原 題 「MEMORIAL do CONVENTO」2004年
著 者 ジョゼ・サラマーゴ
翻訳者 木下 眞穂
出 版 河出書房新社 20251年7月
単行本 368ページ
初 読 2026年9月19日
ISBN-10 4309209300
ISBN-13 978-4309209302
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/137959183
久しぶりの純文学。そしてノーベル文学賞作家様。独特な文章で、改行がほとんど無い。ページの中が文字で四角く、真っ黒である。2段組がありがたく感じる本て、あまりないような気がする。地の文の中に作者の見解と人物の台詞が渾然一体となっていて、読点がほとんどなく、句点で文章がどんどん続いていく独特な文体。翻訳者様も、かなり苦労されたよう。しかし、文章に独特なリズムがあって不思議と読みにくくない。だがしかし、そのリズム感がアダになって眠くなる。とても眠くなる。まるで催眠術を掛けられているようだ。
作中、時代は1710年代〜。場所はポルトガル。当時のポルトガル王ジョアン5世は王妃マリア・アナとの間に子供が生まれることを願い、子が生まれたならば修道院を建てる、と請願する。そして王妃は懐胎し、王はマフラに修道院を建築する。(マフラ宮殿。)
その修道院建設計画が、王の欲望?ゆえにどんどん拡大し、ついにはサン・ピエトロ寺院に比するような、との願いとなるが、そこは周囲の廷臣が必死に?押さえて、現存する規模になったとかならないとか・・・・
このマフラ宮殿には、一度行ってこの目で見てみたい。宮殿・教会・修道院に加えて図書館や病院などの公共施設も合築されていたらしい。
主人公のバルタザールはなぜか、浮世離れした感じのポルトガル領ブラジル出身の天才肌の神父様とお近づきになって、この神父様の夢(空を飛びたい)に巻き込まれていくのだけど。
バルタザールと神父様のこの雰囲気は、堀田善衛の『路上の人』に似ている気がする。路上の人も読みかえしたくなってきた。そんなだから、神父様が死んでしまうのではないかと、読んでいて気が気ではなかった。結局神父は死んでしまうが、少なくとも心配した暗殺や、異端審問で火刑、ではなかったのは救いなのかそうでないのか・・・・
物語はバルタザールとその恋人のブリムンダ、そして件の神父様の三人を中心に進んでいくのだが、しかし、その中身はかなりぶっ飛んでる。(文字通り)
バルトロメウ・ロウレンソ神父様の願いは、飛行機械で空を飛ぶ、というもの。まあ、ダ・ヴィンチみたいな感じと思えば、なくはない。だが、その方法が!
目指した技術は、なんと空力を通り越して、もはや反重力装置といっても過言ではない。そして、その動力となるのは“エーテル”。そしてそれが宿っているのは人間の体。人間の肉体から抽出した“意欲”なるものが、地上のエーテルなんだと。そして、飛行機が飛ぶためには、この“意欲”を集めねばならぬ、ブリムンダには、人の体の中の“意欲”が灰色の雲のように見える。見えるのと扱えるのはまた違うだろうとおもうのだが、ブリムンダはその“意欲”なるものに瓶の中に入れ、と命じることが出来るらしい。
かくして、死ぬ間際の人間から“意欲”を集めるブリムンダ。
なんだか錬金術から黒魔術に至りそうだ。そして、その技が人に知られることがあったならば、異端審問間違いなし。しかし、かくして、飛行艇は飛ぶのだ。
一方で描かれるのは、当時のポルトガル王朝と国王ジョアン五世が発起したマフラ修道院(マフラ宮殿)の建築にまつわるあれこれ、王家の爛れた内情、イカれたキリスト教、そして民衆の暮らしぶり。非キリスト教徒?無宗教?の著者が描くのは、身もフタもない堕落したキリスト教の内実である。たいだい、修道院で暮らす修道女が、のきなみ国王のお手つきだなんて、言われるまで想像だにしなかったよ。1700年代って、いまからたった300年前、日本だったら江戸中期である。なんかキリスト教って、ヨーロッパって、野蛮で未開だ〜という認識がさらに深まってしまった。現代の政情をみてうっすらそう思ってたけど、ヨーロッパ文明って・・・・ありがたがる程のことねーよな、って思わされてしまった。
そうはいっても、読後感がそう悪くないのは、ブリムンダの純愛のおかげだ。人間のダメさ愚かさを描きながら、男女の存在の深さが浮き上がってくる、不思議な作品であった。

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