2020年11月7日土曜日

0229 警視の哀歌

書 名 「警視の哀歌」
原 題 「The Sound of Broken Glass」2013年  
著 者 デボラ・クロンビー  
翻訳者 西田佳子 
出 版 講談社 2018年2月 
初 読 2020年11月6日

 復職したジェマに替わって、育休中のダンカンの主夫ぶりが素晴らしい。
 愛娘となったシャーロットのバギーを押してランニングし、ご近所のあらゆるママ友グループににこやかに加わり、料理の腕まで上げている。さらに、影ながら妻を支え、励まし、援助する、まさに主夫の鏡。であるところがかえってジェマのコンプレックスを刺激しているが。(笑)
「もちろん、わかってるのよ」とジェマがこぼす。
「シャーロットが新しい生活に慣れてくれないと、ダンカンは仕事に戻れない。そのことを気にかけているはずなんだけど、あまり口に出さないの。いつもにこにこして、料理研究家のナイジェラ・ローソンみたいになってきたわ。食事のメニューは日に日に凝ったものになっていくし、テイクアウトの料理でも買ってこようっていっても、鼻であしらわれるだけ」

「ダンカンはとても頭のいい人で、職場では大きな権力と責任を持ち、難しい仕事をこなしていた。ノティング・ヒルじゅうのママ友グループに顔を出してはシャーロットの友だちを作ろうとしたり、料理に凝ったりするのが、ダンカン流の主夫業なんでしょうね。家でだらだらテレビをみてるような人じゃないってことは、わたしもわかってたもの。けど、なんとなく……」 
 贅沢な悩みだが、判らなくもない。

 そのジェマは、連続殺人事件の捜査中。安ホテルで全裸で緊縛された姿の絞殺死体。被害者は二人とも法廷弁護士。だが、なかなか二人の接点が見つからない。キーになるのは遺留品の繊維と地理、クリスタルパレスとダリッジ。関連の細い糸の結び目にいるのは、まさにいま、ブレイクしようとしているギタリストのアンディだった。
 ジェマとダンカンがふたりしてジタバタしていると、面白いけどせわしなくなるけど、今回はダンカンが主夫業のかたわらジェマのバックアップに徹しているので、ストーリー全体がぐっと落ち着いて読みやすい。と、いうか安心。
 ジェマの部下のメロディは、あろう事か事件の関係者の一人であるアンディと恋に落ちる。でも、自分の事を考えるとメロディを責められないジェマ。なんといったって、仕事中に直属の上司である警視と恋に落ちてしまった巡査部長を知ってる。(笑)
 
 キンケイドの主夫ライフも読んでいて楽しい。良く出来た夫で、子供達を世話し、遅くなる妻の帰宅時間に合わせて夜食と冷えたワインを用意する。父親役も頑張っているが、彼は子供達が赤ん坊のころから父親だったわけではない。今ある姿は彼の努力のたまものである。家族でまったりする予定だった休日に突然ジェマが朝から出動すれば、にこやかに妻を送り出したものの、大騒ぎの幼子達にお手上げになってしまうのが微笑ましいかぎり。そんな彼と家族を助けてくれる友人達が沢山いる。
 近所のママ友が集うコーヒーショップで仲良くなった友人(!)の援助もあって、シャーロットの保育園問題が解決。シャーロットがとにかく、とにかく愛らしい。少しずつ登場する息子達、とくにキットが、思春期の入り口らしい成長を見せている。刊行始めの頃のダンカンが、バツイチとはいえ、気侭な一人暮らしのちょいと軽めの良い男風だったのが、すっかり堅実な家庭人になっていて、こういう変化もすごいな〜と思う。

フーリーメーソンズ・アームズのフィッシュアンドチップス
今回は、ロンドン市内の狭いエリアの事件なので、地図はなし。その代わりといっちゃ何だが、この本を五感で楽しむために出向いた週末のブリティッシュ・パブの料理の写真でもどうぞ。しかし、お腹があまりすいていなかったので、フィッシュとパスティを1ピースしか頼まなかったせいでもあるが、ボリュームが寂しいな。
 お腹の空き具合はともかくとして、イメージしていたのはこんなの→
ブリティッシュ・パブ《HUB》の
フィッシュアンドチップスとパスティ(肉詰めのパイ)
どちらもお酒のつまみらしく、指でつまめるサイズ
味は文句なく美味

←実際はこんな感じでした。
飲み物はホースネック。メニューにはなかったけど、尋ねたら作ってくれました。(家で自分がホースネックと称して飲んでいたものとは別物だった。)
でもこれぽちのオーダー(1500円以内)で、週末のゴールデンタイムに一人で席を独占し、読書したのにイヤな顔ひとつしない店員さんありがとう。今度いったときにはもっと食べます。いや飲みます!
 英国パブ気分を味わえたかというと、まあ割り箸が出てきた時点で微妙ではあった。WW

さて、ストーリーに戻ろう。 

 ダンカンも本当は内心、ちゃんと復職できるのか、家計は持つのか、さらには育休延長を願い出たときの警視正の言動も不審で、不安が募っているのだ。しかーし、それを打ち明けるのが妻のジェマではなくマッケンジーであってよいのか?天然の女たらしぶりは相変わらずのよう。
 ストーリーは、時間の流れとともに自然にほぐれたはずの糸が、再びクリスタルパレス、という場所にたぐり寄せられ、もつれてがんじがらめになる、という苦しい、そしてクロンビーお得意の展開。そして、初めは軽く、遠慮がちにジェマの捜査にアドバイス入れていただけなのに、やはり発揮する“警視”の存在感。指揮してるし。

 そして晴れて迎えた警視殿の復職の日。バリっとスーツを決めて颯爽と出勤した彼を待っていたのは。ラストはある意味衝撃的。こんな目にあったら鬱で休職するよ。イヤだ〜〜!正直いって、小説には描かれていない、その後、ヤードからどうやって撤収したのか、とか、家に帰ってからどれだけ落ち込んだのか、とか想像するだけで気の毒でしょうがない。

1 件のコメント:

  1. キンケイド警視シリーズは読破予備軍に入っております、グルメにも注目しながら読んでみたいですね。
    一度でいいからイギリスやアイルランドのパブでエールビールとフィッシュアンドチップスをビネガーをガンガンかけて食べてみたいです(^u^)
    HUBのフィッシュアンドチップスはよく食べてますが確かにもうワンランクボリュームをアップしてもらいたいですね。(猿吉君)

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