原 題 「Leave the Grave Green」1995年
著 者 デボラ・クロンビー
翻訳者 西田佳子
出 版 講談社 1996年2月
初 読 2020年11月11日
フィンジストのチェッカーズ・インのパブで、ダンカンと待ち合わせするジェマ。注文はいつもダンカンにからかわれているライムを添えたラガービール。パブの扉が開いて、静かに隣の席に現れたダンカンにドキッとする。ジェマが後から車で駆けつけたところをみると、トビー坊やを保育園からひきとって、そのまま実家に預けてきたのかな。
グーグルマップを矯めつ眇めつして、やっと“フィンジストのチェッカーズ・イン”を発見。スペルはFingestで、地図上の表記は“フィンゲスト” やっと作品の地理を把握した。
左の写真はチェッカーズインの正面。料理は田舎風の素朴かつボリューミーなフライや肉料理。うーん、月に一回くらいの頻度で、この店に通いたい。フライドポテトの写真がめっちゃ美味そう。魚のフライの添え物などではない。ボールに山盛り、ドン。ダンカンもポテトチップスなんぞ喰わずに、フライドポテトを注文すればよかったのに。
この宿から一本道を南に下ると、テムズに出る。なるほど、自然の地形を利用して川を縦に遮る堤が小規模なダムになっているらしい。この堤の上部はそのまま簡単な鉄柵を回した細い遊歩道となっている。そして、向こう岸側に船を通すための水路と水門。ここが事件の現場である。
「ああ、昔からそういうことが好きだった。コナーほど本格的じゃないけどね。僕の料理はオムレツやピザトーストばかりだから」
と、答えるキンケイド。なるほど、昔からそういうことが好きだったのね。それが、『警視の哀歌』の育メンの日々で“日に日に凝った料理”に昇華したのね!こんなにマメに愛する妻に尽くすタイプの男を捨てるとは、前の奥さんもなんて勿体ないことを。もっとも、彼によると仕事に忙しくして妻にあまり構わなかったことが離婚の原因らしいのだが。
一作目の“警視の休暇”から端々に引きずっていた、元妻に裏切られた傷つきに加え、今後に尾を引くことになる元妻母との確執の一端が明かされている。あのキンケイドが、警官という職業や育った環境の違いで元妻両親からは蔑まれ、疎まれていたらしい。
”ヴィクの両親は、育ちのいい人間がそうでない人間を見るような視線を投げかけてきた。・・・いたたまれない気持ちだった。保守的とはいえない自分の家族を恥ずかしとさえ感じたのを覚えている。”
テムズ川の水門で発見された男の水死体。テムズ・ヴァリー警察の管内の事件ではあるが、死んだ男の姻族が地元の名士で有名な音楽家一家であったことからスコットランドヤードの警視監に捜査依頼がくる。キンケイドは捜査を命じられて、ロンドンか50キロほども上流のハンブルデンにやってくる。
死んだ男はどういう人物だったのか。関係者に聞き込みすればするほど、男のことが良く分からなくなる。酷い夫、賭け事、仕事熱心、誰からも好かれる男、女好き、悪い付き合い、優しい恋人・・・そんな断片をモザイクのようにつなぎ合わせたときに、同時に見えてくる名家の醜聞。死んだ弟。しいたげられて、歪んでしまった姉の人生。
そして、そんな育ちが原因で夫に愛を与えることが出来ずに苦しんだジュリアと、妻に裏切られて苦しんだキンケイドが自然の成り行きで求めあい、許しを与えあうことで癒やされる。一方で、そんなダンカンの変化を敏感に捉え、嫉妬を覚えるジェマ。なんて厄介な。
そんなこんなで諸々あって、事件解決後、ジェマの車でロンドンに帰る途中に以前からダンカンが痛んでいると指摘していたジェマの車のタイヤがパンクし、豪雨の中でタイヤを交換する羽目になった二人は、ずぶ濡れで冷え切ってダンカンのアパートに辿り着く。せめて体を乾かし、暖まってから帰ってくれ、と頼むダンカンと供に彼の部屋に入り、濡れた髪を拭いてもらうジェマ。そして気持ちを抑えきれず、二人はついに一線を越えるのだ。
ダンカンにとってはジェマと結びつくのは必然だったけど、ジェマの方には理解を超えた成り行きで、ダンカンを求める気持ちと自分のキャリアを守りたい気持ちで大混乱して恐慌状態に陥る(笑)。ダンカンが一人で幸せになっちゃっているところが、次作がそら恐ろしい終わり方なのだった。
最後に、料理自慢のチェッカーズインの素朴かつ美味そうなメニューを。
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