2019年のフランス映画です。
もう一つの潜水艦映画。
これを見ると、アメリカ映画ってやっぱりエンターテイメントなんだなあ、と実感する。
(当たり前だが)フランス語が溢れる発令所の中も米原潜とはひと味もふた味も違う。面白い。
「ウルフズ・コール」とは、謎の潜水艦が発するソナー音のこと。フランスの特殊部隊を支援する作戦任務中にこの音に遭遇した音響鑑定士のシャンテレッドは混乱して、艦種の特定や敵味方の識別に手間取り、艦と仲間の特殊部隊員を危険に晒してしまう。任務の失敗から潜水艦乗務をはずされてしまうシャンテレッドだが、どうしてもあの狼の鳴き声が頭から離れない——————
アメリカ映画なら、ここから、敵の不明艦の探索と対決、という一大スペクタクルに展開する流れだが、そうはならないフランスのエスプリ。
全身全霊集中して見たけど、2度、3度みたいとは思わないくらいシビアな世界だ。現実寄りの核戦争の恐怖と潜水艦戦の非情な世界を描き出している。細部まで集中して見て、見終わったあとに、自分の中に吹き荒れる感情を鎮めながら諸々を考える。そんな映画。見る価値ありの名作です。(と、思うのだけど、Amazonのレビューはいまいち振るわないようだ。そりゃあ、ハリウッド並みのスペクタクルを望んではいけない。これはフランス映画だからね!もうちょっと大人で、もうちょっとしっとりしているのだ。たとえ戦争映画であっても。)
主人公は鋭敏な聴覚を武器に海中で戦う『音響鑑定士』。水中の小さな音まで聞き取り、敵か味方か、艦種や武装の種類まで鑑定する。通り名は「黄金の耳」、渾名は「靴下(ソックス)」。渾名の由来は耳が良すぎて自分の足音が気になってしまうため、数ヶ月の潜水艦乗務の間、靴を履かずに靴下だけで過ごしたから。聴覚だけでなく人柄全般的にセンシティブな男。
ひたすらヘッドホンから海中のすべての音に耳を澄ませ、作戦の遂行も中止も、攻撃するかしないかも、鋭敏なシャンテレッドの耳が聞き取る音とそれに下される鑑定にかかっている。こんな繊細な奴が、何ヶ月もこんな仕事をしていたら心を病んでしまうんじゃないだろうか。でも艦長のグランシャンは彼を信頼している。
「狼の鳴き声」を放つ謎の音紋の潜水艦による欺瞞作戦のために、フランスは核戦争の引き金に指をかけてしまう。フランスの新鋭戦略核ミサイル原子力潜水艦(SSBN)レフローヤブル号を指揮するのは、シャンテレッドが尊敬するグランシャン艦長。その原潜は大統領からの核攻撃命令を受けて潜航し、いまや核攻撃の最終段階にある。電波も通信も届かない潜水艦には核攻撃中止命令も届かない。そして、潜水艦艦長に与えられた大統領命令は絶対不可侵で変更や取消は不可能・・・・・て、謎の潜水艦などそっちのけで、味方同士の潜水艦による核戦争回避のための戦い−−−−−つまりはどうやって潜航する潜水艦(味方)の位置を特定し、核攻撃中止を伝えるか、さもなければ−−−−−っていう超絶鬱展開。これを魅せる人間ドラマが良いのだ。レフローヤブルを追うために、もう一つの潜水艦チタン号に移乗して指揮を執る潜水艦部隊司令官(「私もかつては潜水艦艦長だ」)もまた、シャンテレッドの能力を信頼する。そして、レフローヤブルからの魚雷を受けて大破し、沈降していくチタンの中で、司令官は、シャンテレッドを艦外に脱出させるのだ。シャンテレッドが得たもの、そして失ったもの。
字幕だと、登場人物の階級がまったく分からないのだが、肩章である程度把握できる。シャンテレッドは少尉。チタンの艦長で中盤レフローヤブルの艦長になるグランシャンは中佐、チタンの副長だったドルシは少佐だったが艦長に昇任して中佐に。司令官は上級中将だ。音響分析センターの長官(?)も中佐。
大麻の一件は、彼がやっていたのではなく、彼女が手巻き煙草で吸っていたのを副流煙で吸収していた、ということかな、と。彼女を責める方向に話が向かないのも“らしい”と思った。大人の世界だなあ、と。(自分が納得できるかどうかは別問題。)あと、勤務オフの時もシャンテレッドがヘッドホンをしているのは、音楽を聴いているというより、もしかしたらノイズキャンセリングのためかもしれない、とも思った。
ラストの、音のない静かな世界は、聴覚を失ったシャンテレッドの世界を表現しているんだよね。彼女が後ろから近づいてくる気配も感じ取ることができなくなったシャンテレッドは、これからどんな世界を生きて行くのだろう。
この映画は真夜中に部屋を暗くして、ヘッドホン推奨。シャンレテレッドの聴いたものを、聴け!
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