著 者 月村了衛
出 版 早川書房 2021年8月
単行本 448ページ
初 読 2023年12月1日
ISBN-10 4152100451
ISBN-13 4152100451
読書メーター https://bookmeter.com/books/18210936
現代のミャンマーにおけるロヒンギャ迫害を前景に、太平洋戦争における日本のビルマ侵攻、インパール作戦の『白骨街道』を後景におく。
本来、龍機兵と共に行動する前提の姿、ライザ、ユーリの三人が、首相官邸からの命令で、ミャンマー国境地帯に逃げ込んだ日本人犯罪者の引き渡しに向かう。実際のところ、3人の命と、その体に埋め込まれた龍髭(ウィスカー)の奪取を目的とした陰謀であることは疑いえないが命令は絶対。ミャンマー山岳地帯に送りこまれた姿、ライザ、ユーリの3人が、日本の「敵」の意を受けた現地武装勢力=人身売買組織を相手に、生還する為に戦う。
道中、ロヒンギャ虐殺、民族浄化の現場を次々に目撃。ミャンマー人のロヒンギャに対する憎悪を目の当たりにする3人。ミャンマー警察の小隊、同道した大使館員(通訳)、そして引き渡しを受けた日本人、道中の闘いや裏切りで一人づつ減っていく。
日本警察のみならず、日本という国のありように鬱屈が蓄積する姿がどうにも心配になる。そして、日本では、同時並行で捜査二課を中心として、巨額脱税・贈収賄事件の捜査が進む。
財務調査官の仁礼の手腕で浮き上がったのは『城州グループ』という財閥・グループ企業。その名前を聞いて、特捜の由起谷の顔色が変わる。城州グループおよびその持ち株会社である城州ホールディングスは、特捜部城木理事官の係累一族が経営する一大企業体だった。
報告を聞いて、沖津は城木を表向き、捜査から遠ざける。休暇を取ることを勧奨された城木は、沖津の意を汲んで、京都に本拠を置く分家筋の城邑(じょうゆう)家を訪れ、城州グループの内実をスパイする。
前2作に続き、今作も城木の受難が続くので、非常に心配になる。ある意味空想的な正義感で警察官となった城木が、全てを失い、政治の世界の汚さや非道を目の当たりにし、そこからどのような人間になっていくのか。
ライザ、ユーリ二人の物語は語られたが、鬱屈を深める姿の「物語」はまだ語られていない。今作、彼なりの正義や信念を貫いてめっぽう格好よかった關も、かつての仲間に「畜生の子」と呼ばれる背景があるらしく、彼の物語が待望される。
そして、前作ですこし設定チラ見せがあった沖津については、今作では相変わらずクールに作戦を進行させる。その沖津が、死地に赴いた3人の為に放った助っ人が、これまた格好良い。 元モサドの精鋭であるシェラーは、今後4人目の突入班要員として特捜部に加わる。
一切機甲兵装が動かなかった前作にくらべ、今作は、とにかく戦闘につぐ戦闘。ライザ無双。やっぱりこういう戦闘シーンになると、ユーリが後方に回らざるを得ないか。しかししっかりと足手まといの民間人と少年の面倒を見るユーリは、良い奴である。
6作目であるが、まだまだ闇は深まるばかり。姿、ミュラー、城木、沖津それに關。彼らがこれから、「敵」とどのように切り結ぶのか。想像も付かない。次作を待つ。
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