原 題 「TO DWELL IN DARKNESS」2014年
著 者 デボラ・クロンビー
翻訳者 西田佳子
出 版 講談社 2020年7月
初 読 2020年10月22日
例によってグーグルマップとストリートビューを眺め、地理を確認しながら読む。
ダンカン・キンケイド警視は、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)殺人課から、ホルボン署(地図ではホルボーン)の刑事課に異動している。
降格ではないものの、事実上の左遷。異動から2週間たってもそのショックから立ち直れていない。で、地図を見てみると、意外や、近い。直線距離にして2kmくらいだろうか。感覚的には、桜田門の特捜部から赤坂署の刑事一課に異動になったくらい?な訳だが、やはり左遷は左遷。ましてや、育休からようよう復帰して、バリッとスーツを決めて出勤してみたら席がなかった、という惨い仕打ちを受けての転勤、という事情もあり、気持ちの切り替えが上手くいっていないキンケイド警視の物憂い朝から話は始まる。
それにしても、育休明けで職場に出勤したら、個人オフィスも机も荷物も片付けられて辞令が置き去りにされているってどんなパワハラだよ。そんな彼の鬱屈した気持ちが漏れ出ているものか、あたらしい部下達ともいまだしっくりいっていないようだ。とくに、直属のパートナーとなるべき警部補のジャスミンは何かにつけてダンカンに対する反発を隠さない。本来気さくで部下にも分け隔てのないダンカンが取扱いに困っている様子。
そんなダンカンの新しい職場にもたらされるターミナル駅の爆発事件の第一報。
事件の起きたセント・パンクラス駅は、ハリポタで有名なキングス・クロス駅の東隣で、この2駅は地下鉄のキングスクロス・セントパンクラス駅でつながっている(らしい)。セント・パンクラス駅はビッグベンみたいな立派な時計塔を持つレンガ造りの重厚な建物で、本の表紙はこのセント・パンクラス駅。各章の冒頭には、この駅の由来や歴史に関する引用がおかれているため、なにか、これらの歴史や再開発に絡んでくる事件なのかと思いきや。・・・・・そうでもないのか。
事件現場には、駅の再開発に反対する学生運動グループがいた。どうやら爆発火災の中心となった焼死体は彼らのグループの一員らしい。そして、ゆがんだ自己愛が原動力となっている学生運動グループに紛れ込む「プロ」。より大きな陰謀はまだその姿を見せず、ひそやかな気配を漂わせるだけ。不穏な空気感が全編を包む。
しかし、何より痺れたのは逮捕状読み上げのシーン。水戸黄門なみの決まりっぷり。昔の刑事ものドラマも思い出したよ。
なかなかダンカンに打ち解けなかったジャスミンは、どうやら白人の男性上司が持っている「はず」の偏見に予防線を張っていたのか。(ジャスミンはインド系のようだ。)
事件の捜査のために休日出勤したダンカンのもとに「パパの職場見学」にジェマと子供たちが訪れ、ダンカンがアジア系のシャーロットを愛おしそうに抱っこしながらジャスミンに紹介すると、かたくなだった敵愾心が氷解する。こうなるともともと優秀なので、それは役に立つ部下に大変身。
事件の真相は意外な方向に展着するが、しかし、たしかになにか別の陰謀の存在が感じられ、ダンカンを不安に陥れる。そして、ラストの衝撃。次号を待て!って感じで、くうううう。待ちきれん!
どんなに忙しくても、きちんと家に帰り、子供たちと会話を交わし、事件で心が荒んだときには子供の寝顔を眺めて癒される。優秀な警官であり、指揮官であるとともに、よき夫、よき家庭人でもあるダンカンが温かい。
なお、作中で「テムズ渓谷署」というのが出てきたが、これはテムズ・ヴァレー警察のことだよね? これまでも出てきたよね? 訳語は統一したほうが良いんじゃないかな〜?と小さな声で言っておく。
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