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2026年7月18日土曜日

0599 アルファは飢えても主を摘まず(下) (ピスタッシュ・ノヴェルス)

書 名 「アルファは飢えても主を摘まず(下) 」
著 者 佐伊   
出 版 新書館 2026年7月
単行本 352ページ
初 読 2026年7月17日
ISBN-10 4403221602
ISBN-13 978-4403221606
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136632547

 6月に上巻が刊行されてから、一ヶ月。寝ても覚めても、この話のことを考えていた。ていうか、ヴァルトルたちが脳内を闊歩していた。幸いにして、前日譚の『泣かぬオメガが身を焦がす』(ヴァルトルの親のメソルトの話)が、毎日夜9時に連載更新されていたから、それでだいぶ心が慰められた。・・・・話の中身のハードさったら、慰められるどころではないのだけど。あのメソルトにしてこの子あり。

 それにしても、昨夜17日に更新された、『泣かぬオメガ・・・』の開戦第12話は、本当にしんどい内容だった。(メソルトの立場が辛すぎる。そして、18日に更新された13話はもっとしんどかった。(T-T)  あのイワンゴ海戦にブライス聖騎士団が派遣された、その決定に、ここまでメソルトが関わっていたとは。メソルトやハリオの心中はいかばかりだったろう。ホント、レンドがどこまでも憎らしい。)

 自分の仕事はめちゃくちゃ忙しかったにもかかわらず、そんな感じで脳内のリソースのかなりの部分をこの作品世界に持っていかれたまま毎日を過ごし、それでも下巻発売が待ちきれず、Webサイトで、この『アルファは飢えても主を摘まず』下巻部分をほぼ2巡した。(睡眠時間は押して知るべし。もともと不眠症気味だからいいのよ。)もはや、紙本出版の際に加筆修正した箇所を当てられるんじゃないかってくらい読み込んだ。そして、絶対に今日には配本されて店頭に並ぶはず!と思い定めた7月17日。今度こそ、紙本特典もGetすべく、オシゴト終了後に紀伊國屋書店新宿本店へ! 速攻で入手しましたとも。・・・・・上巻も合わせて(汗)

 だって、特典ペーパーがやっぱり読みたかったんだもん。もん。もん・・・・

 ここは声を大にして言うが、絶対に『泣かぬオメガ』も紙本出版してほしい!!そして、あちこちに小出しされてる掌編なんかもまとめて、番外編集を出してほしい!! いや、それよりも続きやスピンオフを書いてほしい!

 で、さて、下巻である。
 国王エイドのベッドで寝落ち(気絶)→覚醒→背汗、のやらかしからスタートだ。
 でも、本編は、繰り返すが直近の2巡も含め、すでに連載版を4巡はしているので、とにかく番外編にGO!!
 
 本編ではほとんど語られない(BLなのに(笑))、エイドとヴァルトルのいちゃいちゃシーンからたっぷりと。それにしても、メソルト(母)とハリオ(父)の“愛の巣”でイチャつくヴァルトルはやっぱり相当のKY(笑)。いや、仕方ないんだけど。他に場所もないし。設定したのはメソルトだし。にしても、憮然とした当のメソルトと、いそいそと手伝うハリオにニヤニヤしてしまう。
 そして、舞台は法廷へ。
 マルコス家絡みの裁判は、ほとんどがマルコス側が被告なのに、ヴァルトルのマルコ殺害の裁判だけは、マルコス側が原告でヴァルトル側が被告なんで、マルコス側も、起死回生の一手をここに打ち込んでくる。それを迎え撃つヴァルトル弁護団。証人尋問でのエイドの静かな告白。そしてヴァルトルの更に静かな告白。・・・胸に染み渡る・・・・感涙。

 正直ね、この一ヶ月、ずーっといろいろなパターンを妄想してたのですよ。ずーっと脳内にヴァルトルやメソルトが闊歩してたし。

 個人的に一番ハマった妄想は、ルーオン家の名誉回復とルーオン侯爵家の復興っていうネタ(もちろん私の捏造)。
 マルコス追求の立役者の一人であるクロード准将や、前サロバ公シャイロからの嘆願で、新国王アゼルが決断して、罪人として葬られていたルーオン元侯爵(ハリオ父)とアンリ(ハリオ兄)を、ルーオン一族の墓地に改葬して、ルーオン侯爵家を再興。だけど、ハリオは今更上流貴族として宮廷に戻りたいとは思わないだろうし、下級貴族であることに意地と誇りを持ってるだろうメソルトは尚更。なら、やっぱりヴァルトルか? ヴァルトルをルーオン侯爵にして、そこに退位したエイドが降嫁する、なんて妄想がたいそう捗った。(笑)

 ハリオは多分、メソルトとヴァルトルがいて色々と報われているんだろうけど、わたし的にはもっと名誉回復させてあげたい人、の筆頭。あとは、アゼルとラウルの愛の往復書簡集とか。

 海軍諜報部大佐のクロードは、いつからヴァルトルがハリオの息子だと知っていただろう?とか。「お前、ヴァルトル・オーゼックスだろう?」って言ってたけど、ハリオがメソルトに匿われて一人息子を育てていたことは多分知っているよね?どこにも書いてないけど。だとしたら、自分は負傷して引き揚げ船に乗せられて、ヴァルトルが後に残っておそらく死んだに違いない、と思ったとき、どれほど嘆き・恨んだだろう・・・とか。

 金髪くりくりのミッシャはその血筋の良さと能力の高さから、次期かその次くらいの大首座候補だろうけど、ウォルトが修道院に入ったら、やっぱりそうなるかな。ミッシャとウォルトが師弟関係になったら面白そう・・・・とか、いや、エイドが退位して、ヴァルトルと結ばれた後なら、エイドがウォルトを養子にする、っていう道だってあるかもしれない・・・とか。あ、でも、正統下巻番外編を読み終えた今となっては、存続がどうなるかも未定なサロバ公家は、いったんシャイロ様が公爵に返り咲いて、その後はウォルトに継がせるっていうのも良いのでは。。。など。

 脳内二次創作モード全開である。(書けないけど!)ここまでドはまりできる小説は年に1作出会えるかどうか、なので、本当に嬉しい。

 繰り返すが、前日譚の『泣かぬオメガ・・・』の出版も正座して待ってます!よろしくお願いします、新書館様。

2026年6月30日火曜日

0597 アルファは飢えても主を摘まず(上) (ピスタッシュ・ノヴェルス)

書 名 「アルファは飢えても主を摘まず(上) 」
著 者 佐伊    
出 版 新書館  2026年6月
単行本 352ページ
初 読 2026年6月22日
ISBN-10 4403221599
ISBN-13 978-4403221590
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136178111


 『竜王の婚姻』『君を転生させないために』『精霊の宿る国』の佐伊さんの、新作(紙本)。
 『小説家になろう』サイトですでに読了済みながら、紙本で出版されるのを知った時から、出版の日を心待ちにしていた。
 公式には6月22日発行となっていたが、22日が月曜日だったため、前週金曜日には配本になってるかも!と思って新宿のブックファーストに行ったが、探すも探すも「在庫無し」の表示。どうしても待ちきれず、そのままAmazonをポチった。(今にして思えば、最初から紀伊國屋書店本店に行けば良かった。だけど、紀伊國屋書店の閉店時間は夜9時。ブクファは10時半で、その時点で紀伊國屋は閉まっていたのだ。)Amazon以外の店舗で購入したら、特典の掌編を読めるんだぞ?!とは思ったんだけど、ガマン出来なかった。
 ネットでは通読しているんだし、本が届くのが一日後になってもイイや、明日あさってはどうしてもリアル本屋に足を向ける時間がないんだし、と思って紙本をポチったのに、やっぱり今すぐ読みたい欲が抑えられず、Kindle版も購入。。(以下、7月17日に加筆。その後、やっぱり特典の掌編読みたさに、シーモア版も購入。その後、下巻の出版を待つ間の焦燥感に駆られて、数ページでも良いから読みたい!と初回購入特典の割引をアテに、Honto版も入手した・・・・で下巻が発売された7月17日に、今度はちゃんと特典折り込みも目当てに新宿紀伊國屋書店本店に突撃して、下巻と並んでいる上巻(折り込み入り)を手にして数分、硬直したまま逡巡した挙げ句にレジにGO。結局、上巻については紙本2冊、電子3冊を買ってしまった愚かな(?)私は、今後、ラノベ・BL系はAmazonで購入してはいけないことを身をもって学習した。)

 さて、この作品。
 オメガバース設定のBLではあるが王朝内部の政治抗争や、宗教(教会)との利害の対立、隣国との紛争・・・・が綿密に描かれて、近世後半くらいの西洋風歴史ファンタジーとして、非常に非常に骨太な物語になっている。(最初は修道騎士とか出てくるので中世後期から近世初期くらいのイメージだったんだけど、小銃から大砲まで火器が発達していたり,海軍が艦隊戦やってそうだったり、議会制や裁判制度が発達してたり、修道騎士が時代遅れだと揶揄されてたりしたので、もう少し後ろかな、と脳内で時代を修正した。)
 そこに、オメガバースならではの性差別と、それに起因する各人の立場の複雑さや苦渋や危うさが緻密に織り込まれてくる。この構成力がさすがの佐伊さん。凄い!政治情勢の緻密な書込だけでも読み応えマシマシ。
 隠れオメガの国王エイドの深い深い苦悩や、まやかしの宗教裁判で姦淫の罪に問われて、還俗させられてしまった修道騎士ヴァルトルがエイドに寄せる親愛と、敬意と、純愛。ヴァルトルの叔父であるメソルトの困難な立場、メソルトとハリオとヴァルトルの関係、王太后の思惑、修道騎士の兄弟愛・・・・とキャラ立ちしている上に複雑な人間関係が絡みに絡み、非情に濃厚。その上、所々に織り込まれる、ヴァルトルの修道騎士としての行動能力の高さにも高揚する。ついでに、話の合間に差し込まれる馬とのエピソードも良い!
 それに、王侯貴族ものの作品にありがちな、王族・貴族の絢爛な生活の表面ではなく、それを裏で支える宮廷の働き手側の目線で話が進んでいくのもちょっと異色で面白い。なんか、表はゴージャスなお店のバックヤードに迷い込んだ気分だ。
 
 「素手で殺せます」とか「素手で行います」(刺客を殺す)とか、なにかと物騒で、直裁で、周囲の思惑に忖度することなく、我が道を突っ走るヴァルトルの造形がまた、良い。そのヴァルトルがハリオにだけ向けるちょっと甘えた言辞。ヴァルトルの台詞の書き分けがまた、素晴らしい。ヴァルトルの庇護者であるメソルトが、難しい立場にいるにも関わらずなかなかに軽やかな言動で、誰に対してもあまり変わらないのとは対称的。ヴァルトルと聖騎士団の仲間の関係性は胸熱だし、とにかく美味しいところだらけ、というか美味しいところしかない。個人的にはアゼルも大のお気に入りだし、アゼルとラウルの恋物語も、ぜひ書いていただけないか・・・・など。

 物語は紆余曲折あるが、上巻は、メソルトの血を吐くような告白がクライマックス。
 国王エイドに忠誠を捧げるヴァルトルには、(もう最後までネット上で読んじゃってはいるんだけど)これ以上、ヴァルトルに苦難が降りかかりませんように!と願いたくなる。下巻は7月中旬発行ってことで、ただひたすら待ち遠しい。

 書き下ろしの短編は、本編をネットで読了して、是が非にも読みたかった、あの、イワンゴの攻防戦。からのヴァルトルの宗教裁判。幕間に登場するエイドの心病んだ描写に胸が痛む。まさに「前夜」の物語。
 一点だけ今だに気になっているのは、ヴァルトルの愛馬(初代“暁”)がどうなったのか。
 イワンゴ砦の中に入るには海中からの侵入だったのだから、馬は連れて行けなかったんじゃないかと思ったのだ。ヴァルトルの回想の中では、愛馬もイワンゴで死んだことになってるのだけど、優れた騎士と愛馬の別れは、すごく気になる。これも、番外編でどこかに書いていただけないものか・・・・
 でもそれはさておき、何よりも読みたかった邂逅前夜の物語でした。
 紙本出版ありがとうございます。


2026年3月21日土曜日

0586〜89 精霊を宿す国

書 名 「精霊を宿す国(1)青嵐」
著 者 佐伊          
出 版 リブレ 2023年8月
単行本 312ページ
初 読 2026年03月02日
ISBN-10 479976389X
ISBN-13 978-4799763896
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790956


 これまでに、『竜王の婚姻』『君を転生させないために』と佐伊さんの作品を読んできて、三作目の「精霊を宿す国」を遂に入手した。
 この作品、これまでに読んだ中で一番好きだ、と思う。
 一読目は、とにかく何が起こるのか、どうなるのか?と先を知りたくて、駆け足で読み飛ばしたので、ラストまで読み終えてから、最初に戻ってじっくりと精読した(定期)。なにしろ登場人物が多いし、血縁関係や縁戚関係が入り組んでるので、読みながら人名や用語や設定をメモった。それもまとめようと思っていたが、著者の佐伊さん作の設定集/人物集が「なろう」の作品サイトの冒頭にアップされてるのに気がついたので、そちらを有り難く活用させていただいた。

 でもって、一度最後まで読んた後に最初から読むと、物語冒頭のキリアスの行動がいかに、いかにヒドいか良く分かる(^^ゞ 
 初読時とは全然印象が違うので再読オススメだ。

 オルガの出生から現在まで、いかに多くの人がその健やかな成長を切望し、遠くに、近くに見守ってきたか。そしてそれをいかにキリアスが踏みにじったか!初読時とはまるでちがう切なさをひしひしと感じる二読目である。
 依代と操者の二人一組で一体の精霊を操作する、そしてその二人の「共鳴」の過程はセックスに通じる感覚である、ってことで全編ややエロい描写が散らばってるが、なにしろ、それも「修行」の一貫なので笑い事ではない。エロ全開のラグーン師匠は大変いい味だしてる。(笑)

 で、さて、一巻目は、14歳になった主人公オルガがおっかなびっくり、精霊師になる修行のためにお山(千影山)に入るところから。
 お山に生息する精霊「こだま」はまんま、宮崎駿の『もののけ姫』のイメージで。そして傍若無人な第一王子キリアスとの出会い。大切に育てられた国王の長男が、ちゃんとその血筋ゆえに、育ちゆえに、能力ゆえに、大いに傲慢ワガママに育っている。お手軽ファンタジーにありがちな由緒正しい品行方正な王子様❤️ではないのだ。こんなところも何気にリアルである。
 王位継承権を奪われたからには、ぜったに神獣師になってやる、と手段を選ばず、最短距離で「青雷」をひそかに身のうちに宿すオルガを、強引に我がものにしたキリアス。本当にダメな子なんだが、そのあとはひたすら精進するあたりはやはり、ただのダメっ子ではない。ちゃんとクルトにお仕置き喰らってるしな。ちゃんと努力も出来るし、譲れないところ以外では、師匠の教えに従う素直さもあって、そういうヤツが好きな師匠連中の評価は爆上がりしてるし、ただただ年齢相応な(よりやや幼い)だけのオルガが比較されて可哀想ではある。

 そして、なぜオルガは青雷をその身に宿しているのか。オルガの出生の謎は、まだこの巻ではチラ見せ。そして、オルガとの出会いでは、とにかく恐ろしいばかりのカディアス王(キリアス父)。これから巻が進むごとに、彼が舐めた理不尽な辛酸であるとか、彼の愛情のありようであるとかが分かってくるのだけど、とにかく最初はもう、カディアス王との出会いはトラウマ級の恐怖体験でしかない。

 オルガよ、よく耐えた。そしてオルガは己の父の名前と己が血筋を知るのだ。
 メインのストーリーと併走して、ライキとクルトの紫道、ゼドとセツ、ユセフスとミルドの百花の物語も。ミルドなんか、純愛を通りこしてただの変態・・・・(失礼!)にしか思えないんだけど、それも突き抜ければ一周巡って? あのユセフスが折れて? ・・・・まあ、割れ鍋にとじ蓋的な? ユセフスも、よくわからない人物ではあるのだけど、これからだんだんじわじわと味わい深くなってくるからな。


書 名 「精霊を宿す国(2)黄金の星」        
出 版 リブレ 2023年9月
単行本 312ページ
ISBN-10 479976411X
ISBN-13 978-4799764114
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790959

 1巻の終わで、鳳泉の操者になれ、との国王の意を受けたキリアスは、すでに半年もオルガと別離の状態で修行を重ねている。こいつ、一生懸命でもまだまだ身勝手だな〜と思う。早く覚醒しやがれ。そして、ちゃんとオルガ本位になりやがれ(笑)

 物語は、光蟲のイーゼスとハユル、時を一世代遡って、ダナルとルカの物語、さらに前代の鳳泉のガイとリアンの物語も。まだ若いカディアスと、王宮を覆い尽くす不穏。先読という存在が、こんなに不安定で大丈夫なんだろうか? これで、ちゃんとこの国は維持されるのであろうか? と、大いに心配になる。とにかくそれぞれのパートで語られる物語が終始一貫して切ない。そして、どこをどう切り取ってもこれ以上はないってくらい苦労人のカディアス。よくこんな状況で16歳で即位し、耐えてきたな。やっぱりこの物語で一番存在感が大きいのは、カディアス王だろう。この物語は、いわばカディアスが即位してから退位するまでの、一代記でもある。
 現在の時点での王宮での事件と場末の娼街での騒乱でついにオルガとキリアスは共鳴し青雷の能力は全開になる。そして、オルガが16歳を迎え、青雷はオルガを離れていく。 オルガは鳳泉を授戒する定めのキリアスの半神足たるべく歩んでいく。これから、いよいよ物語は核心に近づいていく。


書 名 「精霊を宿す国(3)赤い炎の翼」         
出 版 リブレ 2024年1月
単行本 336ページ
ISBN-10 4799765760
ISBN-13 978-4799765760
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790963


 色街を襲った大火は、光蟲、紫道、青雷が治め、そして青雷がオルガ16歳の約定の日を迎えて去った。来るべき試練の前にオルガを両親に会わせたいと願ったキリアスがオルガと友に辺境を訪れるところからの王都への召還。
 つかのまの穏やかな日々。心休まるオルガの里帰りと、波乱の予感しかないキリアスの里帰り(王宮)。
 この巻で、オルガ出生に繋がる過去の物語が明かされる。
 それにしても、少年期から延々と続く、危機を一人耐えたカディアスである。いくら神獣師達に囲まれ守られていたっていったって、そもそも傲慢不遜な能力至上主義の連中である。助けになってるんだか、圧迫になってるんだか。よくカディアスは心折れず、投げ出さず、耐えたな。それこそが王たる所以か。カディアスとトーヤの愛にも泣かされる。
 カディアスに比べたら、キリアスなんて、ほんのひよっこ。キリアスの悩みなんぞ如何ほどのものだろう。

 それにしても、だ。アジス家の悪習が諸悪の根源ではないか。
 やっぱり、先読みとの意思疎通にすら難がある依代でなかったなら、もっと違った物語があったはず、と思ってしまう。
 そして、いよいよ次巻では、鳳泉の授戒と、最終決戦である。


書 名 「精霊を宿す国(4)新しき空と神の獣達」
出 版 リブレ 2024年2月
単行本 320ページ
SBN-10 4799766104
ISBN-13 978-4799766101
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133844400


 3周くらい読んだ。ついに完結。オルガとキリアスが鳳泉を授戒したものの、なかなかその力を万全に発揮できるようにはならない・・・・ってところで、若干のお笑いパートも差し挟みつつ、セフィストとの闘いが終局に至る。
 セフィストと真っ向から戦ったのは、ルカ。そしてその闘いを全力で支えた半神のダナル。おおむね、格好良いところはこの二人に持って行かれてました。とにかく、ダナルの愛が尊い。そして、セフィストを討伐するのではないところにもひとつの愛がある。


 そして、隣国との決戦に、鳳泉は間に合うのか。カディアス王が出陣し、ユセフス、イーゼス、ライキもその後を追い国境へ。最終決戦に青雷が参加しなかったのは、たぶん五つの神獣は輪番で代替わりせざるをえないのだから仕方ないんだけど、やっぱり、五大神獣そろい踏みの闘いは観てみたかったかも。しかし、足の悪いユセフスまでが前線に展開した総力戦は読み応えがあった。
 
 それにしても、カディアス王の治世は波乱に満ちていた。ラストの新王セディアスによる青雷の正戒シーンは、その父カディアスの初めての正戒であったゼドとセツの際の、あの幸福な風景を思い出す。時は螺旋のように巡り、やっと正常で安定した姿をヨダ国は取り戻す。

 読後も、余韻が尾をひき、しばらく物語世界で揺蕩っていた。小説というか、ファンタジーというか、ここではない別の世界にしばし飛ばされた気分。こういう作品を書ける人って凄いなー、と心底尊敬する。

2026年2月28日土曜日

0583—85 君を転生させないために

書 名 「君を転生させないために(1)」 
著 者 佐伊        
出 版 新書館 2025年6月
単行本 304ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221440
ISBN-13 978-4403221446
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133704298   

『竜王の婚姻』で出会った佐伊さんの作品。
『竜王の婚姻』のスケールの大きい大河っぷりに敬服し、こちらも読んでみようと入手してあった。この度、やっと読了できた。
 そもそもBLとして創作されている作品ではあるが、1巻目はまだそれほどそっち方面は進展しないので、これ、BLでなくて、普通の中華ファンタジーでも良かったのでは?とちょっと思ったんだけど。2,3巻まで通読したあとではとてもそうは言えませんな(^^;)

 呪術の設定とか、世界観がよく作り込まれていると思う。イメージは古代中国の西域の小国二つって感じだろうか。大中華って感じではない。国の規模や組織も小さい。規模的にはむしろ日本の平安朝とか、朝鮮王朝大河ドラマくらいな印象。王宮と市井も近いし、王族と民間人も近い。国も小さく、数日の騎行で国と国を行き来できている。

 登場人物の名前が、漢名風なのに、全部カタカナなのはちと辛かった。登場人物がさほど多くならなかったのが幸いだったが、これ以上多くなったら、多分誰が誰だか分からなくなった(苦笑)。あと、個人的な感覚の話ではあるんだけど、
「大夫」を“たゆう”と読ませるのだけは、どうしても受け付けられない。花魁や文楽じゃないんだから、ここはどうしても“たいふ”と読みたい。ていうか、どうしても“たいふ”“だいぶ”としか読めず、ルビを無視して勝手にそう読んでいた。

 で、1巻目は主人公である「延(えん)」国の年若い呪術師ソラが、延国王の命令で敵対する隣国「耀(よう)」に行くところから。
 耀の国王シゲンは前世で呪いを受けて転生した忌人(きじん)で、呪いのために死ぬことができず、すでに110歳を超えている。体は老い腐り、異臭を放っているのに死ぬことができぬ。しかし忌人の呪いを緩和するには「解呪」という技が必要だが、それは呪術師しか施すことができない。耀国はすぐれた呪術師が絶えているため、隣国延に呪術師の派遣を求めてきた、という。ソラは、家族を質にとられた形で、あわよくば耀国王シゲンの命を奪う下命を受け、耀国に入った。その耀国で、ソラが見たもの、聞いたもの。感じたこと。シゲンの身の呪いと、耀国と延国の歴史。シゲンがこれまでに成してきた国づくり。そして、蠢く陰謀と呪術。
 これは、大呪術合戦・一大スペクタクル・歴史ファンタジー大河か!?と思いきや、実はこれも壮大な前振り?

書 名 「君を転生させないために(2)」      
出 版 新書館 2025年7月
単行本 272ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221459
ISBN-13 978-4403221453

 2巻冒頭から大きく事態が動く。耀王宮に延の間者が入り込んでいることが分かる。そして、1巻で、主人公の呪術師ソラが密かに仕掛けた罠が始動する。さて、間者はあの2人の内のどちらか・・・、と思っていたが、さすがにどちらかまでは分からなかった。私の予想ははずれ。そっちか! 正体の分からない延の術者との呪術の掛け合いで激しく消耗したソラは、シゲンの呪いの暴発に「解呪」を施すも、浄化の力及ばす、シゲンから吸い取った呪いを我が身に遺してしまう。

 忌人であるシゲンは身に纏った呪いが相手の命を奪ってしまうために、常人には触れることができず、孤独な生を生きてきたが、護符を身に刻んでいるソラだけは普通にふれあうことができた。シゲンはソラを深く求めるようになり、ソラもまたシゲンを愛すように。シゲンの呪いに犯されて先のない命であることを悟ったソラは、忍び寄る死に怯えつつ、残った時間をすべてシゲンを慈しむことに注ぎ込みたいと願うのだが。

 当初は、シゲンの宿命の敵はソラなんじゃないかとも思っていたのだが、ラウレンの様子が変わってきたところで、これは違うな、と。そして、2巻が終わるところまでは、シゲン&ソラvs延国呪術師(ラウレン、その他)の呪術大戦的なスペクタクルになると予想し、シゲンとシゲンの呪いを身に受けたソラが助かる道は、もうシゲンに呪いを掛けた呪術師を仕留めるしかない。敵の延国呪術師を破ることで、シゲンとソラが呪いから解放されて、二人幸せになるんだろう、と思って(思い込んで)読んでいたのだが。

書 名 「君を転生させないために(3)」      
出 版 新書館 2025年8月
単行本 256ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221467
ISBN-13 978-4403221460

 ついに、ラウレンが耀国に乗り込んでくる。シゲンへの輿入れ、もしくは人質として。そして、ラウレンを盲信するソラに対して、シゲンをはじめとする耀国の人間は、なにやら思うところがありそう。このあたりから、ソラが政治の中枢の動きから蚊帳の外に置かれ、ソラパートとシゲンパートが分離。
 そして物語はシゲンとシゲンの敵との闘争で大激震するかと思いきや、ラウレンの自滅で案外そっちはあっさりと決着し、その後、物語はロミオとジュリエットみたいな怒濤の愛に突き進む!
 そして、読み終わってみれば、これは呪術合戦などではなく、清廉な愛の物語だった。
 ちょっと肩透かしをくらった感じがしないでもないんだけど、なにより、一生懸命悩み、愚直に現実に直面し、危急の時には迷わず行動するソラがなんとも健気で美しく、ソラとシゲンの愛が深く、清く、麗しいのだ。

 「シュウキ=ラウレン」がちょっと小物っぽかったな、とか、シゲンが自分で自分に掛けた呪いの「延」はどうなったんだろう、とか、なぜ、忌人の転生は1回限りなんだろう、とか、こまかいハテナはいくつかあるんだけど、とにかく美しいラブストーリーだった。呪いを受けて死ぬと悲惨な転生を遂げる、という設定が、どのように生きるのか、どのように愛するのか、そしてどのように愛する人を死なせるのか、という大きな命題になって、主人公たちが悩み、苦しみ、決断し、愛する。これがとてもリアルに感じられた。
 ラストの後日譚的な「君が転生するために」で、個人的に気になっていたカイリとメイロウの初恋カップルも無事成婚に至ったし、貴方が次の世でも幸せであるように、と言祝ぐソラの思いに、読んでるこちらまで、せつなくも甘やかで幸せな気分になることができた。素敵なストーリーだった。

 この物語では語られないけど、愛しあうソラとシゲンがやがて、長くはない生を終え、二人身を寄せ合い、最後まで相手への思いやりと愛を語らいながら、一緒に息を引き取るシーンを想像しちゃって、なんだか読後感はしんみりしてくる。

(あと、心の声。ロウゼン、受けかよ・・・・)

2025年6月22日日曜日

0559ー60 竜王の婚姻 上・下

書 名 「竜王の婚姻 上」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 4434337041
ISBN-13 978-4434337048
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885 

 Kindle版をAmazonにオススメされ、アンリミだったので好奇心でクリックしたのが運の尽き?(いやその言い方は著者の佐伊さんにあんまり失礼だよな!)
 正直、最初は舐めてかかってました。ごめんなさい。
 よくある異世界BLで竜に嫁した不遇な主人公が溺愛される系だろうとの安直な予想を見事に裏切る、超骨太大河ファンタジーだった。なにしろ本は分厚いし、内容は激重だし、先は気になるし、で、ついついの駆け足飛ばし読みになってしまった。(これまた著者の佐伊さんに失礼な!)。なので、1回最後まで通読してから、最初に戻ってじっくり読み返し。

 最初はオメガバース?と思ったが、そうではなくて独自設定。惹香嚢(じゃこうのう)という発情期に強烈なフェロモンを発する子宮類似器官を持つ人々が少数ながらいる世界。世の中を構成するのは人間、獣人、そして惹香嚢持ち。性的には女性、男性、両性、そして男性であっても妊娠できる惹香嚢体。小国(従属国)の惹香嚢体の第四王子が、宗主国の皇帝(実は獣人)に輿入れする事に端を発する物語だが、主人公は全然愛されないまま話は何年も進むし、竜王と婚姻するのは主人公じゃないし、でどんどん予測をかわしてくる展開にぐいぐい引き込まれる。
 「神山」を頂点とするヒエラルキー社会の硬直化した末期的様相や、獣人に対する差別意識や、神山に対抗するレジスタンスや、奇病の延命法を巡る壮絶な陰謀、意志を奪われた人間、それぞれの人間の立場や苦悩が描かれ、同時に登場人物のキャラが立ち、程良く強くて自立している主人公が苦難に立ち向かう、と実に濃厚で重厚な読み応えたっぷりな大河ファンタジーでありました。小山田あみ氏のイラストとは、モノクローム・ロマンス文庫の「ヘル オア ハイウォーター」シリーズ以来の再会で、これまた濃厚。主人公の絵柄は自分のイメージとは若干違ったが、じゃあどんな?と言われたら困るかも。

 それにしても、この話、書記官で執政を補佐してるはずのジグルトのやらかしがとにかく酷いんでないかと思うのよ。主人公のセナへの個人的反感が根底にあるからか、とにかくいろいろと情報をネグって、セナ絡みの必要な情報を皇帝に上げないから、皇帝が見事に後手に回って、非常によろしくないのだ(笑)。だからこの話が進むんだ、と言えなくもないんだけどねー。最悪なのは出産時に無視放置だ。そうなった王側の事情は番外編で明かされるが、さすがにまずい。全体的にさらりとその主因となったジグルトのしでかしは流されてるけど、本人自覚しているように、これは万死に値するぞ。おかげて、セナと皇帝は関係を深めるチャンスを逸してしまうし、護衛官の白銀狼イザクにセナの気持ちをもってかれちゃう遠因にすらなっている。まあ、この三角関係の捻れは話の核心ではあるので、ジグルトは役目を果たしていると言えばそうなんだけど。


書 名 「竜王の婚姻 下」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 443433705X
ISBN-13 978-4434337055
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885   

 あれほどのボリュームの上巻がアンリミであるわけだ。先が気になっちゃって、読まずにはいられない。下巻をKindleで読んだあと、やっぱり紙本を手元に置きたい、と上下巻購入したので、結局下巻は紙と電子の2冊分購入したことに(笑)。

 とにかくアレコレあって、物語はどんどん、どんどん破局に向かってなだれていく。鱗病の蔓延、惹香嚢体の命運、最愛の男イザクは絶命し、竜王すら死に瀕し、八方塞がるなかでの唯一の望みとなるのはセナ自身の体のみ。自分の死を選ぶことで、世界の命運は繋ぎ止められるかもしれない。この決断に至る主人公が潔すぎる。ファンタジー世界だからこそ可能な、現代社会が惑う様々な社会問題のごった煮の中で、子供を愛し、人を愛する主人公の芯が物語の背骨になって、この無骨な物語を成立させている。ほんと飛ばし読みで申し訳なかったが、物語の先を読みたい気持ちに目が字を追うスピードが追いつかなかったよ。上下巻をほぼ1日で通読した。そして紙本を入手してみれば、上下巻あわせて厚さは6センチ、ページは2段組のボリュームだった。で、そのあと一週間かけてじっくり読み直した。
 
 番外編の皇帝(上皇)の気持ちが切ない。150年後の竜王の命によって贖われる世界。そういう竜王を育て上げたセナと、竜王の伴侶アスラン、その二人と竜王を、そして二人が世を去ったあとには一人で守り続けたであろう王に祝福を捧げる。