
 この半分くらいを「いいか」「それで?」「だろ?」「〜でしょ?」とかで軽い会話で流してくれると読みやすいんだけどな。
 もう一つ、引っかかってしまったのが 「もうひとりは、新品の靴を見せびらかして歩き回り、おれのコックをしゃぶったことのある女。」・・・コック、、、ねえ。わたしゃ『ナニ』も『竿』も表現としちゃあ好きではないが、まんま『コック』ってのも芸がない気がする。
 にしてもだ。
 ヴァクスの文章って、読むのはおろか、訳すのはとてつもなく大変そうだ。冒頭の

“Aren’t they just perfect?” she asked.
“Absolutely,” I assured her. 
“They’re so beautiful, I just hate to take them off.” 
“They won’t get in the way,” I said.

という会話が、

「このおっぱい完璧じゃない?」
「申し分ないな」
「すっごくきれいだから、ちっちゃくしたくないのよ」
「別に邪魔にはならないさ」

と訳されているのを見て、プロってやっぱり凄い、とも思ったのよ。

 さて、本題にはいる。
 今回はバークのところに、昔のムショ仲間が厄介事を持ち込んでくる。
 ちょっと脅すだけのはずが、ある男を殺してしまった、と。重罪で前科二犯のハーキュリーズ通称ハーク、は当然ながら捕まりたくないし、ムショに戻りたくない。で、バークに泣きついてきた。
 世話のやける、ちょっと思慮の足りない男ではあるが、人好きのする性格で、義理人情に厚い、いい漢である。かつての仲間を見捨てることができないバークが、同じおつとめ仲間であったプロフと調査に乗り出す。バークがある酒場で張っていると女—クリスタル・ベスが接触してくる。クリスタル・ベスは、配偶者に虐待された女性のための隠れ家「セーフハウス」を運営しており、この組織とそれが運営する施設に庇護されている女性と、自分自身を守るために、ある男との対決を強いられていた。そしてその助っ人としてバークに白羽の矢を立てたのだ。だが、そこにもう一つ、白人至上主義者(ネオナチ)の秘密結社への潜入捜査、という筋書きが絡んでくる。
 セーフハウスと対立する謎の男プライスは、どうやら政府機関の員数外の要員のようだ。アウトローのバークと、やはり法の外側で戦うプライスが、牽制しあいつつも共闘する中盤以降が実にスリリングな展開となる。この辺りでようやく文体にも慣れて、スムーズに読み進められるようになった。中盤になるまでほとんど話が混沌とし、ラスト1割切ってから最後の数ページで事態が動くのはこれまでの巻と同様。途中の被虐待女性達の保護活動のエピソードなど、冗長さを感じないでもないが、そこはまあ、ヴァクスだし、終盤の作戦行動へのタメとしては丁度良い。

 バークシリーズのこれまででは、バークはいわば「虐げられた子供」だった。虐待された子どもに自分自身を投影して、過去の自分を救うように子どもを助けていたのがバークだったのだ。子供(の魂)が子供の敵に復讐をする、という筋書きである。そこでは、子どもの親はむしろ「敵」として描かれていたようにも思う。しかし今作では、バークが大人になったと感じる。「ゼロ地点」からの回帰を経たバークの内面の変化だろうか。自分自身が母との親密な関わりを持ちようがなかったバークは、これまで母を守るという視点はあまり出てこなかったのだが、今回の作品には、子どもを守る為にその母親も守る、という行動の広がりがある。こういったバークの変化もこのシリーズの密かな魅力であると感じる。

 しかし、登場する女達、ヴァイラやクリスタル・ベスがウザい、と思ってしまうのは、自分が女だからだろうか?男性読者は彼女達のような女はオーケイなのか? 機会があったら誰かに聞いてみたい。

2021年8月16日月曜日

0288 ゼロの誘い(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ゼロの誘い」 
原 題 「Down in the Zero(Burke Series Book 7)」 1994年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1994年5月(ハヤカワノヴェルズ) 
初 読 2021年8月16日 
文 庫 538ページ
ISBN-10 4150796084 
ISBN-14 978-4150796082
 ずいぶん長い時間が過ぎた。あの家に踏み込んで、子どもを殺してからだ。
 子どもを殺した。今はそういえる。一言一言はっきりと。

 あの家に踏み込んだ。このおれが。そこで何をするか承知の上で。

 おれは落とし前をつけるために、あの家に踏み込んだ。ことが終わったとき、死んだ子どもがおれの憎しみの形見として残った。
 
 やつらは殺したが、おれ自身があの子を生け贄にしてしまった。

 あの家に踏み込んで、児童虐待(殺害)ポルノの一味を皆殺しにしたのは、自分の過去への復讐だった。しかし、その憎しみのはけ口には落とし穴が。一味が連れ込んで今まさに餌食にされようとしていた子どもがいたのだ。そんなことには思いも至らなかったバークは銃弾の雨を降らせ、その子を巻き添えにしながら一味を殺害してしまった。自分も肩に銃弾を受けたが、それよりもバークの精神が受けた痛手の方が大きかった。
 「ゼロ」は死。バークが度々口にする「ゼロ地点」は自殺したときに落ちる場所である。(必ずしも物理的な意味ではない。)子どもを殺してしまったバークは、死に近いところで、その誘いにそよいでいた。
 ファミリイ達や、戻ってきたミシェルはバークを案じている。
 クラレンスはプロフに心酔し、バークのファミリイに加わったようだ。

 そんなバークに、とある10代の若者ランディが助けを求める。自分の周囲の若者たちが次々に自殺して彼は怯えている。彼の母親は若いころバークと因縁があり、困ったことがあったらバークに電話しろ、と息子に言い聞かせていたらしい。そんな成り行きで、バークは若者の連続自殺の謎を探りランディを守るため、ニューヨークを離れてコネティカット州に出向く。『ブロッサム』と同様、ニューヨークの裏街を離れたバークにはなんとなく安穏とした雰囲気が漂っている。

 「良い家庭」の甘ったれたお坊ちゃんになかば呆れつつも、ランディの助けに乗り出したバークが状況を探りはじめると、ファンシイ、チャーム・・・・と正体不明な女が次々に出てきて、バークが何を探しているのか良く分かららず、中盤過ぎるまでは雲をつかむような手応えの無さで読んでいて困惑する。エロシーンの多さでは『ブルーベル』に次ぐ。
 SMの女王役でしか男と関われないファンシイに、大切に扱われることを教えながら男女の恋愛に引き込んでほぐしていくバーク。しかしなんだろう、ちょっと独りよがりな感じを受けないでもない。

 若者ランディーは、車いじりが好きで運転の才能があり、バークと関わるなかで自然と興味と能力を開花させて自信を付け、バークに信頼を寄せていく。そして、実は自分の自殺を怖れていたわけではなく、好きになった女の子が自殺することを怖れていたのだと告白する。

 人のために何かをする。自分のことはとりあえず忘れて、他人の為に没頭することが、実は自分を癒やし、救うことになる、というのは真理だと私は思っているが、まさにそんなストーリー。
 自分の中の傷を持て余していたバークが、ランディーを手助けし、一人前になるのを見守り、ファンシイの心の傷を慰めるうちに、次第に強さを取り戻していくのだ。

 双子の姉妹であるファンシイとチャームもまた、近親相姦と虐待の犠牲者だった。父に支配され続けた双子は、それぞれの方法で、他人を支配することで世の中に復讐をしている。それを見定めたバークが選択した落とし前の付け方とは。

 今回は、コネティカットの白人上流社会での事件のためか、それに、ホームグラウンドを離れているためか、ある意味、大人の決着をつけるバークである。銃撃戦を闇に葬れる環境ではないので、そこは仕方がないことだろう。しかしそこにいたるラストの数十ページは、非常にスリリングで、読み応えがある。

 ヴァクスの著作は、ハードボイルド、であるとかノワールであるとか、エロであるとかの小説としての出来以外に、ヴァクスが明確に(ただし暗に)描き出したい児童虐待にまつわる、もしくは被虐待児の生涯にわたる影響に関わるテーマがあると感じる。そういう意味では、このストーリーの(隠れていない)テーマは「癒やし」だろう。人は、人と関わり、他人の為に無私になるとき、自分自身も癒やされる。自分の癒やしを望んで、自分の事ばかり考えていると、かえって病んでしまうのだ。チャームのように。ファンシイとチャームの決定的な差異もそこにあるような気がする。



2021年8月15日日曜日

カリン・スローター 作品リスト《ウィル・トレントシリーズ》



 なんつう、印象的な瞳の女性だ!というのが第一印象なカリン・スローター女史。
 ここまで美しく知的な瞳にはなかなかお目にかかれない。
 かなりS寄りで流血描写もドンとこいな私も生唾飲み込む、微に入り細を穿った残酷描写もお手のものなタフな作家さん、というイメージです。(まだ読んでいないけど!)
 とりあえずは、ウィル・トレントシリーズを読みたいのよね、例によって翻訳出版事情により、複数出版社をまたぐシリーズなので、リストアップしておこう。まだまだ読むのは先、と思っていたのだけど、ハーパーBOOKSさんが、Kindle版半額セール中(!)なので、とりあえず入手しておく。第一作目、『三連の殺意』だけはすでに入手済みだ。

【ウィル・トレントシリーズ】 
    オークラ出版〈マグノリアブックス〉
1     三連の殺意(2016年2月)                  Tripty(2006年)                      多田桃子 
2     砕かれた少女(2017年4月)              Fractured(2008年)               多田桃子 
 ハーパーコリンズジャパン〈ハーパーBOOKS〉 
3     ハンティング(2017年1月)              Undone(2009年)                   鈴木美朋 
4     サイレント(2017年6月)                  Broken(2010年)                    田辺千幸 
5     血のペナルティ(2017年12月)        Fallen(2011年)                       鈴木美朋 
6         〈未訳〉                                                   Snatched(2012年)       電子書籍、中編 
7     罪人のカルマ(2018年6月)             Criminal(2012年)                  田辺千幸 
8         〈未訳〉                                                  Busted(2013年)            電子書籍、中編  
9     ブラック&ホワイト(2019年6月)Unseen(2013年)                     鈴木美朋 
10   贖いのリミット(2019年1月)         The Kept Woman(2016年)  田辺千幸 
11   破滅のループ(2020年6月)            The Last Widow(2019年)     鈴木美朋 
12  スクリーム (2021年6月)                The Silent Wife(2020年      鈴木美朋 

2021年8月14日土曜日

「あなたの愛読書は?」

 数年前にあるネットサイト(業務用)にユーザー登録をして、パスワードを設定した。
 パスワードを忘れた時用にキーワード設定をしたらしいんだが、その設問が「あなたの愛読書は?」

 ・・・・・・愛読書?何年前だ?
 とりあえず、永遠の愛読書から入力してみる。『指輪物語』『ゲド戦記』→×
『叛逆航路』
『ラドチ戦記』
『栄光の旗のもとに』
『ユニオン宇宙軍戦記』→ここまで全部アウト
『コール&パイク』・・・・さすがにグレイマンは無いだろうな。・・・・・解らん。
こんなキーワード設定した自分、バカだ。あ、『鷲は舞いおりた』をまだ試していない!




設定したときには、「永遠不変」と思っていたハズなんですよね〜。もはや永遠の謎です。

2021年8月11日水曜日

0287 もう耳は貸さない (創元推理文庫)

書 名 「もう耳は貸さない」 
原 題 「RUNNING OUT OF ROAD」2020年
著 者 ダニエル・フリードマン 
翻訳者 野口 百合子  
出 版 東京創元社 2021年2月 
文 庫 343ページ 
初 読 2021年8月12日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100323060  
ISBN-10 4488122078 
ISBN-13 978-4488122072
 バルーク・シャッツ 89歳、元刑事。刑事引退後35年も経ってから巻き込まれた殺人事件で犯人に襲われ、撃たれ、骨折したのが前々巻、87歳の時の出来事。
 それが原因で歩行器が手放せなくなり、日常生活にも介助が必要になったため、一生を過ごすつもりだった自宅を手放し老人ケア施設〈ヴァルハラ・エステート〉に妻のローズと共に入居した。住み慣れた、長年かけて手入れをし愛着のあった自宅や家財を手放さなければならなかった痛手は、もちろん専業主婦だった妻ローズの方が大きい。それでも70年連れ添った頑固な夫の為に、必要な判断は果断と下すローズは影の主役とも言っていい。一方のバックにとっては、家庭とはローズそのもの。そのローズが癌に冒されていると判明するところから。

 どうしてもローズが癌である、という情報が頭に入らない。アルツハイマー性痴呆の進行かと思いきや、妻の病気、そして近い将来妻に先立たれる、という事実を気持ちが受け入れるのを拒否しているから、のよう。イヤな事は早く忘れてるのは人間の脳の機能だし、絶対イヤなことは意地でも聞かなかったことにしてしまう老いた脳がなにやら愛おしくもある。
 自分自身が、だんだん老いた先のことがリアルに考えられるようになってきて、この話は身につまされる。なによりバックの進行する老化がリアルで、やがて自分もこうなっていくのか、と読んでいてなんだか気分が暗くなる。住み慣れた大切な家や親から引き継いだ家具や、愛着のある食器を全て売り払って(老人ホームに持ち込めないから)も、そのホーム2ヶ月分の家賃にもならなかった、というのが現実的すぎる。自分にもそんな日が来るんだろうか、そもそも、そこそこ世話の行き届いた有料老人ホームに入居することすら叶わない可能性の方が高いのでは?(特養に入る段になったら、もはや愛着などといっている余裕はきっと無いだろう。) それでも、自分が信念を貫いてきたという確固たる記憶と自信があれば、バックのように毅然と(←本人としては)、超絶傲慢・頑固に(←周りから見たら)していられるだろうか。

 さて、話は、バックが若い頃の連続女性殺人事件にさかのぼる。
 バックがかつて逮捕した因縁の殺人犯(シリアルキラー)が、あと数週間で死刑執行される。
 州で選択している処刑方法は致死薬。
 あるラジオ・ジャーナリストが、この死刑囚に目をとめ、彼の「冤罪」の主張と死刑制度の是非を連続番組で取り上げる。
 ラジオのインタビューの書き起こし(犯人側と死刑制度廃止論者の意見)と、バックがこのことで助力と頼んだ孫のテキーラに聞かせる導入からの1950〜70年代のバックの事件捜査が交互に差し込まれた構成がけっこう面白い。バックはたしかに行き過ぎなところがあるが、やはりいい刑事だった。人種や境遇にかかわらず、女性、セックスワーカー、社会的弱者の犯罪被害者に心を寄せ、人種差別やユダヤ人への偏見渦巻く市警の中で筋を通し、ユダヤ人として嫌がられながらも、その捜査姿勢を市警の中で認められてきていた。
 バックの代わりにジャーナリストと渡りあうテキーラもなかなかのもの。こいつは良い弁護士になりそうだ。
 結局、体制(資本主義)とそこに発する社会悪が個人の犯罪の根源で、犯罪者も体制の被害者であり、体制(=世の中)が改まれば全てが解決する、と主張するジャーナリストと、体制も悪いかもしれんが、悪を為すのは個人で、そのような個人は裁かれなければ被害者は報われない、と主張するバックの主張が歩み寄ることはないが、薬物による処刑の問題性(非人道性)は、当のシリアルキラーが死刑執行に失敗し、延々苦しみながら(自業自得、というか因果応報)死んでいく姿をさらすことで逆説的に読者に投げかける。
 ジャーナリスト側は、死刑廃止論と真性のシリアルキラーの冤罪の訴えを混同して取り扱ったのが敗因。
 悪は図らずもがっつり罰せられ、死刑廃止論、というよりも残虐な刑罰の是非を読者に投げかけ、バックは頑固ながらも嫌々老いを迎えいれ妻ローズの病気に向き合う、というなかなか良く出来たストーリーだった。これまでシリーズ現3冊の中では、一番良いと思う。

2021年8月9日月曜日

0286 運のいい日 (創元推理文庫)

書 名 「運のいい日」 
原 題 「LUCKY DAY」
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2016年12月 
文 庫 237ページ 
初 読 2021年8月8日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100138674   
ISBN-10 4488208061 
ISBN-13 978-4488208066
『さよなら、シリアルキラー』3部作のおまけの前日譚。
ハウリー、ジャズ、コニーの短編と、ジャズとビリーの運命の日、G・ウィリアムのビリー逮捕のいきさつ。

キャリア・デイ
 日本の中高生も最近はカリキュラムになっているらしい「キャリア教育」・・・・自分の好きなことは、得意なことは、夢は、希望は————って、何の経験も、自己認知もまだまだなティーンにステレオタイプな自己イメージの確立を促したら、将来自分のなりたい職業に就けるのか?って話だ。それよりも、労働の意味とか、人は何をもって報われるのか、とか、自力で食っていくことの重要さを教えてほしい。
 自分の好きなことを仕事にできている人間が、はたして世の中の何%いるのやら、学校の先生には自分の胸に手をあてて考えてもらいたいもの。人のやりたがらない仕事であっても、社会的に必要な仕事がある、とりたてて自分の得意分野でなくても、他人や社会との関わりそのものが目的となりうる・・・・・というのは、この本にはまったく関係ない。

 卒業して社会に出ている先輩たちの話を聞いて、将来の自分の姿を考える、という、まあいずこも同じカリキュラム〈キャリア・デイ〉の授業を受けるジャスパー16歳。自分の適性、親の仕事、、、、教師の問いかけに、ただただ困惑。可哀想に。結局授業後のアンケートに書いた答えは「安全になりたい」、でも同時に、親に与えられた名前「ジャスパー」ではなく、「ジャズ」を選ぶ。これが彼の自己の確立の第一歩だったのかも。
 
ハロウィン・パーティー
 なんとか女の子を引っかけて童貞を喪失したいハウリーが、田舎町の悪名高い有名人ジャズとその彼女コニーを引き連れ、ちょっと離れたよその町のハロウィンパーティーに紛れ込む。
 本当の気持ちは、いつも周囲の好奇の目にさらされている親友を、周りに誰も知っている者がいない、普通の人にとって普通な場所に連れ出したかったから。そしてもちろん、自分の冒険も。ハウイー、良い奴。

仮面
 ジャズと演劇クラブ。ぜったいに人目に立つことなんかしたくないはずのジャズが、なぜ演劇部? もちろんコニーに引っ張りこまれたに決まっているが、自分も他人もコントロールする術を叩きこまれてるジャズは、なるほど、演劇と相性がよかった。それにしても白い仮面のパントマイムは怖すぎ。嫌がりながらも、自分ひとりで一生懸命考えて(たぶん練習もして?)きただろうジャズが真面目で愛おしい。

運のいい日
 平和な田舎町で起こった殺人事件。それを追う老齢に差し掛かった保安官。犯人はまさかの町の住民だった。踏み込んで拳銃を突きだした先には、13歳の少年ジャスパー。手には父の宝物の数々。言われたとおり、手に持ったボストンバッグを床におとし、手を上げる少年。この日、ジャスパーの狂った世界は、正しい世界にむけて崩壊した。

2021年8月7日土曜日

0285 ラスト・ウィンター・マーダー 〈さよなら、シリアルキラー〉 (創元推理文庫)

書 名 「ラスト・ウィンター・マーダー 〈さよなら、シリアルキラー〉」 
原 題 「BLOOD OF MY BLOOD」2014年
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2016年5月 
文 庫 494ページ 
初 読 2021年8月8日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100201195   
ISBN-10 4488208053 
ISBN-13 978-4488208059
 「本当にかわいそうにな、ジャスパー」

 この一言に、ここまでのジャスパーの苦難が凝縮され、どうしようもできない理不尽が語り尽くされているように感じる。

 私個人の職業の中で、児童虐待に関わった大して長くもない数年で自分が考えたことにも通じる。

 人生は理不尽だ。子どもが自分の人生の与条件を自分で変えることはできない。虐待する親も、不幸な生い立ちも、来なかった助けも、見当外れな介入も、経済的な困難も。
 だけど、自分の人生を少しでも良いものにしていくことは、自分にしかできない。世の中が不平等なんだと全身全霊で知り、覚悟を決めて、そこを出発点とすることでしか人は本当の意味での大人にはなれない。ついでに言うと、人は不幸でも案外生きていける。
 人はひとりひとりが違う。それを理解するということは、どういうことなのか。人は大事。人は本物。ミステリやサスペンスはさておき、そんなことが、この本にも凝縮している。
 まあ、アンドリュー・ヴァクスとこの本を「同じ文脈」で読むのが正しい読み方かどうかは知らんが。

 さて、前巻ラストで、ジャズ、コニー、ハウイーが3人それぞれに絶対絶命に陥ったところからスタートするこの巻。

 とりあえず、コニーもハウイーも、そしてジャズも生きている。そしてジャズの危機が図らずもコニーを助けることに。〈みにくいJ〉は誰なのか。そして〈カラスの王〉は? 生きていたジャズの母は?
 ビリーの自己愛を投影したジャズへの愛情の示し方は、これ以上無いほどに歪んではいるが、ジャズの命を助けたり、かばったり、ジャズの敵と見なした者には徹頭徹尾容赦ないところは徹底している。歪んでいるが、そこに確かに愛を感じてしまうから、ビリーを憎みきれない。人間という不完全な存在の難しさ。母ジャニスの冷酷の方が、まだ分かりやすい。結局ジャズは両親を殺さないが、ジャズはそこまで母に縛られなくても良いのに、とラストで思う。この本の中では、かれらをソシオパス、という言葉で示しているが、どっちかっていうと両親はサイコパスだよね、と思う。ジャズはソシオパスの要素の方が強いが。
 
 前巻で一瞬「こいつ怪しいんじゃね」と思ったヒューズは、ただの良い奴だった。こいつはニューヨークみたいに複雑怪奇な犯罪のるつぼではなく、平和な田舎のロボズ・ノッドにでも再就職したほうが良さそうだ。G・ウィリアムとの相性も良さそうだし、近い将来G・ウィリアムが引退した暁には、ジャズの新たな庇護者が必要だろうしな。

 コニーパパについては、多分弁護士だろうと思っていて、きっとジャズの弁護を引き受けることになるよな、と予想した通り。コニーパパがジャズに愛情(らしきもの)か、もしくは同情を抱いてしまうのは、インテリの弱みのような気もするが、それでジャズが癒やされるのであれば、それでよし。

 ジャズの人生は、二十代にしてすでに余生に突入しているようなものだが、これから先の長い人生を、穏やかに、静かに、そして時に人の情に温められて過ごして欲しいと願うばかり。

 2021年ベス確定です。蛇足だとは思うが、邦訳タイトルが3冊とも良い。それと翻訳もすこぶる良い。

以下、これも蛇足だとは思うが忘備代わりに転記。

 父の顔に葛藤がよぎる。でも、それは一瞬で消えた。父が立ち上がって胸を張り、咳払いした。「わたしが彼の弁護士です、ヒューズ刑事。ジェローム・ホールと申します。以後お見知りおきを」 


 「だいじょうぶじゃない。だいじょうぶだったことなんてない」


 「きみにはわからない。この国で黒人であるというのがどういうことか、きみにはわからない。だから決して理解できないだろう」 
 「そのとおりです。僕は黒人であるというのがどういうことかわからない。これからも決してわかることはない。でも、人はみんな違うんじゃないですか? そりゃ、共通の体験はたしかにあるだろうけど、でも世の中の見え方はひとりひとり違う。少なくともちょっと違う。誰もが自分なりのフィルターを通して世界を見ている。あなたは黒人としての体験がある。ぼくには決してわからないようなことをたくさん経験しているんでしょうけど、それでも全員の体験を知ることはできないでしょ。だって、もし人がみんな同じだと考えるなら、ぼくたちの体験が取りかえのきくものだと考えるなら、それは……ほとんどビリーの考え方だから。ぼくたちはそれぞれが個人です。人は本物で、人は大事です。ぼくたちひとりひとりが大事なんです。共通する部分以上に、それぞれ違う部分が」
 
 「私はずっと、どうすればそれができるのか考えてきた」「どうすれば我々が集団として、社会として、本当の平等を勝ち取れるのかと。どうすれば過去の罪を償わせることができるのかと」
 
 「多分……許すか、忘れるか」

 

 「きみに言いたいのは、かわいそうにということだ。本当にかわいそうにな、ジャスパー」

2021年8月6日金曜日

0284 殺人者たちの王 〈さよなら、シリアルキラー〉 (創元推理文庫)

書 名 「殺人者たちの王 〈さよなら、シリアルキラー〉」 
原 題 「GAME」2013年
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2015年11月 
文 庫 551ページ 
初 読 2021年8月6日 
ISBN-10 4488208045 
ISBN-13 978-4488208042
 さよなら、シリアルキラーの2ヶ月後。
 ニューヨーク市警の殺人課の刑事であるヒューズが、ニューヨークの連続殺人事件の捜査への協力を求めて、ロボズ・ノッドのジャズの元にやってくる。ニューヨーク市警からの要請、というが実はヒューズの独断専行だった。
 しかし、事件の現場にシリアルキラーからジャズへのメッセージが残されたことにより、合同捜査本部のFBI捜査官ラミレスにより、正式に捜査へ協力することになる。

 一方、恋人のコニーにも、ビリーからとも思えるメッセージが届き、コニーはジャズを助けるために、自ら事件の渦中に。

 さらに、ロボズ・ノッドに残って、ジャズの祖母の面倒を見るハウリーは、最初こそジャズの伯母のサマンサの色香に夢中になるものの、サマンサの愛称〈サミーJ〉と、シリアルキラーからジャズにのこされた符丁である〈みにくいJ〉の類似に気付いて、ひょっとしてビリーの姉は、ビリーの血統だけのことはあるのでは? と自分の踏み込んだ泥沼に心臓バクバク。

 ニューヨークのシリアルキラー〈ハット・ドッグ・キラー〉と、〈みにくいJ〉、収監中のロボズ・ノッドの殺人鬼〈ものまね師〉とビリーの関係。それに行方不明のジャズの母、伯母のサマンサの存在も絡み、混沌とする状況の中からも、ジャズはビリーが仕組んだニューヨークの殺人ゲームのルールに気付く。しかし、ジャズを事件捜査に巻き込んだ当の本人であるヒューズは、ジャズの情報提供にも対応してくれない。ヒューズの行動は、初めからちょっと不審なので、ひょっとしてコイツ犯人の一味じゃね?との疑惑が一瞬頭をよぎるが、うーん多分違うかな。

 市警の殺人課刑事ヒューズが当てにならないジャズは、ビリーを追うことに個人的な執念を燃やすFBIラミレスと組んで〈ハット・ドッグ・キラー〉を追う。

 〈みにくいJ〉とは誰なのか。サマンサの正体は?〈カラスの王〉の寓話が示す真実は何なのか? とまったく謎が謎のまま、ジャズは重傷を負ったまま監禁され、コニーはビリーに捕らえられ、ハウイーは・・・・と、3人が3人ともに絶対絶命な状況。そこでこの巻『殺人者たちの王』は、以下つづく、状態。おーい!ここでか?ちょっとまて?ここは話を切るところか?
 と、新刊発行当時の読者の悲鳴と嘆きが目に浮かぶようだ。とてもじゃないが先が気になってしかたがないので、次巻『ラスト・ウィンター・マーダー』へ。(ここで半年待たされたのじゃたまらん!)

2021年8月2日月曜日

0283 さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

書 名 「さよなら、シリアルキラー」 
原 題 「I HUNT KILLERS」2012年
著 者 バリー・ライガ 
翻訳者 満園 真木
出 版 東京創元社 2015年5月 
初 読 2021年8月2日 
文 庫 414ページ 
ISBN-10 4488208037 
ISBN-13 978-4488208035 

 123人(息子のジャズの記録によれば124人、その差のひとり分は行方しれずのジャズの母)を殺した連続殺人犯(シリアル・キラー)を父に持つ17歳の高校生のジャスパー(ジャズ)。

 幼い時から殺人マニアの父に“その道”の英才教育を施され、望んでもいないのに殺人シーンのイメージや妄想が頭の中を駆け巡り、同時にいつか自分も父のようになるのでは、という不安に苛まれつつ、正しい人間であろうと努力し続ける悩める高校生が主人公。

 小さな田舎町で逮捕された世紀の殺人鬼の一人息子のことを、町内で知らない者はない。父親の逮捕から4年たった今でも、鵜の目鷹の目でたかってくる地元の三流記者や、住民の好奇の目を避けながら祖母と2人でなんとか普通の生活をし、ときとして父親の犯罪の被害者家族に詰め寄られる。

 彼の「保護者」である祖母は、シリアルキラーである父の実母。どこから見てもまともではない、偏執的な宗教観と人種差別主義に凝り固まった怒りっぽいアルツハイマー患者で、いよいよ手に負えなくなってきている。しかし、この「保護者」を失ったら児童養護施設に行かなければならないジャズは、祖母をお守りすることで自分のプライバシーを守っている。そんな危うい生活を、親友のハウイーや、最近出来た初めての彼女であるコニー、父を逮捕した保安官のG・ウィリアムに支えられて・・・・・・とまあ、よくも盛ったり、この設定。ただただ関心するばかり。

 そんな彼の身辺で、再び連続殺人事件が始まる。
 犯人「ものまね師」は、彼の父親ビリーの犯行を再現していた。
 次々に発生する殺人事件を追い、犯人を捕まえることで、自分の身の潔白を証明し、自分の存在が“良いこと”の役に立つと証明したいと願うジャズ。

 彼の17年の人生のどこをどう切っても悲惨でしかないのに、文のタッチは軽快で、どこかユーモアがある。
 頭が良くて粘り強くて、心が折れそうになりながらも、前向きでありつづけようとする17歳男子がとにかくがんばるので、読んでるこちらも応援せざるを得ない、というかぐんぐん引き込まれてしまう。
 いつ、どこで「異常」の方にぶれていってしまってもおかしくない。自分でも何が異常でどこからが正常な感覚なのか、常に自分の中の物事への反応を一つ一つ確かめながら、なんとか踏みとどまってまともな人間であろうとしつづけるジャズであるが、重くなりそうな内省も、17歳の少年らしいみずみずしさや軽やかさがあって、不思議な読み心地である。
 かれが自暴自棄になったり、自殺したりしないでやっていける強さって、どこに根源があるのだろうと考えると、それがたとえ常軌を逸したソシオパスの歪んだ愛情だとしても父親の愛だったとしたら、悲劇なのか喜劇なのかと悩むところ。


 父親であるシリアルキラー、ウィリアム(ビリー)・デントが、32回の終身刑で収監されていた刑務所からまんまと脱獄し、父とジャズの戦いは、これからどう転がっていくのか。一冊目ではまったく先が読めません。次行こう次!
 
 なお、翻訳が相当良い、と思う。それに、邦訳タイトルも非常に良い。この翻訳者、満園真木氏も追いかけたい。


2021年8月1日日曜日

2021年7月の読書メーター

7月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1853
ナイス数:778
 前月に引き続きヴァクスを読んだ7月。結構重めなので丁寧めに読んで、コミックを除けば実質4冊。最後にちょっと浮気して『さよなら、シリアルキラー』に着手したが、先週の仕事疲れで寝落ちすること数回にして読了ならず。この年で徹夜仕事は無理です! 東京はオリンピックが始まり、コロナ感染は4000超え、ウイルスは変異株との戦いの様相。自粛要請しかすることがないのか、とか批判するマスコミに
もツイートにも、もううんざり。強制的に禁止されりゃあもっと怒り狂うくせにねえ。新型感染症は、社会免疫獲得と、ウイルス変異との競争です。そしてスポーツも感染予防も、自己との戦いです。淡々と、マスク、うがい、手洗い。扇情的な報道や書き込みに釣られない。エビデンスは自分でできるところまで自分で確認。こんな時だからこそ、世の中に不満や怒りを振りまかない。人生に必要なのは愛とユーモア。と、読書ね。本さえ読めれば緊急事態宣言も苦にならないのが助かります。

モーメント 永遠の一瞬 15 (マーガレットコミックス)モーメント 永遠の一瞬 15 (マーガレットコミックス)感想
最近少しダレてる?って思ってたけど、凄く良かった!雪の成長や両親との関係、お母さんの成長、諸々。(おそらく)第一次チーム・ユキの結成。たぶんこれからあと一山、二山はあるんだろうけど、(何しろ、バンクーバー五輪のあとのソチ五輪が本番だから)とにかく、これまでの長ーい助走がいよいよ本格的に走り始めた感じ。これは、作者槇村氏になにか転機があったのかも?と勘ぐりたくなるくらいの、筆のノリ。面白かった〜!
読了日:07月23日 著者:
槇村 さとる
凶手 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 189-7))凶手 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 189-7))感想
非常〜に感想が書きづらい。ノワールっちゃあノワールだが、それだけではない。初めから持つことを許されなかった人間が、如何に悲しい存在なのか。それを作品の全存在で語り尽くしている。言語、情緒、視覚などの歪んだ発達は幼少時からの被虐の影響を示しているじゃないか。自分の中の静かな場所に逃げ込むことができるのも苦痛から逃避するための解離症状だ。不運な育ちの人間が生きていける場所は暗黒街しかなく、できることは殺ししかなかった。たった一人の女性を追い続けることが「愛している」ことであると自分では知ることもできなかった。
読了日:07月22日 著者:アンドリュー・ヴァクス
サクリファイス (ハヤカワ・ミステリ文庫)サクリファイス (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
凄惨な虐待を受けた結果、多重人格となって赤ん坊2人を殺した9歳のルーク。ルークが受けた虐待を、バークは我が身の記憶でなぞる。ルークの扱いを巡りウルフとリリイが対立。バークはルークの両親を裁くためウルフと協力するが、法の裁きに服させることができないと分かり、ファミリーと共に私的制裁に動く。だがその結果、バークには思いもよらなかったことが起こってしまう。バークの内面の虐待された幼子の魂も危機に陥る。バークシリーズの転換点となる本作。ここから、バークは大きな負債を背負って生きて行かねばならなくなるのだ。
読了日:07月17日 著者:アンドリュー ヴァクス
ブロッサム (ハヤカワ・ミステリ文庫―アウトロー探偵バーク・シリーズ)ブロッサム (ハヤカワ・ミステリ文庫―アウトロー探偵バーク・シリーズ)感想
インディアナ州で起きた連続アベック銃撃事件。バークのムショ仲間だったヴァージルの親戚の少年に容疑がかかる。兄弟のために真犯人探しに乗り出すバークは、犯人像として、幼少時の被虐体験が原因で人格が歪んだ、殺人行為がきっかけとなる異常性欲を持つ孤独な青年像を想いうかべる。かつての被害者が今は連続殺人犯。しかしバークはそんな犯人に治療と更生の道を用意してやるわけではない。とうの昔に一線を超えてしまった人間には、それなりのケリの付け方しかないが、バークにそれを出来るのは彼が同じ側のサバイバーだからである。
読了日:07月11日 著者:アンドリュー ヴァクス
ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
ベルを喪って心が惑うバーク。虐げられた者を守ろうとする行動は則を越えて、もはや誰もがバークを殺し屋だと見なしている。怪物ヴェズリイがいう。「どうしようもないやつらがいるもんだ、バーク。だが、おまえは盗人なんだ―――早く本職に戻るんだな」 合わせ鏡のようなバークとウェズリイ。バークはウェズリイのようになりたかった。だが、人間は結局自分以外の人間にはなれないもの。バークの弱みや甘さは彼自身である証拠、そして一方のウェズリイの方も、きっとバークになりたかったのだろうな、とも思う。
読了日:07月04日 著者:アンドリュー ヴァクス

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