書 名 「サクリファイス」
著 者 近藤 史恵
出 版 新潮社 単行本 2007年8月/文庫 2010年1月
文 庫 290ページ
初 読 2022年9月10日
ISBN-10 4101312613
ISBN-13 978-4101312613
読書メーター https://bookmeter.com/books/570651
著 者 近藤 史恵
出 版 新潮社 単行本 2007年8月/文庫 2010年1月
文 庫 290ページ
初 読 2022年9月10日
ISBN-10 4101312613
ISBN-13 978-4101312613
読書メーター https://bookmeter.com/books/570651
で、その選択は間違いない。この薄めの一冊に、自転車ロードレースの複雑さやその魅力、勝利に懸けるチームの、アシストに撤するメンバーの、トップに君臨する選手の厳しさ、それに人間の卑小さや情けなさが詰め込まれている。本心がどこにあるのか、どういう人間なのかが最後まで掴みきれなかったエースの石尾の本当の姿が、チカの心のなかではっきりと像を結ぶにつれて、この本のタイトルの意味が染みてくる。
そして、終章がこれまた見事。ラストの数行には言葉がない。
一方で、元恋人の香乃や、事故で半身不随となった袴田の身勝手さと、特に罰を受けるでもない結末が、読後にざらざらした感触を残すのだが、勧善懲悪の物語ではないし、現実に、いろんな思惑の人間が好むと好まざるとに関わらず影響を与え合うのがこの世の中なんだよなあ、とため息をつく。
自転車レースについてはまったくの素人で、アニメの『茄子 アンダルシアの夏』と『スーツケースの渡り鳥』を見た程度。この二つの作品は大好きで、相当な回数を見ている。今回もこの本を読む前に、念の為にもう一度見た。奇しくもこの本の終章は、『アンダルシアの夏』の舞台となった、ブエルタ・ア・エスパーニャだ。
私も自転車は「子どもの送迎」や「買い物の手段」以上には好きで、最初に自分で選んで買った自転車はジャイアントのMTBだったし、最近で一番お気に入りだったのは、黒のクロモリのミニベロだった。(しかし通勤に活躍してくれたこの愛車は自宅前から盗難にあい、失われてしまった。)だが、生来臆病なので、車道を走るのは本当は怖いし、交差点を通過するのも怖いし、後ろから自動車に追い抜かれるのも怖いし、小石を踏むのも、マンホールの上を走るのも怖い(笑)。とても、リアルでスポーツサイクルのスピードを楽しめるような性格ではない。しかし、この本を読みながら脳内でチカと一緒に走るのは爽快だった。
しかもこの本でやっと、この競技の面白さや戦略の緻密さが少し判った。主人公チカのような、「勝つこと」に執着しきれない人間でも役割がある、というのが面白いと思う。様々な人間が勝負に関わることをゆるす懐の深さは、歴史あるスポーツだからかもしれない。個人競技のようでチームプレイであったり、個人の駆け引きとチーム同士の駆け引きが様々な次元で絡み合う、ゲームそのものが巨大な生き物のように感じられるのも面白い。そういえば、レース中継で大勢の選手が魚群のようにひとかたまりで動く姿は、本当に一個の生き物のように思える。
余談だが、スペインのチームのサントス・カンタンのメンバーが群がって舐めてたのが、これ。『ヌテラ』チョコレート風味のスプレッド。つい気になってググってしまった。なぜ、あえて「チョコレート」ではなく、ヌテラなんだ? カロリーの摂取制限ではなく、あえて計算ずくで糖分を取らなければならない、チカのような選手にとっては、この瓶に群がってスプーンを舐める選手たちの集団はびっくり!だろうね(笑)
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