2017年5月14日日曜日

0038 Deadly Nightshade A TALE OF ENSIGN MAX ROBICAUX

書 名 「Deadly Nightshade」2015年3月
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 H. Paul Honsinger(Kindle)

 ハヤカワ文庫『栄光の旗のもとに』のマックス・ロビショー少佐の前日譚の前編。本邦未訳。
 弱冠16歳の新任少尉マックスは、〈ナイトシェード〉という名称の単座の偵察機をあてがわれ、敵領宙域でのクラーグ軍軍事演習に関する単独諜報活動を命じられた。
 それは彼の才能故ではなく、ホーンマイヤーが溺愛する彼の姪のベッドに潜り込んでいたのがバレたから。ホーンマイヤーは激怒して、マックスに厳しい懲罰を与えようとしたが、その惑星の法律では16歳のマックスが未成年であるのに対し、彼の姪のほうは年上で成人とみなされるため、マックスを正規に罰しようとすると、姪の方が厳しく罪を問われてしまう。やむなくホーンマイヤーはマックスを降格した上で、危険な敵地に追いやることにしたのだ。
で、その単独行動中にヴァーハ艦が現れ、ヴァーハに攻撃を仕掛けたクラーグは一瞬で全滅させられ、マックスはナイトシェードごと拉致されて・・・・・。
 1巻の『栄光の旗のもとに』でのホーンマイヤーのマックスへの微妙な評価の原因となったとおぼしき出来事や、マックスとヴァーハ(『栄光の旗のもとに』では“バーチ”と訳を当てている)の遭遇の経緯など、マックスのはっちゃけた経歴が明かされる一方で、恩師ミドルトンの深い愛情に心を打たれる。それにしても、極限の状況下でへこたれず、とにかく闘いつづけるマックスの精神力はどうやって培われたのやら。
 拙い拾い読みで粗筋を押さえただけだが気持ちは満足。あとは翻訳を待つ。
 不眠症気味のマックスが、母の思い出の子守歌(フォークソングか?)を口ずさんで眠りに落ちるところに、涙腺が緩む。


2017年5月6日土曜日

0037 帝国宇宙軍1-領宙侵犯-

書 名 「帝国宇宙軍1-領宙侵犯-」
著 者 佐藤大輔
出 版 早川書房 2017年4月

 銀河帝国というラベルを貼ったブランデーボトルにイゼルローン製の大衆酒をぶち込み、ちょっと旧日本軍で風味を付けると佐藤版帝国軍が出来上がる。あっかるい成立過程は伊達と酔狂、というよりはノリと酔狂。
 各勢力の描写もそれぞれ面白い。銀河帝国が一番マシに見える。”異性愛傾向を備えた童貞の妄想を形にしたような女たち”。げろげろ。近傍国家の憎悪混じる思惑のあれこれは現実の日本周辺国家を想起させられる。艦対艦戦も艦隊戦も国家間の謀略もこれから、というところで佐藤大輔氏、無念の絶筆だった。享年52歳。著者のご冥福を祈る。この年は、これ以外にも数冊の刊行が予定されており、佐藤氏、油がのりきった、というところだったろうか。ご多忙だったのだろうな、と推測する。
 この物語の続きが読めないことが返す返すも残念。だれか佐藤大輔フリークが続きを執筆してくれないだろうか。グインサーガのように。着想ノートとか、設定集とか残っていないだろうか。佐藤氏の作品はいずれ全部読みたいと思っているけど、このようなお別れは悲し過ぎる。

2017年5月5日金曜日

0036 巨人たちの星

書 名 「巨人たちの星」 
著 者 ジェイムズ・P・ホーガン
翻訳者 池 央耿
出 版 創元SF文庫 1981年7月

 目が離せないストーリー展開で、先を先をと早読みしてしまった。ちょっと勿体なかったので、中盤まで戻ってじっくり読み返す。
 それにしてもタイムパラドックスまでぶち込んできたのには恐れいった。でも、ランビアンの好戦性をあの連中に帰結させるのはちょっとチープな感じがするし、地球人悪くなーい、っていうお気楽史観に今となっては安易さを感じてしまう面もある。
 それでも、時代背景を考えれば著者が人間性に全幅の信頼を置いているのは救いかもしれない。なにはともあれ非常に面白い。最後の一文で第1部に回帰するところも感動。

《再読》
 じっくり再読したところで、あらためて。ガルースとハントの友情が良い。それにゾラックとハントも。ソ連スパイの哀愁漂う背中にぐっと掴まれ、米国人とロシア人が手を取り合う展開にまた、書かれた時代を思いつつ胸熱。書かれたのが1981年だから、当時の米ソは冷戦まっただ中、ソ連はブレジネフ、米はレーガン、中曽根は83年からか。子供心にこの頃の新聞紙面は怖かったような気がする。そんな中で描かれた米ソの協力と世界融和。平和な未来。SF作家の未来への希求がぎゅっと詰まってる。
 ついでにジェヴェックス、ヴィザー、ゾラックのそれぞれの戦いも見物。
 ヴィザーに手玉にとられるジェヴェが若干哀れを誘うけど。ゾラックの「タリ・ホー」もじつに良い。

2017年5月4日木曜日

0035 ガニメデの優しい巨人

書 名 「ガニメデの優しい巨人」
著 者 ジェイムズ・P・ホーガン
翻訳者 池 央耿
出 版 創元SF文庫 1981年7月

 ミネルヴァ独自の進化過程の解説が秀逸です。これぞサイエンス・フィクション、よくも何にもないところからこれだけの生物史を創作出来るもの。著者は本当に頭が良い。
 ところでガニメアンは高度な知性の持ち主と言いつつかなりのうっかり者です。遺伝子操作で自分の首を絞めたり、うっかり恒星を破壊したり。この壮大に迂闊な人種が宇宙を飛び回るまでに進化した、という設定が一番難があるような?
 そして最後の種明かしはやっぱりダン先生の独壇場だった。いつも美味しいところを持っていく御仁ですな。