書 名 「清明―隠蔽捜査8―」
著 者 今野 敏 出 版 新潮社
単行本初版 2020年1月
文庫本初版 2022年5月
文 庫 432ページ
初 読 2024年3月1日
ISBN-10 4101321647
ISBN-13 978-4101321646
淸明時節雨紛紛 清明の時節、雨 紛紛(ふんぷん)なり
文庫本初版 2022年5月
文 庫 432ページ
初 読 2024年3月1日
ISBN-10 4101321647
ISBN-13 978-4101321646
表紙の写真を見て気付く。あれ?神奈川県警本部、いつの間にここに? Wikiによれば、平成3年に新庁舎完成とのこと。私、このアングルで、新港埠頭に渡る「万国橋」の上から横浜税関(愛称:クイーン/表紙の中央左側奥にあるクリーム色っぽい建物)の絵を描いたことがあるよ。
当時はMM21地区開発前。新港埠頭はさびた鎖やトラロープでおざなりに閉じられ「関係者以外立ち入り禁止」の札がぶら下がっていた。当然、赤煉瓦倉庫は横浜の旧跡ではあっても観光スポットではなく、周囲はタグボートの港湾労働者のおっさんや、外国航路の貨物船の外人船員がぶらぶらしていたし、新港埠頭の一番奥は、まだ米軍倉庫だった。(1994年に返還。)ブラタモリでもやってた廃線跡の線路もプラットホームも朽ちるままの姿でただずんでいた。私はこの辺りを散策するのが好きで、よく学校をさぼってぶらついていたものだ。当時は馬車道の中程に有隣堂の文具館があって、ここで画材を物色してから、伊勢崎町の有隣堂本店まで足を延ばすのも定番のコースだった。
そんなこんなが懐かしい、横浜・神奈川が新たな舞台となる竜崎警視長の隠蔽捜査シリーズ第8巻。竜崎は大森署長から神奈川県警本部の刑事部長に昇進(返り咲き)して、シリーズの新たなステージが開幕した。
横浜、関内、伊勢佐木長者町、中華街、山手・・・・すべてが懐かしい。ついでに言えば、町田界隈も、十分に土地勘はある。そして事件は地元神奈川県民には神奈川県町田市、と揶揄されるエリアで起こった。地番こそ東京都町田市・・・・・ではあるが、三方を神奈川県に囲まれた場所にある公園で、他殺死体が発見される。当然犯人は神奈川県側に逃げた可能性が高く、警視庁と神奈川県警の合同捜査本部が設置され、現場大好き伊丹が臨場するとなれば、神奈川県警側も刑事部長を押し出さないわけにはいかず。
警視庁を離れ、県警に赴任した翌日には捜査本部が立ち上がり、またひな壇幹部席で伊丹とイスを並べ、警視庁の田端捜査一課長や岩井管理官と顔を合わせることになったのだった。
犬猿の仲、とのウワサの警視庁と神奈川県警。よく知っているはずの警視庁の面々であるはずなのに、気心しれた伊丹の態度にも見えない壁を感じる竜崎だが、捜査が進むにつれ、自分の部下の立場を守り引き立てつつ、地の利も生かして捜査を主導してやがては全体をまとめていく竜崎の指揮ぶりが素晴らしい。
今回、一番気に入ったのは、阿久津参事官。
「奥様のご様子はいかがですか」などと気遣いをしているのに、あまりに周到で整いすぎているために、かえって竜崎に「足元を掬おうとしているのでは?」とうさん臭がられている。(笑)
その阿久津参事官は、処分を予想した竜崎が「短い付き合いだったかもしれない」と言うのに対し。
「万が一、そんなことになったら、警察というのはつまらないところだと思います」
と、言う。そして、警視庁に(叱責を受けに)出かける竜崎に対して、
「お戻りをお待ち申し上げております」
ときたもんだ。そして、戻ってきた竜崎に対しては
「お帰りなさい。今日は、これからどうなさいますか?」
・・・・これもう、妻のセリフだよね。
そして、最後に。
「部長も、本当にごくろうさまでした」
ああもう、これすでに心酔してるでしょう。(笑)
次巻以降、竜崎の阿久津の掛け合いが楽しみでしょうがない。
《参考》
清明 杜牧淸明時節雨紛紛 清明の時節、雨 紛紛(ふんぷん)なり
路上行人欲斷魂 路上の行人、魂を絶たんと欲す
借問酒家何處有 借問す、酒家 いずれの処にか有らんと
牧童遙指杏花村 牧童 はるかを指さす 杏花の村
借問酒家何處有 借問す、酒家 いずれの処にか有らんと
牧童遙指杏花村 牧童 はるかを指さす 杏花の村
(訳) 清明の季節なのに、霧雨が降りしきっていて
濡れそぼった道往く旅人(私)は、気持ちは沈み心折れてしまいそう
(せめて酒でも飲めないものかと)牛飼いの少年に
どこかに酒家はないか、と戯れに尋ねてみれば、
牛飼いの少年は、遠くに見える杏の花が咲き乱れる村を指さした
※ 清明 二十四節気の4月上旬から中旬
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