原 題 「NOVEMBER ROAD」2018年
著 者 ルー・バーニー
翻訳者 加賀山 卓朗
出 版 ハーパーコリンズ・ジャパン 2019年9月
文 庫 456ページ
初 読 2021年11月22日
読書メーター
ISBN-10 4596541221
ISBN-13 978-4596541222
1963年11月。裏路地の薄汚いバーや、安っぽいガウンからおっぱいをぽろりと出している娼婦まで、街全体がジャズのスウィングに身を委ねているニューオーリンズ。熱い湿気とネオンと紫煙とウイスキーと女。美味い料理、そして、マフィア。賄賂と裏社会の人脈と危険な仕事。ギャングとしてかなりの地位を築いていたフランク・ギドリーは、11月22日、全米を震撼させた事件を知った。そして、自分が頼まれた些細な仕事が、ケネディ大統領暗殺に関わりがあると直感する。
暗殺者に仕立てられた男、実行犯であるスナイパーを手配した男、スナイパーに武器を調達した男・・・・・犯行に関係したと思しき人間が次々に消されていく。自分にも殺し屋が差し向けられるのか。今この瞬間に? この俺に?
15歳で(おそらくは)生まれ育った貧しい家を出て、ニューオーリンズで万引きで命をつなぎ、ギャングに気に入られて使い走りをしているうちに頭角を現して、今やイタリアン・マフィアのカルロス・マルチェロ(実在のニューオーリンズのマフィア・wikiカルロス・マルセロ参照)のNo.3となっているギドリー。ボスには信頼されていると思っていたが。結局は使い走りの延長線にすぎないのか。
カルロス・マルチェロはケネディ兄弟の兄、ロバート・ケネディと因縁があり、それが暗殺事件の背景の一端として語られている。
だけど、そんなこたあ、どうでも良い。
たった今ままで、裏社会とはいえ人生を謳歌していたいい男が、突如命を狙われることになり、逃亡せざるを得なくなる。裏社会の仕組みは骨の髄までしみこんでいるから自分が殺される理屈は理解できる、だがそれを受け入れるのは別問題だ。一方、追跡を命じられた男も淡々と義務を果たす。なぜならそれが仕事で、それしか生き方がない。すべてが、ボードの上のチップの代わりに自分の命を置かれたゲームのようだが、やがてその中に、紛れもなく尊いものが現れる。初めはゆきずりに利用しただけだったが、自分とは違う人間の真摯な生が、かけがえのない絶対的なものになる。そしてその存在が、ギドリーの忘れようとしたはずの過去をも揺り動かす。
孤独な男達が、それぞれに行き掛かり上道連れができて、自分で目論んだ以上の関係がもたらされる。結局は人間と、情と、愛。
ギドリーの魅力と孤独に。バローネの虚無に。ついでにセラフィーヌの愛の深さとしたたかさに。読んで、よじれて、ジタバタする。胸が苦しくて泣きそうになったら、俺のために泣いてくれ。モン・シェール。
翻訳がめちゃくちゃ良い。翻訳者は加賀山卓朗氏。ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、クロフツ、グレアム・グリーン、ロバート・B・パーカー、その他を訳出されている方だ。私の積読1000冊(すみません。反省してます。)のなかにずいぶんありそう。これは読まねば。
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