2025年6月22日日曜日

0559・0560 竜王の婚姻 上・下

書 名 「竜王の婚姻 上」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 4434337041
ISBN-13 978-4434337048
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885 

 Kindle版をAmazonにオススメされ、アンリミだったので好奇心でクリックしたのが運の尽き?(いやそれは著者に失礼だよな!)
 正直、最初は舐めてかかってました。ごめんなさい。
 よくある異世界BLで竜に嫁した不遇な主人公が溺愛される系だろうとの安直な予想を見事に裏切る、超骨太大河ファンタジーだった。なにしろ本は厚い、内容は重い、先は気になるで、ついついの駆け足飛ばし読みになってしまった。(これまた著者に失礼な!)。

 最初はオメガバース?と思ったが、むしろ独自設定。惹香嚢(じゃこうのう)という発情期に強烈なフェロモンを発する子宮類似器官を持つ人々が少数ながらいる世界。世の中を構成するのは人間、獣人、そして惹香嚢持ち。性的には女性、男性、両性、そして男性であっても妊娠できる惹香嚢体。小国(従属国)の惹香嚢体の第四王子が、宗主国の皇帝(実は獣人)に輿入れする事態に端を発する物語だが、主人公は全然愛されないまま話は何年も進むし、竜王と婚姻するのは主人公じゃないし、でどんどん期待を裏切られる展開にぐいぐい引き込まれる。「神山」を頂点とするヒエラルキー社会の硬直化した末期的様相や、獣人に対する差別意識や、神山に対抗するレジスタンスや、奇病の延命法を巡る壮絶な陰謀、意志を奪われた人間、それぞれの人間の立場や苦悩が描かれ、同時に登場人物のキャラが立ち、程良く強くて自立している主人公が苦難に立ち向かい、と実に濃厚で重厚な読み応えたっぷりな大河ファンタジーである。小山田あみ氏のイラストとは、モノクローム・ロマンス文庫の「ヘル オア ハイウォーター」シリーズ以来の再会で、これまた濃厚。主人公の絵柄は自分のイメージとは若干違ったが、じゃあどんな?と言われたら困るかも。

 それにしても、この話、書記官で執政を補佐してるはずのジグルトのやらかしがとにかく酷いんでないかと。主人公のセナへの個人的反感が根底にあるからか、とにかくいろいろと情報をネグって、セナ絡みの必要な情報を皇帝に上げないから、皇帝が見事に後手に回って、非常によろしくないのだ(笑)。だから、この話が進む、といえなくもないけど。最悪なのは出産時に無視放置だ。そうなった王側の事情は番外編で明かされるが、さすがにまずい。全体的にさらりとその主因となったジグルトのしでかしは流されてるけど、本人自覚しているように、これは万死に値するぞ。おかげて、セナと皇帝は関係を深めるチャンスを逸してしまうし、護衛官の白銀狼イザクにセナの気持ちをもってかれちゃう遠因にすらなっている。まあ、この三角関係の捻れは話の核心ではあるので、ジグルトは役目を果たしていると言えなくもないけどね。

書 名 「竜王の婚姻 下」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 443433705X
ISBN-13 978-4434337055
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885   

 あれほどのボリュームの上巻がアンリミであるわけだ。先が気になり読まずにはいられない。下巻をKindleで読んだあと、やっぱり紙本を手元に置きたい、と上下巻購入したので、結局下巻は2冊分購入したことに(笑)。
 とにかくアレコレあって、物語はどんどん、どんどん破局に向かってなだれていく。鱗病の蔓延、惹香嚢体の命運、最愛の男イザクは絶命し、竜王すら死に瀕し、八方塞がるなかでの唯一の望みとなるのはセナ自身の体のみ。自分の死を選ぶことで、世界の命運は繋ぎ止められるかもしれない。この決断に至る主人公が潔すぎる。ファンタジー世界だからこそ可能な、現代社会が惑う様々な社会問題のごった煮の中で、子供を愛し、人を愛する主人公の芯が物語の背骨になって、この無骨な物語を成立させている。ほんと飛ばし読みで申し訳なかったが、物語の先を読みたい気持ちに字を目が追うスピードが追いつかなかったよ。上下巻をほぼ1日で通読した。そして紙本を入手してみれば、上下巻あわせて厚さは6センチ、ページは2段組のボリュームだった。で、そのあと一週間かけてじっくり読み直した。
 
 番外編の皇帝(上皇)の気持ちが切ない。150年後の竜王の命によって贖われる世界。そういう竜王を育て上げたセナと、竜王の伴侶アスラン、その二人と竜王を、そして二人が世を去ったあとには一人で守り続けたであろう王に祝福を。

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