書 名 「大統領失踪 上」「大統領失踪 下」
原 題 「The President Is Missing」2018年
著 者 ビル・クリントン,ジェームス・パタースン
翻訳者 越前 敏弥, 久野 郁子
出 版 早川書房 2020年12月
文 庫 上巻:388ページ 下巻:366ページ
初 読 2021年10月6日
読書メーター
ISBN-10 上巻:4150414742/下巻:4150414750
ISBN-13 上巻:978-41504147401/下巻:978-4150414757
実にスリリングで、まず間違いなく面白い。
なのにちょっと笑いがこみ上げてきてしまうのは、やはり著者があのビル・クリントン氏だから。
実際、大統領経験者ならではの、公邸や執務室内での描写とか、ぎりぎりの判断や決断を示すシーンとか、シークレット・サービスや主席補佐官や、政府内の各長官たちとの信頼と丁々発止などのシーンは、実にリアルで臨場感マシマシ。
知っていなければ書けないだろうと読み手に思わせる。
だけど元特殊部隊員で湾岸戦争ではイラクの捕虜になって拷問にも屈しなかった、とかプロ野球選手だったとか、そして現在は血液難病で紫斑と痛みに脅かされ、いつなんどき脳内出血で倒れるかも知れず、貧血と闘い、輸血をうけつつ、恐るべきサイバーテロと孤独に戦い、と設定もマシマシだ。アハハ・・・・。ついでに言うと、超愛妻家で、ガンで亡くなった亡き妻の事を今も涙目で想ってる、って、さすがにオイコラ!
もう少し謙虚でもいいんでないかい?と、奥ゆかしい日本人としては思ってしまうよね(笑)。
因みに先頃読んだ某暗殺者と同じく一人称現在形だ。これは疾走感があって悪くない。というか、なかなか良い。翻訳者は、かの越前敏弥氏と久野郁子氏・・・はお弟子さんかな?
この本、覆面作家で出版すればよかったのになあ。いや、面白いですよ。下巻が楽しみ。裏切り者はあいつだけではないよな。あれがブラフだよな、という予感がする。どーする、大統領?と、下巻への引きもなかなかのもの。いや、単純にAAとして中々の出来ですよ。読み友さん達には是非手に取ってもらいたいです。
【メモ】
“今日ではツイッター、スナップチャット、フェイスブック、二十四時間垂れ流されるニュースが、有権者の王道を左右しているように見える。現代人は最新のテクノロジーを利用して、原始的な人間関係へと回帰している。”
“ギリシャ様式の柱を具え、長い階段をのぼりきった先に堂々たる大利石像が鎮座するリンカーン記念堂は、違和感を覚えるほどいかめしく、謙虚さが身上の大統領よりも神そのものを崇める場所にふさわしい。だが、その矛盾こそがいかにもアメリカ的だ。自由と独立と個人の権利の上に築かれた国家でありながら、他国のそれは平気で蹂躙する。”
で。さて下巻だ。
難局をのりきるために、米合衆国大統領は秘密裏に同盟国、および敵国の首脳を招集する。ドイツ、イスラエルの首相はともかく、ロシア大統領(実際に来たのは首相だったけど)もこんな風に呼び寄せることができるのかな? それともこれは小説だからだろうか? もし、こんな風に各国首脳が直接会ったりしてるんだったらスゴイな、と思った。
合衆国のあらゆるコンピューターにばらまかれたウイルスが特定できて、いよいよ駆除の段階からがおもしろい。焦点は裏切り者の特定へ。上巻の舞台設定が派手だった分、いくぶん尻すぼみな感はなくもない。また、大統領「失踪」といいつつ、大統領が緊急事態で危機管理センターに籠もっただけで、実際に失踪したわけではなかったのも肩すかしな感はあるかな。しかしまあ、面白くはあった。アメリカの権力構造をどれだけ正確に描写しているのかはわからんけど、十分に楽しめた。
主要な登場人物の少なさからすれば、まあ、真の裏切り者はそうだよなあ、と。
ストーリーの一方を牽引した暗殺者“バッハ”は、キャラ立ちしていただけに、完全にお仕事が空振りしたのがちょっと残念でした。もっと活躍しても良かったのに。東欧の民族紛争の悲劇が見え隠れするストーリー立てや、サウジアラビアの関わりも、なんだか使い方が勿体ないなあ。そしてやっぱり悪いのはロシアなのね。本当に、この人達(米国人)、ロシアが嫌いなんだなあ。。。。。