2024年12月30日月曜日

0529 魔導の福音 (創元推理文庫)

書 名 「魔導の福音」
著 者 佐藤 さくら         
出 版  東京創元社 2017年3月
文 庫 416ページ
初 読 2024年12月29日
ISBN-10 4488537030
ISBN-13 978-4488537036
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125054248

 佐藤さくら氏、デビュー作である『魔導の系譜』の続編。
 前作で内戦が起きたラバルタの隣の大国エルミーヌが舞台。この世界では魔導士はいずれの国でも疎外されているが、その程度はそれぞれに違う。ラバルタでは、魔道士はヒエラルキーの最下層と見做され、蔑視されてはいるが、魔術は戦力としての役割が重視され、魔導士は歩兵と同等に見做される。一方のエルミーヌは、魔力を持つものを「魔物棲み」として忌避するバルテリオン教の教義が浸透し、徹底的に魔導士が迫害され、魔力を操る力を持つものは「魔」が憑いたとされて、見つかり次第殺されるか、薬を飲まされて心身の自由を奪われ、収容所に隔離される。もう一つの国、シェールは、一番北方で厳しい気候を乗り切るための火をおこしたり、暖を取ったりする生活魔法が重視され、魔導師は地域の“暖房”を担うために一線を引かれながらも重宝されている。そしてこの話の舞台はエルミーヌ。

最近どうにも人名が覚えられなくなっているのと、巻頭の登場人物一覧があまりにも素っ気ないので、人名一覧を作成。

【エルミーヌ】
カレンス・ドナテア 地方領の貴族の嫡男 
リーンベル     カレンスの妹 
ドナテア卿     カレンスとリーンベルの父 
リリア       カレンスとリーンベルの母。熱心なバルテリオン教の信者で、魔を発動した
          娘を受け入れることができなかった。
クライヴ      ドナテア家の老家令。別館を守っている。
バート       ドナテア家の家令。クライブの息子。
ナタリア      ドナテア家の使用人 。別館に仕えている。
サイ・レスカ    カレンスの幼馴染・親友。田舎医師の息子。 
ドロシー      サイの祖母、産婆。サイと暮らしていた。
ヴェンデル     エルー領主。優柔武断で判断をカレンスに委ねがち。
ラナン       エルーの聖導院長。強硬な「魔物棲み」排斥者。
ルーク       王立学院の学生寮の寮監。カレンスやアニエスを擁護していた。 
アニエス・リリタヤ・クレール  同学院の生徒。賢く、剣技にも馬術にも優れた女性。
          同性愛者でもある。
ヴィクター・イザール 同学院の生徒。アニエス、カレンスの親友。大貴族の嫡男。
テレジア・バーテル ヴィクターの婚約者。アニエスに憧れている。
ルシアン      アニエスの長兄。アニエスは家を勘当されているが、アニエスを庇護し
          ている。
セドナ       旅芸人一座の一員。アニエスが一時期一座に身を寄せていた。
カンネ       エルミーヌの女王。若くして王座についた。
          美女ではないが、知的で合理的精神に富んでおり、国防と国民に対する
          福祉に心を砕いている。国内で見つかるや殺されてしまう『魔物棲み』
          の救済と魔導技術の導入による戦力強化を図ろうとしている。
シュゼ・フラセット 地方貴族。カンネの腹心。
アザイア卿イングウェイ  エルミーヌ国内のバルテリオン教聖導師の総主
          王立学院ではフラセットの親友だった。 
バルドゥム     エルミーヌの元第一王位継承権者。カンネの兄。精神を病んで廃嫡。

【ラバルタ】
レオン・ヴァーデン 魔導士。現在はラバルタを逃れてシェールでレオンと暮らしていた。 
ゼクス       レオンの弟子。レオンと二人でシェールの寒村で暮らしていたが。
ガトー・ヒルデン  騎士。レオンの親友 
ジェイド      ガトーの部下。諜報員 
アスター      現・ラバルタ国王の末弟。魔導士。内戦の主導者。内戦終結後は、自治
          区の統治からは身を引いて、市民の一人として復興に尽力していた。
フィオ・コンティ  魔導士。内戦後は、市井の魔導師として地味に暮らしていたのだが、アス
          ターに乞われて、エルミーヌへの第二次魔導師派遣団の団長に抜擢される。


 主人公のカレンスが、どうにも煮え切らないというか優柔不断、妹が殺されたことを唯々諾々と受け入れてしまうところなどは、なんともモヤモヤする。しかし、ものすごく意志がつよかったり優秀だったりするわけではない善人であるところにかえって現実味がある。

『いつだって自分を安全な場所に置いて、そこからできることしかしてこなかった。そんな自分の卑怯さを憎んでいた。』

 このカレンスの内心は、誰にでも心当たりがあるのではないか、と思ってしまう。等身大の卑小な自分をイヤでも思い出させられるのが、居心地が悪いようで、もっと読みたくなるようで・・・・。

 前半はそんなカレンスの学生生活の描写が中心で、話がどこに向かうのかわからない。しかし物語半ばで、内乱終結したラバルタのカデンツァ自治区から魔道士団が派遣されてくる、という話が出て来て、一巻目の面々とつながりそうな気配が見えてくる。それでも大したことは起こらずモヤモヤとしたまま、カレンスが父の急な病で学院を去り、所領に戻るところまでが前半。

 そこから、殺されたはずの妹のリーンベルが実は生きていたり、シェールの田舎町で暮らしていたレオンが魔道士を狙った盗賊団に拉致されてエルミーヌに連行され、負傷した状態でカレンスに保護されたり、でおもむろに話が動き出す。
 相変わらず、レオンはあまり自分ではなにも出来ないくせに、物語を動かす(笑)。すでに「お姫様ポジション」といっても過言ではない。狩りから帰ってきたらレオンが攫われていたゼクスの心中や、察するにあまりある。前作に続き、またもいなくなった師匠を探すはめになるゼクスである。

 なぜ、カンネのような突然変異的な女王が生まれたのか、という疑念については、作中でちゃんと説明されている。心を病んだ大好きな兄。街で虐げられている人々は兄につながり、兄への愛は、国民への視線につながったのだ。 

 差別や無益な殺害を廃するためにも、国民の幸せのためにも、なにより王として国防の力を強めるためにも、魔道士教育を国内で復興させたい女王カンネの意志が、辛うじてレオンとゼクス、カレンスらを助けるよすがとなる。女王の意向を後ろ盾に、収容所の管理者として「魔物棲み」の処遇改善に乗り出すカレンス。カレンスに乞われてエルミーヌの魔道士教育の一歩を踏み出すレオンとゼクス。物語はまだ続く。

 レオンは教師として大成してほしい、と前作から願っていたのだが、なんだか実現しそうで嬉しい。レオンが(実際にはカレンスが、だけど)作った学校がいずれ後世で〈鉄の砦〉に匹敵する魔道士の養成機関になったらよいな、と妄想中。

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