著 者 佐伊
出 版 新書館 2026年6月
単行本 352ページ
初 読 2026年6月22日
ISBN-10 4403221599
ISBN-13 978-4403221590
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/136178111
『竜王の婚姻』『君を転生させないために』『精霊の宿る国』の佐伊さんの、新作(紙本)。
『小説家になろう』サイトですでに読了済みながら、紙本で出版されるのを心待ちにしていた。公式には22日発行となっていたが、22日が月曜日だったため、前週金曜日には配本になってるかも!と思って新宿の書店に行ったが、「在庫無し」の表示。待ちきれず、そのままAmazonをポチった。他の店舗で購入したら、ひょっとして特典の掌編を読めたんじゃ?!と思ったんだけど、ガマン出来なかった。
オメガバース設定のBLではあるが、王政内部の政治抗争や、宗教(教会)との利害の対立、隣国との紛争・・・・が綿密に描かれて、近世(最初は修道騎士とか出てくるので近世初期くらいのイメージだったんだけど、火器が発達していたり,海軍が艦隊戦やってそうだったり、議会制が生まれてたりするので、もう少し後ろかな、と脳内で時代を修正した。)くらいの西洋風歴史ファンタジーとして、非常に非常に骨太な物語になっている。そこに、オメガバースならではの、性差別とそれに由来する各人の立場の複雑さや苦渋や危うさが緻密に織り込まれてくる。この構成力や凄い!
隠れオメガの国王エイドの深い苦悩や、まやかしの宗教裁判で姦淫の罪に問われて、還俗させられてしまった修道騎士ヴァルトルがエイドに寄せる親愛と、敬意と、純愛、ヴァルトルの叔父であるメソルトの困難な立場、メソルトとハリオとヴァルトルの関係、王太后の思惑、修道騎士の兄弟愛・・・・とキャラ立ちしている上に複雑な人間関係が絡みに絡み、非情に濃厚。その上、所々に織り込まれる、ヴァルトルの修道騎士としての戦闘能力の高さに高揚する。一行たりとも気が抜けない。読み応え抜群である。
それに、王侯貴族ものにありがちな、王族・貴族の絢爛な生活の表側ではなく、それを裏で支える侍従官目線で話が進んでいくのもちょっと異色で面白い。なんか、表はゴージャスなお店のバックヤードに迷い込んだ気分だ。
私は、「素手で殺せます」とか「素手で行います」(刺客を殺す)とか、なにかと物騒で、直裁で、周囲の思惑に忖度することなく、我が道を突っ走るヴァルトルの造形が素晴らしい。そのヴァルトルがハリオにだけ向けるちょっと甘えた言辞。ヴァルトルの台詞の書き分けがまた、素晴らしい。ヴァルトルの庇護者であるメソルトが、難しい立場にいるにも関わらずなかなかに軽やかな言動で、誰に対してもあまり変わらないのとは対称的だ。ヴァルトルと聖騎士団の仲間の関係性は胸熱だし、とにかく美味しいところだらけ、というか美味しいところしかない。個人的にはアゼルも大のお気に入りだし、アゼルとラウルの恋物語も、ぜひ書いていただけないか・・・・など。
物語は紆余曲折あるが、上巻は、メソルトの血を吐くような告白まで。
国王エイドに忠誠を捧げるヴァルトル、(もう最後までネット上で読んじゃってはいるんだけど)これ以上、ヴァルトルに苦難が降りかかりませんように!と願いたくなる。下巻は7月中旬発行。ただひたすら待ち遠しい。
書き下ろしの短編は、本編をネットで読了して、是が非にも読みたかった、あの、イワンゴの攻防戦。からのヴァルトルの宗教裁判。幕間に登場するエイドの心病んだ描写に胸が痛む。まさに「前夜」の物語。一点だけ気になったのは、ヴァルトルの愛馬(初代“暁”)がどうなったのか。イワンゴ砦の中に入るには海中からの侵入だったのだから、馬は連れて行けなかったんじゃないかと思うのよね。ヴァルトルの回想の中では、愛馬もイワンゴで死んだことになってるのだけど・・・・優れた騎士と愛馬の別れは、すごく気になる。
でもそれはさておき、何よりも読みたかった邂逅前夜の物語でした。紙本出版ありがとうございます。














