2022年9月21日水曜日

0393 SKYLARK <矢代俊一シリーズ16>

読書メーター:https://bookmeter.com/reviews/109102197  

Amazonより・・・「渥美公三の死によって平穏な日々が訪れたかにみえた俊一だったが、公三の2人の子との出会いは新たな脅威を予感させるものだった。歌手として楽器を持たないまま臨んだグリーンドルフィンでのライブは大成功を迎えるが、会場の外に出た俊一は渥美銀河に絡まれてしまう。そこに現れた金井恭平によってその場は事なきを得たものの、自宅に戻った俊一は銀河の電話で錯乱するまでになってしまう。さらにマスコミのスキャンダルが出され俊一と英二は父の万里小路俊隆の家に避難することになったが……。矢代俊一シリーズ第16巻。

 読書メーターの方で、「《毒を喰らわば皿まで》検証:『トゥオネラの白鳥』の展開には合理性があるのか!?」企画として読み進めているこのシリーズだが、いよいよ毒皿になってきた。この巻は、なんかいろいろとダメだった。
 (引用)
「いいよ。俺けっこう運転好きだったんだよ、昔。」(p.293). Kindle 版. 

「車もね……島津さんの車、しばらく俺運転手もやってたんだけど……」 (p.296). Kindle 版. 

「久しぶりだよ、車運転するの。——もっとも、俺電車なんてもうこの何十年来乗ったこともないからさ。外出るときには基本的に車だったんだけどね。」(p.308). Kindle 版. 

透はかなり運転がたくみだった。ひょいひょいと甲州街道を、渋滞のあいだをぬってゆきながら云う。(p.309). Kindle 版. 

 いや、透は運転へたくそじゃなかったっけ?少なくとも『朝日のあたる家』では、事故を起こしそうで怖くて良を乗せられないくらいには運転下手だったはずだ。それが、例の『トゥオネラの白鳥』ではA級ライセンス並みの運転技術の人になっていたので、どうしたことだ、と思っていたのだが、どうやら透の変貌(?)はこの巻あたりから本格化しているようだ。

「ううん、ちょっと……あっと思ってただけ……そ、そうか。透って——全然、そう見えないから、そう思ってなかったけど……透って、肉食獣なんだ?」「俺、ばりばりに肉食獣だよ。なんだと思ってたの?」透が笑い出した。「なんかもしかして、俊ちゃんて、俺のこと、かなり誤解してる?静かな人だとか、大人しい人だとか、俊ちゃんみたいなタイプの人だとかって思ってたりしないよね?」(pp.347-348). Kindle 版.  

「去年は東京駅の駅頭でアクション俳優と殴り合いやって脳震盪おこして救急車で入院したし。殺すの殺されるのって、修羅場しょっちゅうだし、だから血をみるのも全然怖くないし——死ぬのも怖くないよ。喧嘩は弱いけど、ものすごく口は達者だから、その気になったら、相手が自殺しちゃうようなこと、たてつづけに云えるよ。」(p.348). Kindle 版. 

 いや、透ってそういう性格じゃあなかったはずじゃない?
 どっちかってーと、島津さんが可愛がってた(?)島津さんちのサボテンの鉢植くらい、静かな草食系だったような気がするんだが。なんだかこの巻からの透の性格が、いやらしくて、如才なくて、口達者で、どこか仄暗い感じになっていて、あの、『朝日のあたる家』や『ムーン・リヴァー』でさえそうだった、どこかぼーっとして、世の中の流れに乗り切れていなくて、なんだかいつも困惑していて、やっとこさ生きている不器用な感じの透は何処にいってしまったんですか?と。。。。
 そういう意味では、透と俊一って、同じ星の人みたいに似通っているところがあると思っていたのだよね。透なんて、どれだけ性的にスレていても初心なところや汚れきれないところがあって、そこが島津に「娼婦マリア」と言われちゃう、というか。もっとも島津さんがプラトニックで、透に一切そういうことを求めてこなかったからこそ、透は島津の前では「鉢植え」でいられたのかもしれないけど。
 『トゥオネラの白鳥』の透が、口が下品で、遊び人風で、性格が悪くて、どこかどず黒い感じがする人物に仕上がっていたので、なぜ・いつそうなった!?って思ったのだけど、どうやらこの辺りからのよう。すくなくとも14巻あたりの俊一と透の絡みでは、まだ、透の性格に違和感はもたずに済んでいた。

 ちなみに、引用ついでに、『朝日のあたる家5』で、東京駅でアクション俳優とは「殴り合い」ではなく、ひよわな透が一方的に殴られたし、脳震盪ではなく顎の骨折だったし、それは「昨年」のことではなく、良の刑期の残りを考えれば少なくとも2年は前のはずなのだ。(良の判決は執行猶予なしの懲役2年4ヶ月で、おそらくは控訴しないで一審で結審していて、この時点で残っている刑期が7、8ヶ月くらい。裁判に半年程度はかかったとしても、東京駅事件は2年程度は前でないと計算があわない。) あ、それと、電車なんて乗ったことない、とか言ってるけど、東海道新幹線と山陰本線には乗ったよね。キミは。そんなに車が好きなら、あのとき車で逃げたよね?
 まあ、この手のいい加減さを薫サンに説いてもしょうがない。考証も確認も推敲もしない人だったんだから・・・・・

 なお、この同人シリーズが、当人たちの本当の人生で、それ以外のメジャー出版本が、その当人たちの生活を抜き書きした「私小説」であると、だから「私小説」にはフィクションが混じるんだからそれなりの不整合はあって当たり前なのさ、という、かなり強引な納得のしかたもないではない。
 それはともかくとして、アクションパートが激減した結果、例の脳内ダダ漏れぐだぐたトークが全体に蔓延し、何度も何度も同じフレーズが繰り返されて無駄に長いこと、たとえば俊一と、それ以外の周囲の人物が、セリフにおいてまったく同じ表現/形容を用いるので、それぞれの人物の性格や思考や、話言葉の書き分けが曖昧なっていることなど、以前から気になっていた表現の劣化も散見される。
 
 ストーリーの内容的には、俊一が歌手として劇的にデビューするほか、渥美の息子の銀河に絡まれて発作をおこしてしまったり、俊一が渥美の愛人だった、とフォーカスされてマスコミ渦中のひとになってしまい、荻窪の父の家に匿われたり。

0 件のコメント:

コメントを投稿