2023年4月26日水曜日

0421 警視の慟哭 (講談社文庫)

書 名 「警視の慟哭」
原 題 「GARDEN OF LAMENTATION」2017年
著 者 デボラ・クロンビー    
翻訳者 西田 佳子    
出 版 講談社  2023年3月
文 庫 608ページ
初 読 2023年4月25日
ISBN-10 4065278694
ISBN-13 978-4065278697

 前巻『警視の謀略』(2020年7月)からの続刊です。前巻の「待て!次回」状態でお預け食ってから、実に3年ぶりの刊行です。ストーリー的には、その前々巻?くらい(警視の挑戦」から引っ張っているので、関係者が多い上に、記憶がおぼろげで困った。
 シリーズが進むごとに登場人物が増えて、群像劇になってきているのと、ジェマがキンケイドの部下ではなく、自分自身も自分の抱える事件の捜査に当たっている上に、過去の事件も織り交ぜるスタイルなので、ちょっと細かくシーンを割りすぎで、読んでいて忙しない。バラバラに描かれた動線が一気に収束していくのは快感なんだけど。あと、ついに最後までジェマの事件とはクロスしなかったね。

 そんな訳で、今回は、確認の意味も込めて登場人物紹介から初めてみよう。


ダンカン・キンケイド(警視) スコットランドヤードの警視。現在ホルボン署刑事課
ジェマ・ジェイムズ(警部) キンケイドの妻で元部下。現在はブリクストン・ヒル署の警部
デニス・チャイルズ(警視正) ダンカンの元上司。ここしばらく連絡が取れていなかった
トマス・フェイス(警視正) ダンカンの現上司。ホルボン署所属。チャイルズの親友
マーク・ラム(警視正) ノッティングヒル署時代のジェマの元上司
ケリー・ボードマン(警部) マーク・ラムの部下
メロディ・タルボット(巡査部長) ジェマの部下。アイヴァン・タルボット(新聞社主)の一人娘
ダグ・カリン  ダンカンの元部下。足首の骨折がなかなか治らない
ジャスミン・シダナ(警部補)  ホルボン署のダンカンの部下。インド系
ジョージ・スウィーニー  ホルボン署刑事課。ダンカンの部下。勤務態度に問題あり
ニック・キャレリー  テロ対策司令部(SO15)の警部。
アイヴァン・タルボット  〈クロニクル〉を発行している新聞社の社長。チャイルズを知っている?
イブリン・トレント  スコットランドヤードの副警視監
リチャード・ネヴィル 同 副警視監(名前だけ登場)
クライム       同 副警視監(  〃  )
ラシード・カリーム  ダンカンが信頼する、ロイヤルドルトン病院に所属の監察医・法医学者
ケイト・リン  チェルシー・アンド・ウエストミンスター病院所属の監察医・法医学者。ジェマの友人
ダイアン・チャイルズ  デニス・チャイルズの妻
ライアン・マーシュ  前巻で殺害された秘密捜査官(警察官)
レッド  公安の秘密捜査官のハンドラー
アンガス・クレイグ  自宅に放火して拳銃自殺したと見做されている元副警視監。婦人警察官に対する暴行事件の犯人だった
エディ・クレイグ  アンガス・クレイグの妻。焼け落ちた自宅で発見されたが、射殺されていたことが判っている。
ロニー・パブコック  チェシャー州警察の警部。ダンカンの幼なじみで、ダンカンの妹の恋人
シーラ       レッド麾下の公安の秘密捜査官
リン          同
ミッキー        同
ディラン・ウエスト   同
ジム・エヴァンス    同
マーティン・クイン  『警視の陰謀』に登場する環境保護活動家グループのリーダー
リーガン・キーティング  ジェシーの住み込みベビーシッター。モデル。事件の被害者
グウェン・キーティング  リーガンの母
ジーン・アーミテッジ婦人  コーンウォール・ガーデンズ(プライベートガーデン)の管理委員会代表
クライヴ・グレン  コーンウォール・ガーデンズの庭師
ジェシー・キュージック  コーンウォール・ガーデンズに住む10歳の少年。バレエの才能がある
ニータ・キュージック  ジェシーの母親
ベン・スー  コーンウォールガーデンズの住人。息子を庭での事故で亡くした。
ヒューゴー・ゴールド  リーガンの彼氏。モデル
エドワード・ミラー  ニータの広告代理店の顧客。ジン蒸留所の経営者・リーガンの新しい彼氏
メディ・エイシャス  ライアン・マーシュが住んでいたビルの1階の飲食店店主
マッケンジー・ウィリアムズ  ダンカンとジェマの友人。ノッティングヒル在住
ビル・ウィリアムズ  マッケンジーの夫。通販会社経営
アンディ・モナハン  ブレイク中のロック歌手。メロディの恋人
ヘイゼル・キャベンディッシュ  ジェマの元大家で友人。メロディの友人
キット(クリストファー)  ダンカンの連れ子。
トビー  ジェマの連れ子。最近バレエを始めて、打ち込んでいる
シャーロット  ダンカンとジェマの養子。事件で両親を失った

 ところで今回の目玉(?)はコレ。
 キンケイドとデニスが密会したパブ。ホルボン署から程近い《ザ・デューク》。この本の楽しみの一つとして、登場するパブ、建物、通り、すべて現在すること。その気になればGoogleマップでキンケイド達の足取りを追いかけられる。そして、読んでいると、ウイスキーやらビールやら、フィッシュアンドチップスが食べたくなるのが常なんだが、今回は、ダンカンも仲間達も緊張とストレスのあまり食欲が落ちていて、読んでいるこちらもあまり食べ物に心が動かない。
 今作は前々々作の『警視の挑戦』で起こった事件まで遡り、キンケイドとチャイルズの不仲の理由や、デニスの危機、そして警察の暗部が絡み、終始、キンケイドの緊張感が強い。家族を守ること、自分や部下を守ることと正義を追求することは並び立つのか。キンケイドの葛藤と、不安と、怒りがひしひしと伝わってくる。キンケイドが追いかけるライアン・マーシュ関連の事件と、ジェマが追いかけるプライベート・ガーデン内での殺人事件、それぞれに大筋での予想は立ったが、デニス関連でのラストは、ちょっと想像していなかった。そう絡むのか!お前が黒幕か! せっかくキンケイドが追いかけてきたのに、肝心なところをデニスが語っちゃうのはちょっと肩透かしを食らった感じもあったけど、あくまでも脇役っぽいダンカンの立ち位置はそれなりに良かった。
 総じて、3年待った甲斐あり、の一冊でした。

2023年4月21日金曜日

0420 ボレロ <矢代俊一シリーズ19>




読書メーター https://bookmeter.com/reviews/113274539   

Amazonより・・・みずからもジャズ・ピアニストとして活動していた栗本薫が、音楽への強い思いを込め圧倒的な描写力を駆使して描き出す万里小路俊隆・矢代俊一父子デュオリサイタル。大成功のうちに終わったリサイタルの後のパーティでは矢代俊一グループによる演奏も行われ、評論家の絶賛を浴びつつ終了した。しかし、その翌日、情報屋の野々村からの電話があった。勝又英二も金井恭平も事務所の社長北原も同席しないという条件で話があるというのだ。しかも、会って話すというばかりで内容については一切口にしようとはしないが……矢代俊一シリーズ第19巻。

 amazonのリード「しかし、その翌日」以降は最後のほんの数ページ。メインはもちろん父子コンサート。・・・・なんだが。

 この巻まるまる、俊一と父の父子コンサートの一部始終。実は、ものすごく楽しみにしていた矢代俊一シリーズ本編19冊目『ボレロ』。だがしかし、期待値を上げすぎて敗北。
 正直なところ・・・・・いや、この巻はさ、たぶん最初から最後までコンサートだろうから、俊一の二股グダグダもあまりないだろうし、人格崩壊した透の出番もあまりないだろうし、音楽シーンだけなら結構読めるのが薫さんだから、久しぶりにいいもん読めるのではないかと、ほのかに(いや大いに)期待していたわけだ。だがしかし、だよ。

 冒頭の当日朝の自宅シーンでの俊一のセリフは、これ誰?ってレベルでイメージ崩壊しているし、(誰、っていうか薫サンご本人にしか思えない。読んでいて「中島梓」の声と絵で脳内再生される。)音楽シーン(演奏)は、すでに何回も読んだことあるような表現の羅列、大トリの『ボレロ』にいたっては、前回の自宅でのボレロ演奏を上回る近親相姦モードで、「やらしい」ってより、ただひたすら気持ち悪い。

 気持ち悪いよ、薫サン。セリフ回しや地の文も、一回でも読み返して推敲する習慣がこの人にあったなら、と、もはや言わずもがなの駄文。書かれたのは2007年初旬。ろくに後ろも振り返らずに書き飛ばしてたんだろうな。この人(薫サン)の晩節に奇跡は起こらかった。そういうことだ。
 なお、コンサート後の打ち上げの矢代俊一グループの余興ジャズ3曲につきましては、良い出来でした。

2023年4月10日月曜日

0419 ドント・ストップ・ザ・ダンス (講談社文庫)

書 名 「ドント・ストップ・ザ・ダンス」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2016年8月(単行本初版 2009年7月)
文 庫 560ページ
初 読 2023年3月10日
ISBN-10 4062934647
ISBN-13 978-4062934640
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/113021593
 園長探偵ハナちゃんシリーズ、最終作になる5作目。読んでしまうのが名残惜しい。だからって、読了に一ヶ月以上掛かったのは、読み惜しんだからではなく、仕事の超繁忙期と家庭の事情と、体力の都合ゆえ。疲労困憊で、週末毎に実家に通う往復の電車でも、イスに座ったとたんに泥のように寝落ちしてしまう日々で、毎日読めたのは数ページだったから。読み終わったときには冒頭のエピソードは忘れかけている始末だった。
 とは、もっぱらこちらの事情で。

 我らがハナちゃんは借金返済と愛する園の子供達のため、今日もがむしゃらに走るのだ。

 前作は短編連作だったが、こちらはがっつり長編。ハナちゃんの保育園に通う小生意気な5歳児の父は、今現在は売れていない小説家。妻には逃げられ、小説は書けず・売れずで、バイトのダブルワーク、トリプルワークでなんとか日々の糧と息子の保育料を稼いでいる状態。それなのに、何者かに襲われて意識不明の重体となってしまって。他には身よりのない子供を園で世話しつつ、逃げた母親を探し、一方で美味い稼ぎになるはずだった城島からの探偵仕事は、どんどんきな臭くなっていく。ヒットマンの影がちらつくころには、進むも引くもならない窮状に陥るハナちゃん。そして早朝の新宿駅のホームで背中をどつかれて、列車が進行してくるなか、ハナちゃんが宙に舞う!?
・・・・と、なんともテンポもよろしく、これでもか、と窮地の波状攻撃なのは通常運転といえなくもない。聖黒界隈で一番、不遇な男であるハナちゃんは今日も命からがらだ。
 
 それにしても、柴田よしきさんのこの聖黒関連のシリーズは、なぜか私の土地勘のあるエリアが舞台になっていることが多い。この作では東急田園都市線の青葉台駅が登場。最近は月にに数回は行っている。なぜならば、実家詣でのコースだから。駅前のショッピングセンターは東急スクエア。2フロアを占める大型書店はブックファースト。2階の雑貨ショップ併設のカフェは無印良品だ。

 凶悪犯罪と、園児のパパへの暴行事件&家庭内争議、という大型二本立てで進行するのかとおもいきや、事件はさくっと一本にまとまり、大人達が子供時代を過ごした児童養護施設で起こったある事件に行き当たる。前の作品のレビューで児童福祉の知識が寸足らず、などと批判的なことを書いたが、作者の柴田よしきさんが、このテーマに大切に取り組んでいる感じがして、大変失礼だった、とちょっと反省している。

 この作品で、聖黒の練ちゃん登場作品は読み切ったことになる。あとは、もやはネットでも読むことができない『海は灰色』の刊行を待つばかり。今年は柴田よしき氏の作品刊行ラッシュらしいので、そのうちの一冊が『海は灰色』でありますように、と切に願っている。