2025年6月8日日曜日

コミック マージナル(小学館文庫1〜3)



書 名 「マージナル」 
著 者 萩尾望都
初 出 雑誌「プチフラワー」1985年8月号~1987年10月号に連載    

 どなたかが、この作品をフェミニズムと結び付けていたのを目にした。
 正直、この作品をそういう視点で見たことは、これまでにまったく無かった。
 だって、女、出てこないじゃない。
 地球上でかろうじて女の要素があるのは、XXYの男の子だけ。
 
 しかし、たしかにフェミニズムの視点からすると、逆説的に面白い。なにしろ、女性がいない。
 2300年に突如地球を席巻した細菌汚染。海も川も湖も沼も水という水は汚れ、雑菌、プランクトン、細菌、微生物で赤くメレンゲのように泡立ち、人間は"D因子”に感染し、生殖能力を失った。人類は月や火星に逃れ、女性と大型動物が死に絶えた地上は、自然や生命が甦るかどうか、の壮大な実験場となった。
 人類はD因子に対する免疫を獲得するが、この免疫はY遺伝子にしか乗らないので、女は生き残ることができない。
 そこで、月の人類は、地球に卵子を持ち込み、地上の男達の精子によって受精させ、試験管で培養された子供たちが供給されるシステムを作りあげた。

 700年後。地上は、一人の母(マザ)と大勢の息子達による、ミツバチ型の社会を構築し、だれもその世界の在り方に疑問を持たなくなっている。しかし、マザは老いて衰え、子供の供給が減り、不安と不穏が地上に蔓延していた。

 というところからの物語。
 女性のことを考えるにしても、生殖や次世代の産出を抜きに、女性の在り方を云々することはできない、ってことを具体的が具体的に突きつけられてるところが面白い。色子制や色子宿などの、性欲解消を代替するシステムが出来上がっているのも面白い。
 地球の人口は、女性の提供卵子に支えられているってところもスゴイ。

 ストーリーを動かすのは、マージナル計画を推進するメイヤード。そしてイワンというマッドサイエンティストが創り上げた4人の子供たち(キラ)と、イワンの足跡を追う、もう一人の科学者ゴー博士。この直情で声がデカく、周囲を憚らないKYが、良くも悪くも物語を転がす。ほんとうにゴー博士はうるさいのだけど、えてして現実社会でもこういう人物が事態を推進するんだよな。

 メイヤードとナースタースの愛は切なく、アシジンは単純で健康的。グリンジャは虚無にはなりきれない。アシジンとグリンジャのキラは、死んで病んだ地球に生命の息吹を吹き込むのか。最後に残ったキラは、どちらかの、もしくは二人の子供を産むのだろうか。地上のキラの子供たち、そして、地球の生命はこれからどうなっていくのか。希望を感じさせる物語だった。

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